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君がいて 僕がいた  作者: 時帰呼
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リキュール

ゴローさんの角。 奇子さんの魔法のカクテル。

何もかもが りょうにとっては不思議なことばかり。


けど、ここで生きていくしかないんだ。

もう あとには退けない。振り返らない。



まったくもって、無鉄砲極まりない。


水野りょうは 自分にもギョウメイにも憤慨しきっていた。




*****



いつものように『ジル・ガメーシュ』は 閑古鳥が 鳴いていた。


それも 別に珍しいことではないから、さして気にもせずに オーナーである奇子さんは 定位置のバーカウンターの一番奥のスツールに座って、今日 何杯目か分からない赤色のカクテルを ちびちびと飲んでいた。


「よく、それを飲んでいますね」


りょうは 客席のテーブルを拭く手を休めずに 奇子に声をかけた。


「おや、よく分かったね。 赤色のカクテルなんて いくらでもあるのに」


「だって、たいていそのカクテルばかり…それに…」


「それに…、なんだい?」


奇子が スツールを くるりと回し りょうの顔を見つめた拍子に、手にしたカクテルグラスの中で 氷が カロンッと音をたてた。


「一応、作るところを 毎日 見てますし」


「ふーん、興味はあるんだ。 アルコールは てんで弱いのに」


「だって、カクテルって 綺麗じゃないですか。 それに、なんだか魔法の薬を調合しているみたいにも見えて面白いし…」


ククッと 奇子が 小さく笑ったが、すぐに 真剣な顔をして詫びた。


「からかって悪かったよ。 興味があるなら 追々 教えてあげるよ。 その方が お店も助かるしね 」


上機嫌に そう言ってから、急に 口を への字に曲げたところを見ると、どうやら彼女は ギョウメイのことを思い起こしているのだろうと りょうは思った。


「あいつは、どこを ほっつき歩いているんだろうね」


(ほら、やっぱりだ)


このお店に お酒を入れてくれている いつもの特殊な酒屋さんが 今日は 何かの手違いで、あるリキュールの在庫を切らしてしまったものだから 奇子さんの知り合いの別の酒屋さんに お使いに出たのだ。


けれど、それから 既に数時間が経つと言うのに ギョウメイは帰ってこないばかりか 何の連絡もしてきていなかった。




その時、ガチャンと大きな音を立てて お店の入り口のドアが開いた。


「遅いよッ!! ギョウメ…」


そこまで 言いかけて、店に入ってきたのが ゴローだと 気づいた奇子は オーバーアクションなほどに肩をすくめて 天を仰いで見せた。



「どうしたんです?」


事情を知らないゴローは りょうと奇子の顔を交互に見比べて戸惑っていた。


「ギョウメイが お使いから帰ってこないんです」


りょうが 説明すると、額の角の辺りを撫でていたゴローの顔が 途端に曇った。


「それは不味いな…。 ここに来る途中から 頭痛がし出したんだ」


「…てことは、そろそろ また始まるってことかい?」


奇子が 唸るように言った。


「始まるって?」


りょうの言葉に ゴローが答える。


「僕の角は、位相のずれが始まる時に アンテナみたいに働いて 酷い頭痛で知らせるんだ。 気圧が下がると 古傷が痛むようなもんさ」


頭痛が あまりにも酷いのか、ゴローは 手近なソファーにもたれ掛かるように 床に座り込んだ。


「だって、前回の時は そんな痛そうな様子は無かったのに」


「これは、ずれの大きさで 頭痛の激しさも変わるんだ。 この痛みかただと 今度のは かなり大きそうだ」


ゴローは 自分のせいでもないのに 酷く申し訳なさそうに 頭を下げた。


「どうしよう?」


ギョウメイが 帰ってこなかったら、りょうは この奇妙な世界に ひとり取り残されてしまうのではと 不安になった。


「迎えに行くしかないね。 けど、ゴローは この有り様だし、私は 見ての通り お店を 放り出すわけにいかないし」


奇子とゴローの目が りょうに注がれる。

何を 言いたいのかは 聞かなくても分かった。


「私が 迎えに行きます!!」


「まぁ、それしかないだろうね」


奇子は バーカウンターを回り込み 沢山の酒瓶の並んだ棚から リキュールやラベルも付いてない怪しげな瓶などの材料を取り出し、あっという間に 一杯のカクテルを作って りょうの前のカウンターの上に差し出し言った。


「アイオープナー」


鮮やかなレモンイエローのショートカクテル。


「これって…」


見覚えのあるカクテルだ。


「そう、初めて あんたたちが この店に来た日に 私が飲んでたカクテル。

意味は…」


「運命の出会い」


りょうが 間髪を入れずに答えると 奇子は ニヤリと笑った。


「こいつに必要な『クレーム・ド・ノワヨー』ってリキュールを ギョウメイの奴に買わせに行かせたんだけど、こいつは それだけじゃなくて 私の特別なレシピで作ってある。 これを飲んでお行き!

きっと あいつを見つけ出せる」


りょうは カクテルグラスを掴むと 一気に喉に流し込んだ。


「まだ、あと一時間くらいは 大丈夫だと思うよ。 それまでに…」


ゴローさんが、弱々しい声で りょうに そう告げた。


「行ってきます!!」


時間は あまりないようだ。

見つけ出せるかどうか分からないけれど、奇子から手渡された酒屋への地図を片手に りょうは『ジル・ガメーシュ』の扉に手をかけ 押し開けるとアドレナリン全開に気負って外に飛び出した。


途端に 世界が ぐにゃりと歪む。


(ええぇ!?、もう位相が? 早すぎる!! )


愕然とするりょうの背後から 奇子の声が 聞こえた。


「あ、勿論 『アイオープナー』は ノンアルじゃないからね♪」



(それを 先に言ってくださいよ!!)


りょうは 歪む視界にめげずに、見慣れているはずだけれど全く見知らぬ新宿の街へと旅立って行った。




To be cotinued……

トラブル発生の予感しかしない。

ギョウメイは どこで道草を食って、食あたりになっているのだろうか!?


本当に世話のかかる奴なんだから!!


りょうは 不満ふんぷんであった。

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