There is always light behind the clouds.
長雨の季節。
りょうは、溜まりにたまった洗濯物を干していた。
いつになったら雨は止むのだろう?
お日様の光を浴びたい…。
「止まない雨はないって言うけれど、こう雨が続いちゃ、たまんないね」
奇子さんこと… 『アヤコ ・ アストリット・グレーフィン・フォン・ハルデンベルク・アマトリチャーナ』さんは、いつものように 自分で作ったカクテルを ちびちびと舐めるように飲みながらボヤいていた。
奇子さんが ボヤくのは いつもの事だけれど、けして立地的に恵まれているわけではない『ジル・ガメーシュ』にとっては、たしかに こんなに雨が続いては 商売あがったりというものだ。
もう二週間以上 雨が降り続いている。
勿論 小雨になり 少しの間 降りやむことはあるけれど、太陽が顔を覗かせることはなく しばらくすると 灰色の空から雨が落ちてくる。
梅雨でもないのに こんなに雨が降り続くのは 生まれて始めての経験かもしれない。
『ジル・ガメーシュ』の入るビルには いくらでも空き部屋があるから 洗濯物を干す場所には困らないけれど、これだけしつこく降り続けられると、やっぱり青空のもと 真っ白なシーツやTシャツが 風にひるがえる風景が恋しくなるというものだ。
奇子さんの御機嫌は かなり悪そうだ。
こんな時には あまり話しかけない方がよいことを学習済のギョウメイは ひととおり開店の準備が出来たので、少し息抜きしてこようと思った。
「ちょっと一服してきます」
ことわりの言葉を奇子さんにかけると、彼女は 軽くカクテルグラスを掲げ 許可の意を示した。
バーカウンター横の扉を開け、お店で使う様々な食材やお酒を置いてある倉庫を抜け もう一枚の扉を開けると 上階へと続くコンクリート打ちっぱなしの なんの飾り気もない階段ホールに出る。
ギョウメイは 靴音を響かせながら 一段一段 気をつけながら上階を目指して昇っていった。
…というのも、この階段が かなり傾斜が急で 踏み面も狭いからだ。
ギョウメイは 何度も この階段を踏み外しそうになっている。
少し前には、りょうと一緒に この階段を降りていた時に 話に熱中しすぎて うっかり足を踏み外し落ちかけたくらいだ。
その時には りょうが ガッシとギョウメイの手を掴んで助けてくれたから良かったものの、コンクリート階段だから もし落ちていたら 大怪我だけでは済まなかったかもしれない。
でも 身体つきは細いのに、いざとなったら あんなに力が強いとは驚いた。 火事場の馬鹿力というやつかな…と言ったら失礼かな。
このビルは六階建てで 三階までが店舗用で、その上は 賃貸の居住スペースになっているのだけれど、実際に入居している店舗は 家主である奇子さんの経営する『ジル・ガメーシュ』だけで、住人は 奇子さんと 家賃無料で住まわせてもらっている従業員の りょうとギョウメイだけだ。
東京のど真ん中の新宿で よくこのビルが維持していけるなとは思うけれど、くだんの件で たびたび建っている場所が変わるから 税務署も固定資産税の計算が出来ないのかもしれないなとギョウメイは思った。
三階に着き 踊り場にある鉄の扉を押し開けると そこは入居者がいないものだから 建築当初から 丸々三階フロア全部が仕切られていない広いスペースとなっていて、りょうとギョウメイは 洗濯物を部屋干しするのに使っていた。
