森の鬼
森のおくへ、行った日のことを、いつまでも遠い記憶の中にあることを示すこともせず、ただ、いつまでもいとおしい夢の中に、楽は奏でたのだ。遠い日々が、旅で続いていた。いつもような日だった気がする。そう、あくまでも、そういう気がするだけなんだ。
ボクが森のおくへ、行くことを考えたのは少し前だった。この森には鬼が出る、という噂を聞いたのだ。この森の名前はなんというのか、それはみんな知らない。だから、森の奥へ行って鬼たちが、どこにいるかもわからず、踊っているのだろう。ということをボクは考えた。だから、そこに行ってみたかったのだ。それは、だれがしっているのだろうか? と考えて仕方なく、おえつを堪えて、だれもかれもが死ぬ瞬間を経験する、あの日をさかいに人々は鬼になるのだ。
だから、鬼たちの墓場がどこにあるのか? それをボクは知っているのか、知らないのかもわからない。ただ、月が照らすあの明るい大樹の前のふうけいの前に、ボクはただ立っていた。少し森へ行って、そして走って、だれもおってこない。だれもおってこない。だからボクはさらに走った。ある程度のところまで行くと、もはや道はなく、ボクは木々に囲まれながら、鬼たちが踊っているという、そのことを思い出した。鬼たちはどこにいるのだろうか? と考えるまでもなく、鬼たちはここにいるのだ。
ロベルト・シューマン「森の情景」を聴きながら書いてみました。