13 魔王飯尾くんの横暴
飯尾くんはさらりとした前髪を、気障ったらしくかきあげた。私を流し見る切れ長の瞳は女形のように色っぽい。
「ふぅー。今さら気がついたのか。やはり咲谷はアホだな。これだから僕が見ててやらないと」
大袈裟にため息をつかれ、イラッとする。
「見ててやるも何も、飯尾くんは自転車通学でしょ? 雨も降ってないのに、どうして電車に乗っているの?」
「咲谷、明日は特訓だ! 朝6時に緑町中央公園に来い!」
「もうっ、話を聞いて! しかも朝、早過ぎるよ」
「まさか僕の誘いを断るのか? クラスの栄光を何だと思っているんだっ!」
クールっぽいビジュアルにそぐわない熱い性格。球技大会に関してはほぼ私情だが、一種独特のカリスマ性があるからか、魔王飯尾くんはモテないこともないこともない。一般受けはあまりしないけど。
でも話を聞いてくれないし、絡みが非常にしつこいから、私はちょっと苦手だった。
「ちゃんと練習するよ。それならいいでしょう? 私だってできれば優勝したいし、皆に迷惑はかけたくないのは同じだよ」
連日の飯尾くん対応に疲れ果てていた私は、せっかくの土曜日に彼と会うことは避けたかった。
「ね? 私もクラスのために頑張るから!」
少し背の高い飯尾くんを見上げて懇願する。もしかしたら泣きそうな顔をしていたかもしれない。
「ぐはぁ! あざといっ! なんだその潤んだ瞳で上目使いとかあざとすぎるぞ! ハッ……まさかまさかすべて計算づくなのか?! けしからん、けしからんぞ、咲谷!」
「ねぇ、飯尾くん……。あなたが何を言っているのかわからない……」
困惑するしかない私を置き去りにして、彼はにやりと口角をあげた。邪悪な魔王スマイルが堂に入っている。
「じゃあ、約束しろ! もし明日、女子バレーが負けたらお前のせいだな」
「うん……たしかに、そうかも……」
「だろ? だから負けたら罰として、この僕の僕になってもらう」
「僕って……」
私は不穏な響きに眉をひそめる。飯尾くんは頗る上機嫌だった。
「そうだ。学校ではもちろん、私生活でも使い倒してやるからな!」
「え?! そんなのイヤっ!」
「ふん、もう遅いわ。くくくっ……じゃあな!」
またしても飯尾くんは華麗に私の質問をスルーすると、2本の指を額から離す仕草をし、無駄にカッコよく次の駅で去っていった。
「花」
呆然と飯尾くんを見送る私の頭上から気遣わしげな声が降ってくる。
「逞先輩……」
「ごめん。今の話、聞いていた。もし良ければ明日、俺と練習しないか?」
おりるはずの駅を通りすぎてまで、先輩は心配して声をかけてくれたのだ。お友だちはどうやらさっきの駅でおりたらしい。
「! お願いします」
魔王の僕になりたくない私が頼ったのは、優しい逞先輩だった。
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