第3話 こんなに運がいいなんておかしい
ギルドからの帰り道。ご機嫌な幸が
「言った通りに上級職になったでしょぉ。結城とは違うのよ!」
と自慢してきた。なぜか恵太さんの写真を見せながら。
「あー。自慢するのはいいけど、なんで自分のお父さんの写真を見せびらかしているんだ?」
申し訳なさそうに俺がそう言うと、幸は写真を見て
「な…え…違う。違うの。これは、あの…」
そうしどろもどろに否定しながらも、顔がみるみる真っ赤になっていき、慌てて写真をしまった。そして、自分の冒険者カードを出して
「……言った通りに上級職になったでしょ。結城とは違うのよ…」
少しテンションを下げて同じセリフを言う。
「いや、言い直しても駄目だから」
「むー。今のは忘れろー!」
「やだねーだ」
「もー、バカバカバーカ」
そう言ってポカポカと殴りかかってくる幸。意外と痛いので
「分かった分かった。ごめんごめん」
「ほら見てよ。私の冒険者カードを」
幸のステータスは俺を遥かに超えるステータスだった。特に魔力なんて三倍以上だ。てか、めっちゃめちゃ高ぇ。
「すげーな」
「でしょ〜。だから言ったでしょ。こんな凄い、しかもかわいい女の子と同じパーティーなんて、感謝しなさい」
「ありがたやー、ありがたやー。はい、これでいい?」
「ちゃんとやれっ!」
「そういえば、お腹空いたなぁ。なんか食べたいけどお金無いんだよ。幸も持ってないでしょ?」
「え、私持ってるけど…」
さりげなく話を変えるとすっかり騙される幸。やっぱりアホだな。てか、持ってんのかよ。
「嘘っ。なんで?」
「パパがなんか、とりあえずって言って10万トートくれたの」
「じゅ…10万トート?!」
普通に大金じゃねえか。
「うん。そうだけど」
「やっぱり金持ちだなぁ」
「ん?なんか言った?」
「いや、なにも」
「そお。お金ないんでしょ。しょうがないわね。この私がおごってあげるわ。感謝することね」
今回は悔しいが、素直に感謝することにした。
「ありがとうございます」
「お、珍しく素直じゃない。じゃあ早速食べたいんだけど。結城ってなにか食べたい物ある?」
「別に。幸が決めていいよ」
「やった。じゃあ付いてきてね」
そう言って、幸は鼻歌交じりに歩いて行った。
「着いたっ!」
10分程度歩いて着いたそこは、いかにも高級レストランって感じの建物だった。
「こんな高そうなところ行って大丈夫なの?」
「たしかに高いけど…。今日だけだから大丈夫!さあ入ろ入ろ」
幸に手を引かれて店内に入った。
入り口のドアを開けると中は別世界だった。
少し小さめの店内には、白いテーブルクロスをかけたテーブルに椅子が置いてある。客は何人かいて、皆、楽しそうに喋っている。天井には大きなシャンデリアが、下の料理を煌々と照らしながら吊られている。
そんな俺を幸の一言が現実に引き戻した。
「そんなところで、ぼーっと突っ立ってないで、はやく座るわよ」
慌てて席に着く。危ねぇ。感激しすぎて危うく天使に雲の上に連れてかれるところだった。
「何食べる?私はこのスパゲティにするわ」
メニューを見ると全てが高い。
「高っ!じゃあ俺はこのハンバーグにするよ」
幸が店員さんを呼び、慣れたように注文をした。その感じが余りに手慣れてたのでつい
「この店来たことあるのか?」
「うん。何回か。パパに連れて来てもらったことがあるの」
「へぇー。ところでさ、おまえ家の場所知ってんのか」
「ええ、知ってるわよ。ギルドのすぐ近くよ」
そうこう話しているうちに注文したものが来た。
「デミグラスソースのハンバーグとズワイガニとほうれん草のパスタです」
「「わー、うまそぉ」」
そこからは二人共一言も喋らずに黙々と料理を食べていた。
二人共食べ終わった頃
「じゃあ、帰るか」
「そうね。お会計してくるわ」
そう言って幸はレジに行ってしまった。ちなみに料理は今まで食べたハンバーグの中で1番うまかった。
幸には感謝しないとなぁ。冒険者として稼いだら俺も奢ってやろう。いつになるかわからないけど。などと考えてると幸が来た。
「おまたせ。じゃあ行きましょうか」
俺は幸と一緒に家へと向かった。
「あ、ここよ」
「恵太さん小さいとか言っていたけど、普通にでかい家じゃん」
中は、テレビやソファ、テーブル、ベッドやキッチンなど最低限の家具は置いてあった。(もちろんベッドは二つ)
ソファに座って一息ついていると
「私お風呂先入ってもいい?私長風呂だから長くなるかもしんないけど」
「ああ、別にいいけど」
幸がお風呂に入って一人になると
「俺って運いいよなぁ。いきなりこんな良いアルバイト見つけて、ただで夜ご飯食べれて、こんな立派な家住めて、しかもあんな可愛い子(見た目は)と同居できるとか。うまくいきすぎて怖い」
そんなこと考えてると、トイレに行きたくなった。そう思って、ベッドから立ち上がって、気づいた。
「トイレとお風呂おんなじとこじゃん」
ってことは幸がお風呂から出るまで入れないってことかよ。
しかも、さっき長風呂って言ってたよな。
「やばい……。どうしよう…」
とりあえず、お風呂場まで行って
「さぁーちぃー!トイレ行きたいからなるべくはやく出てくれ!」
「ひゃっ!?なんで?」
いつもなら、かわいいなぁって思うけど、今の俺にはそんな余裕がない。
「トイレ行きたいんだ!」
「あやぐじでぐれー」
慌てて出てくれた幸のおかげでなんとか間に合った。
「まったく。びっくりするじゃない」
「ごめんごめん。ありがとな」
「じゃあお風呂入るから先寝てていいぞ」
そう言ってお風呂場に行った。
お風呂から出ると幸はもう寝ていた。
「ふあぁ。さて、俺も寝るか」
ベッドに入ると、予想以上に気持ち良くて、疲れがどっと出てきた。
こんなに気持ち良かったらそりゃぁすぐ寝るか。
幸に布団をかけてあげて、小さな声で
「おやすみ」
と言った。
幸が笑ったような気がしてびっくりしたが、眠気には勝てず、眠りに落ちていった。
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