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ずーっと以前に書いた創作怪談シリーズとショートショートシリーズ

追突された車

 眠かったのかもしれない。

 それともわき見をしていたのかもしれない。

 いずれにせよ、不注意な人だったのだろう。「どしん」という衝撃で彼女は、はっと前を見た。一瞬、何が起きたのかわからずに、自分の車のメーターを見る。止まってない。ちゃんと動いている。それから、ようやく後ろを振り向いて、追突されたことに気がついた。

 どうしていいか判らずに、とりあえず車を降りてみる。

 それを見て、後ろの車のドライバーも降りてくる。

「すみません、すみません」

 降りてきたのは、おばちゃん。ピンク色のTシャツの、お腹の辺りが見事に出っぱっていた。太り過ぎね、と彼女は思ったそうだ。

 ともかく、話をしようとしたのだが、何せ街の中のこと。周りの車が気になったそうだ。渋滞の原因になってしまう、とね。

「ちょっと、あそこのわき道へ入れましょう」

 冷静になって彼女が、そう言ったのが間違いだったのかもしれない。でも、普通、そういうものでしょう?そう、後になってハタチの彼女は言った。

 そう、そのおばちゃん、何を思ったか、わき道に入れた彼女の車を無視して逃げてしまったそうだ。


 「あ、これはひどいね」

 修理工場で、彼女、そう言われた。

「バンパーは駄目になっているから交換しないと。それからね、トランク。かなりひどくやられているから、ここも修理が必要だね。かなり高くつくよ」

 彼女、泣きそうになったそうだよ。買ったばかりの新車のセダン。ローンも残っている。アルバイトで貯めたお金と、残りをローンで買った新車だった。高い車じゃないけれど、初めての車。学生の身分で新車なんて、とも思ったけれど、とてもその車が気に入ってしまって、無理をして買った車。それなのに。事故。その上修理費用は、相手が逃げてしまって自分持ち。踏んだり蹴ったりだと思ったそうだよ。

「なるべく安くお願いします」

 泣き付くように頼み込んで、工場に車を預けたそうだ。


 それから2週間ほどして、車が修理工場から帰って来た。

 代金のほうは、最初に聞いていた金額よりだいぶ少なくて済んで、彼女は、ちょっとほっとしたそうだよ。工場の人が、なるべく安くあげてくれたんだ。


 しばらくは、何事もなかった。

 でも、ある時ね、大きな買い物をしてトランクを開けて気がついた。

「なに、これ。大きな染み・・・」

 トランクの中に敷いてあるマットにね、茶色い大きな染みが出来ていたそうだよ。

 それで、彼女、修理工場へ電話した。

「ああ、そうですか。じゃあ、雨漏りしているのかもしれないね。ちょっと見てみようか?」

「ええ、お願いします」

 とにかくね、新車だったから、そういう染み、とても気になったわけだよ。たとえ、追突された事故車だったとしてもね。


「これね、ゴムの部品がね悪かったんだと思うよ。一応替えておいた。それから中のマットもきれいにしておいたから」

 そう言って、また車が帰ってきた。

 やっぱり、自分の車ってね、うれしくてね、彼女、またその車で出かけたり、いろいろとね、したそうだよ。


 それが、またしばらくしてトランクを開けた。

 今度は、大雨の降った後のことでね、ちょっと心配になって開けてみたんだ。

「また染みが・・・・」

 大きな茶色い染みが出来ている。トランクの中、マットの中央に、直径30センチくらいの大きな染み。

「直ってなかったのかしら」

 それで、また修理工場へ持っていく。


「おかしいなあ。雨漏りしてないんだけどなあ」

 ホースから水を、じゃばじゃばとかけながらね、修理工場のおじさんが不思議そうな顔をするんだって。雨漏りはしてはいない、でも染みは、現実にそこに出来ている。

「とりあえずね、これ、クリーニングするから」

 そう言って、またそのマットをきれいにしてもらってね、彼女は帰って来た。


 その日は、彼女、アルバイトでね、帰りが遅くなった。

 それまでのアルバイトを辞めてね、家庭教師を始めてね。ほら、彼女、車を持っているから、田舎の方の生徒を紹介されたんだ。電車で行けない先生も多いしね。だから、彼女、田舎の方の生徒を任された。

 その家庭教師先から帰る時にはね、ちょっと人通りの少ない、暗い道を通らなくちゃいけない所があってね、そこには、街灯が無いんだ。本当に真っ暗な道でね。気持ちが悪い。でも通らなくちゃいけない。

「もう、気味が悪いわ」

 そんなことを一人、つぶやいて、彼女は車のアクセルを踏んだそうだ。それで、ぱっとルームミラーを見る。明りがついている。

「あ、後ろに車がいたんだ」

 なんだかね、そこを通る車が他にもいるってことでね、ちょっと、ほっとしたんだ。やっぱり気持ちの悪い道だから。

 それというのもね、そこ、殺害された女の死体が見つかった場所でもあったんだ。レンタカーで運ばれてきた女の死体がね、そこで発見された。運んで来たやつは逃げてしまったんだけど、死体の方はね、レンタカーのトランクに積まれたままで、2週間も放っておかれたんだって。犯人はね、まだみつかってなかったそうだよ。