奇子さんに長雨が続いているから使わせてほしいと言ったら、奇子さんは 勝手に使えば良いさと言ってくれたのだ。
三階フロアに 置きっぱなしになっていた たぶん工事中に使っていたと思われる黒と黄色のロープを フロアの端から端まで張って 洗濯ロープの代わりにしている。
そのロープには ずらっと一列に洗濯物が掛けられ、所々で洗濯物の重量に耐えるために適当な高さの物で 突っかえ棒代わりにして支えているから、見た目は かなりアレな感じだが この際仕方がないってものだ。
ギョウメイの洗濯物の向こうには りょうの洗濯物が干されていて、なにやら白や水色や薄いピンク色の ひらひらした物が見えたが ギョウメイはエチケットとして あまり見ないようにする。
「あっ、ギョウメイ…」
洗濯物の向こうから ひょいと顔を出して りょうが笑顔を見せた。
その手には 今から干そうとしていた小さな下着が摘ままれていたが、りょうは 少しも気にせずに そのまま洗濯ピンチで それを挟むと、ロープをくぐって こちらに歩いてきた。
「まったく 嫌になっちゃうわよね。 ほら 部屋干しだと せっかく洗濯しても なんだかスッキリしないし…」
雨天にもかかわらず りょうの笑顔は太陽のようだ。 思わず気持ちも明るくなる。
「そうだね。なんだか 変な匂いもするし」
「 部屋干し用の洗剤を使ってる?」
「え? 普通の粉洗剤だけど…」
「じゃあ 私の買い置きがあるからそれを使うと良いよ。あとから渡してあげる。 でも 次からは 自分で買いなよ」
ギョウメイは 素直に りょうの申し出を受けることにした。 彼女が 一度 言い出したら自分の意見を曲げないのも学習済なのだ。
「ありがとう」
「100均で 買ってきたやつだから、お礼を言われるほどの物じゃないよ」
りょうが はにかんだような笑顔を見せる。 ギョウメイは この笑顔も好きだなと思った。
りょうは 笑うと 左の頬に片笑窪ができる。 そこがまた りょうを 堪らなく可愛いなと思わせることだったけれど、それを りょうに話せるほどの度胸は ギョウメイには まだ無かった。
あれ、そう言えば 眼鏡はどうしたんだろう。 実を言うと ギョウメイは眼鏡フェチだったから 初めて りょうに出会った時に その可愛さに ドキリとしたのだけど。
「りょう…、眼鏡は?」
思わず ぽろりと 心の声が漏れ出てしまった。
「あ、これ? うん コンタクトに変えてみたんだ」
「あぁ、そうなんだ」
「変?」
「いや、変じゃないよ。 すごく可愛いよ!!」
なんとなく残念に思う気持ちが 声の調子に出てしまったのだろう。 りょうが 唇を尖らせて 不満そうに言うものだから、つい 言いたくても言えなかった事が ギョウメイの口から またもや ぽろりと出てしまった。
とたんに りょうの瞳が輝きだす。
「嬉しい! 本当は ずっと眼鏡だったから、いきなりコンタクトに代えてしまって 変かなって ドキドキしてたんだ」
「自信持っていいよ。 りょうは 眼鏡を掛けていても可愛かったけれど、コンタクトに変えたら もっと…」
「もっと…?」
「うん、もっと可愛いよ」
こうなれば ヤケだ。 日頃 思っていたことを言ってしまう 良い機会かもしれない。
「…」
絶句して 目を見開いた りょうの頬が 見る間に赤くなり、顔を 両手で隠すと うつむいてしまった。
あああ…、しくじったか!?
