03「フェルナンデスの企画」
「遅くなっちゃったわね、ナンシー」
「えぇ。すっかり、窓の外が暗くなってしまいました」
嬉しそうに両手に赤と青の靴下を持ったマーガレットを、ナンシーはお姫さま抱っこして運び、さきほどの部屋の前に立つ。そこで、マーガレットはナンシーの腕から飛び降り、ドアの前に立ち、扉に上半身をもたれて僅かに隙間を空けつつ、中にいる人物に向かって大声で話しかける。
「準備は良いかしら?」
『バッチリだ』
『開けていいですよ、マーガレットさま』
ギルバートとフェルナンデスの返事を聞いたマーガレットは、満面の笑みでナンシーの背後に回り、その背中を押しながら話しかける。
「さぁさぁ、ナンシー。ドアを開けてちょうだい」
「承知いたしました」
口では了解しつつも、頭の上に疑問符を並べながら、ナンシーはそっとドアを開く。すると、二人が部屋に入った瞬間、ドアの向こうからパーティークラッカーの音が鳴り響く。
「ハッピーバースデー、ナンシー!」
ナンシーを除く三人が声を揃えて言うと、ナンシーは、紙や服に飛んできた紙吹雪を払いつつ、戸惑い気味に質問する。
「あの。これは、いったい、どういうことでしょうか?」
「この五年、ナンシーの誕生日を祝ったことが無かったと思ってさ」
「ちょうど聖夜なんだから、一緒にお祝いしたら良いんじゃないかしらと思って」
「せっかくだからサプライズにしませんかと、僕が提案したんです」
――貴様の仕業か、フェルナンデス。
「まさか、使用人である私の誕生日をお祝いされるとは、夢にも思いませんでした。ありがとうございます」
「良かった。ナンシーに喜んでもらえて、私、ホッとしたわ」
「良かったな、マーガレット。――それじゃあ、俺は電気を消すから、フェルナンデスは、アレを持ってきてくれ」
「はい。ただいま、お持ちします」
マーガレットがナンシーの手を引いてツリーの前に連れて行き、ギルバートが部屋の端に行って電気を消すと、暖炉の明かりだけとなった影が揺らめく部屋に、フェルナンデスが台車に載せてビュッシュドノエルを運んでくる。ビュッシュドノエルの上には、小さなロウソクが五本、点されている。
「さぁ、ナンシー。ひと息で吹き消して!」
「はい」
マーガレットが見守る中で、ナンシーは大きく息を吸い込み、誤ってロウソクをなぎ倒したりホイップクリームを吹き飛ばしたりしないように注意しつつ、絶妙な加減で炎だけを吹き消すと、部屋の明かりが灯り、三人は拍手で祝福した。
――お転婆ぶりに振り回され、シスコンぶりに呆れ、陰険眼鏡と言い争う毎日ですが、三人とも、私のことを思う気持ちを持ち合わせているようです。




