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12 致命的な弱点

 あれから2週間後。ここは緑町駅のホーム。私は自分の青くなった腕を見つめていた。筋肉痛で身体が軋むように痛い。


 そもそも球技が苦手な私が、ドッジボールを希望していたのは「人数が多いので下手でも悪目立ちしないだろう」というなんとも消極的な理由だった。


 しかし魔王飯尾くんひきいる男子軍団の食欲に気圧けおされた女子たちが、私と同様の考えに陥り、ドッジボールに殺到することになるとはまったくの予想外だった。

 結果、私はバレーボールに参加することに……。


 亜未ちゃんと一緒にできるのはうれしいし、心強いのは間違いない。その一方で私以外の全員が、バレー経験者という事実。足手まといになることは許されない雰囲気に、プレッシャーで胸が痛くなってしまう。


 朝、昼、放課後。時間を惜しんで練習を重ねる毎日は疲労との戦いだった。


 成果はそれなりにあったと思う。スパイクを打てとか、ブロックを決めろとか、難しいことは最初から私に期待されてはいなかった。コート上でお邪魔虫にならない程度の、最低限のレベルに到達していれば良い。でも私には致命的な弱点があって……。


 そこまで振り返ったとき、沈み行く思考が中断された。


 プルルルルル……


『間もなく電車が参ります。白線の内側までお下がりください』


 6月下旬ともなれば日はかなり長く、特訓を終えた7時過ぎでも、まだ西の空に太陽が残っていた。それでも確実に迫る夜の訪れと、やがて明けてしまう空。近づいてくる月曜日の足音に私は本気で怯えていた。


(もう週明けには本番なんだよね。どうしよう……。このままだと皆に迷惑をかけちゃう……)


「咲谷は土日も特別メニューで特訓だな! サーブが入らないんじゃ、試合にもならないだろっ!」


 横から割って入るのは魔王飯尾くんの声だった。自転車通学の彼が、こんなところにいるはずはない。


(疲れすぎて、幻聴が……。飯尾くんったら、必ず練習を見に来てくれるのは良いんだけど、抽象的すぎてよくわからないアドバイスを沢山下さるんだよね……。はぁ……飯尾くん対応にも疲れちゃったなぁ)


 でも幻聴の言う通り、問題はサーブなのだ。サーブ順を6番目にしてもらったところで、決して逃れることはできない。1点を巡る攻防が予想されるのに、サーブを決められないなんて……。残念すぎる自分に嫌気がした。


 電車の扉が目の前に来て、私は下手なマリオネットのようにぎこちなく足を持ち上げる。特に今日は最後の練習なので気合いが入っていた、もうヘトヘトだ。

 そのうえ、帰宅ラッシュと重なった車内は、いつもと違って座れそうもない。私は扉の近くの手摺に掴まり、うつむいてため息をつく。


「なぁ、逞。夏休みなんだけどさー」


 すぐ近く、扉を挟んだ反対側から声が聞こえてきた。たまたま耳に入ったその名前に私は思わず顔を上げる。


(あ、逞先輩……)


 何だか泣きそうになってしまい、見つめているとごく自然に目が合った。部活帰りらしい先輩はお友だちと一緒だ。帰り道に会えるのは初めてだから緊張する……。

 話しかけられずにいた私から、先輩の目が静かにその横に移った。


(ん?)


 先輩の視線を辿れば、なぜかそこに魔王飯尾くんがいた。


「なんで、飯尾くんがここにいるの?」

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