そう ギョウメイが思った時、うつむいていた りょうの肩が震えだし、次の瞬間には がばっと顔をあげると 泣いているのか笑っているのか よく分からない顔をして こう言った。
「ありがとう!」
いや、これは 完全に笑っているな…。
でも まぁ、いいやとギョウメイは思った。 なんにしても 少しは思っていたことを 口にできたのだから、引っ込み思案の自分としては 上出来だろう。
りょうは ついに堪えきれずに、向こうを向いて 肩を震わせて笑いだしてしまった。
好きなだけ笑うがいいさ。
お互いに 隠しだてせずに なんでも話せる間柄になれたらなと ずっと思っていたのだから。
けど、それにしても ちょっとばかし 失礼ってもんじゃないのかな。 そんなに笑うことないじゃないか。
あまりにも大笑いするものだから 少し腹が立ってきたな…とギョウメイが思っていたら、しだいに りょうの笑い声が止んできて 肩を震わせているだけになった。
しばらくの静寂の後、突然 りょうが振り向き、飛びつくようにして ギョウメイをハグした。 それも 痛いくらいに力一杯に。
もう りょうは笑っていなかった。
笑顔ではあったけれど、両目から ぼろぼろと…、笑いすぎて涙が出たにしては 多すぎる量の涙を流していた。
「ありがとう…ギョウメイ」
ギョウメイの耳元で りょうが嗚咽しながら呟いた。
「あの…、なんだ…。 うん…、そんなに 喜んでくれて嬉しいよ」
どう返したらよいのか分からなくて ギョウメイは 頓珍漢な返事をしてしまったが、それでも 気持ちは りょうに伝わったようである。 ギョウメイをハグする力が いっそう強まり、苦しいほどになったのだから。
*****
「なんで あんなに泣いたの?」
りょうとギョウメイは、二人して床に積み重ねてあった耐火ボードの上に座って 降り続ける窓の外の雨を見ていた。
叩きつけるような雨脚が 波をうって窓ガラスを洗い続け 滝のように雨が流れ落ちてゆく。
ギョウメイは 車を持っていないけれど、この雨の強さなら 外に駐車しておくだけで洗車できるのではなんて 考えながら りょうが落ち着くのを待ってから さっきの涙の訳を聞いてみた。
「わかんない…。 なんだか泣けちゃって…」
もう りょうは泣いてはいないけれど、少しばかり 魂が抜け出して 今 帰ってきたばかりのような顔をしている。
「うん、別に いいんだけど、ちょっとビックリしたから…」
「ごめん…」
りょうは 本当に申し訳なさそうに うなだれてしまった。
「謝る必要なんてないよ。 逆に りょうが 自分の感情を 僕に晒し出してくれたのが嬉しいくらいなんだから」
ギョウメイは 必死だった。
なにしろ 女の子を泣かしてしまったのは 幼稚園の頃 砂場で 女の子が使っていたスコップを 知らずに使ってしまい泣かせてしまって以来のことだったから。
女の子の最大の武器は涙と言うけれど、確かに これは強力な威力を持っているんだなと ギョウメイは痛感していた。
「私ってね…、誰からも必要とされてないんじゃないかと ずっと思ってきたの。 学校とか家とか友達関係とか…。
だから 余計に 誰かの役に立とうとして、いろんな場面で 人の前に出しゃばって… 失敗したり 喧嘩になったり… 」
「そっか……」
ギョウメイは 何と言ったら良いのか分からなかった。
けれど、 りょうの笑顔の裏には いつも泣き顔があったんだなってことを知った。
そして、りょうが 人一倍 いつも無理しているんじゃないかって見えるくらいに頑張っている理由を ようやく理解した。
「偉そうなことや、難しい理屈は言えないし分からないけれど、 僕は りょうがいてくれると 嬉しいなって いつも思ってる」
うつ向いていた りょうが顔をあげ 淡々と語るギョウメイの横顔を じっと見つめた。
「りょうの過去に 何があったのか 僕は知らないから、そんな簡単な問題じゃないって言われるかも知らないけれど、僕は 此処に居られて 良かったなと思ってる。 僕は 不器用で 人付き合いの悪い奴だけど この『ジル・ガメーシュ』にいると いろんな人の笑顔を見れることが出来るようになった。 僕でも いろんな人を笑顔にすることが出来るんだと分かったんだ…」
ギョウメイは 思いきって言ってみた。
「その いろんな人の笑顔の中でも、とびきり素敵で大好きな笑顔がある」
ギョウメイは 自分を見つめる りょうの目を見て言った。
「それは、りょうの笑顔なんだ」
りょうは 始め 驚いた顔をして、次に 泣きそうな顔になり…、最後に 不器用に笑ってくれた。
勿論 その左頬には 可愛い片笑窪が出来ている。
「ありがとう」
「うん、その笑顔だ」
とたんに りょうの頬が ボッ!と音をさせたような気がするくらいに真っ赤に染まった。
言った当人のギョウメイも 自分の頬が熱くなるのを感じた。
あー、こういう場合 どんな顔をしたら良いんだろう?
