第2話 こんな美少女と一緒にいれるなんておかしい
俺は無事、冒険者になれた。しかし、ギルドで生活補助金を貸してくれたり、最初の装備をくれたり、簡単なクエストを紹介してくれたりするような、ゲームのようには、まったくいかなかった。なので、お金がなくとりあえずアルバイトをすることにした。やはり、現実はつらい。
町をぶらぶら歩いていると、アルバイトを紹介する、紹介所というのを見つけた。入ってみると
「いらっしゃい」
店主らしき一人の男が話しかけてきた。その男の向かい側の椅子に座ると
「どんなアルバイトをお探しでしょうか?」
「えっと、高収入で誰でも出来るようなのありますか?」
「はい、ありますよ。これなんてどうでしょう。土木工事。時給1500トート。月1万で共同の小屋に泊まれますよ」
トートというのはこの世界のお金の単位で、価値はほぼ円と同じだ。
「あ、いいですね。場所はどこですか?」
「ここから馬車で一時間ちょっとのところです」
遠っ!まず馬車に乗れるお金がないから無理だな。もっと近いところじゃないとな。
「もっと近いところはないんですか?」
「んー、そうですねー。あ、ありました。えっと、家庭教師ですね。ここから、歩いて20分のところです。日給は1万トート。安いですが、食事と、寝泊まりを屋敷でできます。どうですか?」
「それ、誰でも出来るんでしょうか?」
「はい。家庭教師だから、資格とか必要だと思いますよね。でも、ないです。1個だけありますが、あなたは大丈夫だと思いますよ。冒険者、っていう条件です。なんでかはよく分かりませんが」
「ありがとうございます。じゃあさっそく行きます」
「また困ったら来て下さい」
あんな便利なところもあるんだな、と思いながら、教えてもらった場所に行ってみると
「でかい…」
屋敷って聞いていたから、でかいとは思っていたけど、ここまでとは…。緊張するなぁ…。
意を決してインターホンを鳴らす。すると
「はーい、どちら様でしょうか?」
「紹介所で紹介されて来た、飛田と申しますが…」
「あ、飛田さんですか」
「今行きまーす」
しばらくして、ドアが開いた。中から美人な奥さんが出てきた。
「こんにちは」
「こんにちは。紹介所から話は聞いています。では、さっそくついて来てください」
美人な奥さんに案内されたのは、広い客間。
「椅子に座ってお待ち下さい」
奥さんはそれだけ言うと、客間から出て行ってしまった。
言われた通り、椅子に座って待つこと数分。コンコンとドアがノックされ、若い男が入ってきた。
「こんにちは。あなたが飛田さんですね?」
「はい」
「お待ちしておりました。では、アルバイトの簡単な採用面接を行います。いくつかの質問に答えていただき、それで判断します。」
やっぱりな。こんなうまい話、裏があると思ったんだよ。まあ、採用されるように頑張ろう。
「あなた、冒険者になってどれくらいですか?」
「なったのは今日です」
一瞬、驚いたような顔をしたがすぐ元に戻り
「分かりました」
「冒険者カードを見せて下さい」
「はい、どうぞ」
男性は、俺の冒険者カードをじっくり見ると
「ありがとうございます」
他にも好きなものやタイプの女性まで、たくさんのことを聞かれた。家庭教師なのに必要なのだろうか。
そして、一呼吸おくと
「では、面接の結果を発表する。………おめでとう、結城くーん」
彼はそう言って肩を組んできた。急に馴れ馴れしい。
「え、合格ってことですか?」
「ああ」
「やっったーー!」
すると、急にかしこまって
「では、仕事の説明をする。あ、私は永井 恵太。こっちは妻の莉音だ」
「よろしくお願いします」
切り替えが恐ろしくはやいな。
「で、仕事なんだが。家庭教師ってのは嘘で、本当は娘の幸が冒険者になりたいって言うんだが。1人じゃ心配なので、一緒に行く人を探していたんだ。結城くんは今日初めたばっかりって言うし。ちょうどいいと思って。同じパーティーになって欲しい。うちは一応お金あるんで、小さめの家を買うから。屋敷で寝泊まりや日給1万トートは無くなりますが、どうでしょうか」
なんだその嬉しい仕事は。
「全然良いですよ。てか、ちょうど1人だと寂しいなぁと思っていたとこなんですよ。こちらこそお願いします」
「とりあえず、幸に会ってくれませんか?」
そう言われて案内されたのは幸ちゃんの部屋。永井さんご夫妻はどこかへ行ってしまった。女の子の部屋なんて入ったことないので緊張しながらも、ノックすると
「どうぞ」
と聞こえた。
入ると、中には同じくらいの年に見える女の子が座っていた。
「あなたが一緒に行く人?」
白いワンピースを着た金髪の美少女が明るく聞いてきた。
「うん。飛田 結城だよ。呼び方は何でもいいから。よろしくね」
「私は永井 幸。よろしくね、ゆうき」
「ん、よろしく幸」
「冒険者始めたのっていつ?」
「今日だ。まだ何もやってない。だから、スタートは一緒」
「やったね!冒険者カード見せて?」
「いいよ。はい」
幸は俺の冒険者カードを見ると
「なーんだ。ほんとに弱いのか。しかも、冒険者かよ。冒険者やめて、他のことした方がいいんじゃない。もう猫被んのやめよ」
「は…え…。うるせえな」
「何よ!私だったら上級職にだってなれるし」
「あーそうかい。じゃあギルド行くぞ!」
会って10分で喧嘩するとは。まあ俺は悪くないし。………たぶん……………。
「ステータス高すぎないですか?特に魔力と知能がめっちゃ高いですよ。筋力と体力が低いですが、それを補って余りあるくらいですよ。これなら、数々の魔法を操る魔法使いの上級職「ハイウィザード」や、回復魔法や、強化魔法、浄化魔法を得意とする上級職「アークビジョップ」になれます。どうしますか?」
幸はどうだと言わんばかりに俺の方を見てから
「ハイウィザードで」
「分かりました。これからのご活躍を期待しております」
受付の女性がにこやかに言った。
え、なんで。こういうイベントは俺に起きるんじゃないのかよ。幸は呆然としているおれに向かって
「行くよ!結城」
そう言って、一足先にギルドから出て行ってしまった。