01「ギルバートの計略」
――サマーハウスから戻り、この秋からマーガレットお嬢さまは、寄宿制の女学院に通われるようになり、レディーとしてのきざはしを登り始めた、はずなのですが。
「マーガレットお嬢さま。お風邪を召す前に、セーターをお召しください」
「嫌よ。そのセーター、首のところがチクチクするもの」
太めの毛糸で編まれたケーブルニットのセーターを持ったナンシーと、長袖のブラウスを着たマーガレットが、部屋の中央に据えられたモミの木の周りを追いかけっこしている。そこへ、ケーブルニットのセーターを着たギルバートと、オーナメントが詰め込まれた大きな木箱を両手でかかえたフェルナンデスが姿を現す。
「変わった鬼ごっこだな。俺も、まざりたい」
「ドタバタと足音が聞こえますけど、何をしてるんですか? 荷物で前が良く見えないので、教えてください」
「それは、その辺に置いて良いから、自分で見ろよ」
「では、お言葉に甘えまして。――あぁ、そういうことですか」
部屋の隅に箱を置くと、フェルナンデスはギルバートの熱い視線の先を追い、そこでナンシーから無理矢理セーターを着せられているマーガレットの姿を見て納得した。
「うぅ。首のところが、ムズムズしてかゆいわ。――あっ、お兄さま」
「ペアルックは、お気に召さないかな、マーガレット」
ギルバートが、ややシュンとしょげた様子で話しかけると、マーガレットは首を横に振って否定しながら話す。
「ううん、違うの。この毛糸が駄目なだけよ。それに、お兄さまとお揃いなんて知らなかったわ」
「そうか。――言ってなかったのか?」
ギルバートがナンシーのほうを向いて質問すると、ナンシーは困ったように眉をひそめながら答える。
「えぇ。お話しする前に、イヤイヤと逃げ回るものですから」
「それを着る気にさせるのが、メイドの役目だと思いますけど」
フェルナンデスは口を挟むと、ギルバートにアイコンタクトを送る。ギルバートは、何かを思い付いたような様子で、唐突に言い出す。
「あっ、そうそう。倉庫の中に、そこに吊るす大きな靴下があったんだった。あれが無いと駄目だよな、マーガレット?」
そう言って、ギルバートがパチパチと薪が爆ぜる暖炉を囲む、あたかもギリシャの神殿を彷彿とさせる意匠のマントルピースを見ると、マーガレットも、同じ方向を見ながら言う。
「そうね。靴下が無いと、サンタさんがプレゼントを入れる場所に困っちゃう。私が取ってくるわ」
「あぁ、お待ちください」
タッタッタと軽快に廊下へ向かうマーガレットを、ナンシーは後ろから追いかけて行った。二人が部屋を出たあと、フェルナンデスは静かにドアを閉め、何かを企んでるかのような顔つきでギルバートに言う。
「うまくいきましたね」
「あぁ。二人が戻る前に、さっさと済ませよう」
ギルバートとフェルナンデスは、木箱からオーナメントを取り出し始めた。