笑えば良いんだよな…。
でも どんな風に笑えば良いのか分からない…。
ギョウメイは 心底 困った。
でも それは そんなに悪い気分でもない。
むしろ 始めて感じる感情だけど、とても嬉しい『困った』だった。
「私もね、同じこと感じてた…」
りょうが ぽつりと言った。
「ここで働かせてもらうようになってから、ずっと感じてた。
なんでだろ? なんか 自分の居場所を見つけた感じ…、自分が 自分でいて いいって感じ。 ここにいると 感じるんだ。
ただいまって…帰ってきた感じ…
あれ? 私 何言ってるんだろう…」
「うん、分かるよ。 なんとなくだけど…僕も そんな感じがする」
りょうとギョウメイは お互いの顔を見て 微笑んだ。 なんとなくだけど お互いに あたたかいものを感じたから。
ふと気づくと、濡れた窓ガラスを通して キラキラと明るい陽射しが 先程まで薄暗かった室内に 射し込んでいた。
あの嵐のような雨が 嘘のように いつの間にか止んでいた。
「ね、ギョウメイ。 屋上へ行こう!」
突然過ぎるのは いつものことだけど、りょうが 唐突に提案をした。
そろそろ戻らないと 奇子さんに怒られそうだったけれど、提案といっても 言い出したらきかないのが りょうなのだ。
ギョウメイは おとなしく その提案を受け入れた。 それは なにより もう少し りょうと一緒に居たかったからだけど。
急な勾配のコンクリート打ちっぱなしの階段を 二人で昇る。
久々の太陽の光を見たいと 急く気持ちを抑えながら、ちょっと急いで… そして足元には充分に気をつけて 三階から屋上まで 二人は昇った。
屋上への扉がある踊り場に辿り着いた頃には 二人とも息が切れていたけれど、足を止める気にはなれずに ギョウメイが一気に 重い鉄扉を押し開ける。
途端に まばゆい光が 二人の目に飛び込んできて 視界が真っ白になって 目が痛いくらいだった。
眩しさに きゅっと瞑った目を 少しずつ開けると そこには雨に濡れたコンクリートの屋上と 新宿に林立するビル群が見え、その向こうには 青い空と太陽があり 黒く天を覆って豪雨を降らせていた分厚い雲の軍団は 既に遠くに 引き揚げつつあった。
雨が あがったのだ。
りょうとギョウメイは 水が跳ねるのも気にせずに駆け出していた。 けして広くはない屋上だけど、二週間も ほとんど室内に押し込められていたことを考えると やっと解放された檻の中の動物のように そうせずにはいられなかったのだ。
そう言えば 小学生の時、雨上がりの水溜まりに わざと両足で 小さくジャンプして踏み込んだことを思い出した。
あとで 泥はねした服を見たお母さんに叱られるのが 分かっているのに そうせずにはいられなかったことを ギョウメイは思い出していた。
見ると りょうもギョウメイと同じようにして 屋上の所々に溜まった水溜まりに足を踏み入れ 水が飛び跳ねるのを 楽しんでいた。
こうした思い出は 誰にだって共通なんだろうなとギョウメイは思った。
りょうが こちらに駆けてくる。
ドンっ…と、ギョウメイの胸に飛び込んできた りょうが ギュッとハグをした。
突然のことに驚いたギョウメイの心臓は 苦しいくらいに 早い鼓動を打ち出した。
「ど…どうしたの…?」
ギョウメイは やっとのことで口を開き そう訊ねた。
「シッ…、静かにして…」
何事かと ギョウメイの心臓は ますます早く鼓動を繰り返したが、言われたとおり 身動きせずに 口も閉じて りょうの10㎝ばかり下の顔を注視した。
先程まで 笑顔で はしゃいでいた りょうは真剣な顔をして 一方を向いて 何かを じっと見ている。
