1 恋の始まり
初めて現実世界恋愛を書きました。1話目最後に、いただきものの表紙イラストがあります。
「これを受け取ってほしい」
ここは駅のホーム。付き出された薄いブルーの大学ノート。
私の目の前にいるのは、制服の白シャツと黒ズボンを履いた見知らぬ男子高校生だった。
私と同じ高校の生徒だったら男子はチェックのズボンだから、彼は間違いなく他校の生徒に違いない。
爽やかな短髪に、肩からぶら下がるスポーツバッグ。夏には程遠いこの季節。既に焼けた褐色の肌は、彼が運動部であることを雄弁に物語っていた。
「えっと……どちらさまですか?」
私はおそるおそる問いかけた。背の高い彼と問題のノートを代わる代わる見つめて。
まだ朝も早いため、駅の構内は閑散としている。そもそも地方都市のこの街は、通勤通学のラッシュも都会のそれとはまったく違う。
今だって、私たちの会話を静けさの中から拾ったサラリーマンが、新聞を片手にこちらを見ていた。
「1日おきに、君と同じ電車の同じ車両に乗ってる」
男子高校生の残念そうな声音に、私は思わず肩を竦めた。
「ごめんなさい。私、周りをよく見てなくて……」
私は通学の時間をすべて読書にあてているので、いつも座ると同時に物語の世界へと旅立ってしまう。今日もまた読みかけの小説を読んでいたら、車内アナウンスで学校の最寄り駅に着いたことを知り、慌てて現実を取り戻したのだ。
「ところで、これは何ですか……?」
私が遠慮がちに受け取ったそれは、近くで見ても何の変哲もない大学ノートだった。まっさらで綺麗なままの表紙。きっとまだ下ろして間もないはずの。
「じゃあ!」
「え?!」
そうして彼はぶっきらぼうに言い捨てると、踵を返して走り去った。颯爽と消える後ろ姿。置き去りにされた私と謎の大学ノート。
私は1人呆気にとられていた。
「どうすればいいの?」
戸惑う気持ちの拠り所に、大学ノートを見つめてみる。なんだかそのページを開くと何かが起こりそうな気がして、まだ読む勇気が出なかった。
あれは4月の終わり。新しくなった生活。また1つ大人へと近づいた自分。
私の一生ものの恋は、ある日突然訪れた。
©️ やなぎ いつみさま
表紙はやなぎいつみさまよりいただきました♡
やなぎさまは、ワンちゃんと飼い主さんの心温まる交流を描いた『続く、僕の幸せな日』(https://ncode.syosetu.com/n6654gd/)
というすてきな物語を書かれています。
短編なのでサクっと読みやすく、それでいてとても感動させてくれるお話です(*´꒳`*)