 彼女は、それを知っていたんだ。でも、そこを避けようとすると、とても遠回りをしなくちゃいけないから、仕方無く、そこを通って通っていたわけなんだ。

 道の両側は林になっている。せまい道だったから、あまりスピードは出せない。また、ふっとルームミラーを見る。

「追いついては来てないのね」

 あいかわらず、ルームミラーには明りが写っている。

 でも、その時、彼女、ふっと思ったそうだよ。

「明りがひとつしかない」

 後ろから来るのが自動車なら、明りは二つあるはず。でも、明りは一つしかない。あれっと思って、彼女、今度はドアミラーを覗き込んだ。

 写っていない。

 後ろから来ているはずの明りが写っていないんだ。

「そんなはずは・・・・」

 もう一度、ルームミラーを覗き込む。ちゃんと明りが写っている。青白い新しい型の車によくあるような、青白い明り。ほら、ディスチャージとかいうような。青っぽい、白っぽい、そんな色の明り。

 もう一度、ドアミラーを見る。

「やっぱり写って、ない」

 彼女、すごく気になってしまったんだ。

 もう一度、ルームミラーを覗く。青白い光・・・さっきよりも近づいた。

 わき道なんか無いんだ、その林の中の道は。直線で道路自体は見通しもいいんだ。だから、ルームミラーに写っていて、ドアミラーに写らないなんてことは無いんだ。

 そこで、ふっと死体の話を思い出してね、彼女、途端に怖くなった。

「なによ、あれ。なによ、あれ」

 そうつぶやくとね、ぐうっとアクセルを踏み込む。車のスピードが、ぐうっと上がる。

 ところが、ルームミラーを見ると、さっきよりも、さらに近づいてきている。

 青白い光。ルームミラーの中で揺れている。怖い。怖いんだけど、もう、どうしようもなく怖いんだけど、彼女、たまらずに後ろを振り向いた。

 そしたらね、それ、青白い明り、じゃなくてね、顔だったんだ。青白い顔。それがね、ぐうっと近寄ってきている。

「近寄ってこないで」

 そう叫びながら、さらにアクセルを踏み込む。エンジンがブーンって唸る。スピードが上がる。でも、後ろの青白い顔はどんどん、どんどん近づいてくる。

 ルームミラーで見てもね、もう、はっきりと、それが顔だってわかるぐらいに近づいて来ていたんだ。

「やめて!来ないで」

 アクセルを踏む。エンジンが高なる。青白い顔は、長い髪を振り乱すようにして真っ赤な口を開けている。もう、それがわかるぐらい近くまで迫っていたんだ。

 ああ、もう駄目、追いつかれる、そう彼女が思った、その瞬間にね、ぱっと、その道が終わって、交差点。こっちの角から車が出て来て、「あ」っと思って、急ブレーキ。

 キ、キ、キーってタイヤが鳴って、彼女の車、横滑りをしたそうだよ。


 でも、運がよかったんだね。

 彼女、何処にもぶつからないで交差点の向こう側の広い空き地にね、だーっと滑って行って、そこで、がったん、と車は止まったそうだよ。脇から出て来た車にもぶつからずに済んでね、とにかく、何が起こったのか、彼女は全然わからなかったけれど、事故にもならずに助かった。

 そこでね、ぱっと前を見たらね、横滑りをしていたから、その方向は、来た道のほうだったんだけどね、そこにね、青っぽい服の女が一人、こっちを見て、さびしそうに笑ってね、それから、ふっと消えていったんだ。


 「でもね」って、彼女言うんだ。

「あの時ね、わたしは最初、車のずうっと後ろにね、青白い明りを見たと思ったんだけど、良く考えるとね、ひょっとしたら、あれ、車の中だったんじゃないかって。だってね、あの後、やっぱり車のトランクにね、焦茶色の染みが出来ていてね、それで、調べてもらったの」

 修理工場ではね、安く上げて欲しいっていうとね、中古の部品なんかを使ってね、修理をする。彼女の車もね、トランクの部分の床をね、使われなくなった車から外してきた部品でね直したんだそうだよ。あんまりそういう部品はね、新車なんかだと無いんだけどね、たまたま、部品があってね。

「だからね、その部品の出どころをね、調べてもらったの。そしたらね、あれ、廃棄されたレンタカーからだって。ひょっとしたらね、死体が積み込まれていた、あのレンタカーなのかもしれない」

 死体が積み込まれていた車なんてね、レンタカーとして使えないから売りに出た。でも買い手が見つからない。安く買い叩かれる。ところが、染み込んだ血が消えない。何度消しても浮かび上がる。もう、どうしようもないって、売りに出すけど、そんなもん、売れるはずがない。仕方なく、廃車になる。でも、車自体はきれいで新しいから、部品となって、あっちこっちの修理工場へ流れていく。少しづつ、積み込まれた女の死体の怨念と一緒に・・・・

 きれいに掃除されても、部品になっても、でも、そこに染み込んだ怨念だけは消えずに染みになって出て来る。

「そういうことなんじゃないか」

 そう彼女は言ったんだ。


 しばらくしてね、彼女、その車は売ってしまったんだ。もう、知ってしまった以上、気持ち悪くてね。

 でも、新しい車だからね。きっとね、また新しいオーナーがね、乗っているわねって彼女は笑うんだけどね。


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