ギョウメイは りょうの視線の先を見た。
そこには 数匹の…、いや数羽の雀が 飛び跳ねていた。
りょうは 雀たちを驚かせたくなくて こんな極端な行動に出たのかと思うと なんだか微笑ましくなる。
「雀…だね」
ギョウメイは、小さな声で 言った。
「うん、でも珍しい」
「珍しい?」
ギョウメイには りょうの言っている意味が分からなかった。 どう見ても 普通の雀にしか見えない。
「ギョウメイ…、あの子たちの頬を見て」
言われて ギョウメイは 雀たちを驚かせないように じっと動かないままで 観察した。
けれど、何が どう珍しいのか やはり分からなかった。
「あの子たちの頬には 黒い班点が無いでしょ…」
言われてみれば、たしかに 見慣れた雀の頬にある黒班が見られない。
「あの子たちは ニュウナイスズメって言うの…、普通に よく見られるのはスズメ…。
ニュウナイスズメは 普通の雀と違って 本当は 森林の中で生活していて、都市部では あまり見かけない筈なのに、こんなに沢山…。しかも 新宿で…」
「そんなに珍しいの?」
「うん。 ニュウナイスズメは スズメとの生活圏争いに負けて 森林の奥で生活することを選んだ鳥なの。
それが、スズメどころか スズメの天敵のカラスが飛び交う都市部の真ん中で こんなにいるなんて珍しいの…」
そうなんだ…と、ギョウメイには あまりピンとこない話に聞こえた。
よく見ると ニュウナイスズメは 普段見るスズメより 少し小さく 登頂部の色も 少し薄く見える。
いずれにしても スズメは雀だ。
それよりも 驚いたのは りょうが こんなに鳥に詳しいことだった。
そう言えば、よく 飛ぶ鳥の姿を 目で追っている りょうの姿を見ていた気がする。
「鳥が好きなんだね…」
「うん」
そう答えた りょうの目は 何故だか とても哀しげに見えた。
好きなものを見るのに こんな目をするものだろうか?
でも りょうの視線は あくまでも優しくニュウナイスズメの小さな群れを 見守っている。
なんとなく分かってきた気になっていたけれど、やはり りょうには りょうの過去があり、当たり前だけど りょうの全てを理解することなんて出来ないんだなと…ギョウメイは 少しだけ寂しく感じてしまった。
ううん、全てを理解しようなんて 思い上がりも はなはだしい。
今 ここに こうして抱きしめている りょうが 居てくれれば良い…。
少しずつ りょうの心に近づいてゆけたらな…と ギョウメイは思った。
ひとしきり そうしていると、ニュウナイスズメたちの一羽が飛び立ち、 残りの数羽も それに続いて飛び去っていった。
見る間に その小さな姿は 青空に溶け込むように紛れて どちらの方向へ飛んでいったのかさえ分からなくなった。
「ふうう…」
りょうが 大きく息を吐いた。
息を するのも忘れるくらいに あの子たちを見ていたんだ。
そう思うと あの可愛らしい雀たちよりも もっと りょうの方が可愛らしく ギョウメイには思えた。
「ギョウメイ…」
「ん? なに…?」
「ちょっと苦しいんだけど」
「え!? …あ、ごめん!」
ギョウメイは あまりの可愛らしさに 夢中になって りょうの柔らかな身体を抱きしめていて、つい力を込めすぎていたようだ。
慌てて ギョウメイは りょうを その両腕から解放した。
「ま……、良いんだけどさ…。
そんなに 悪い気はしなかったし…」
りょうが 視線を空に向けて呟いた。
「え?」
「ううん、なんでもない!!
それよりも そろそろお店に戻らないと 奇子さんに 怒られちゃうよ!!」
ぱっと駆け出した りょうの頬が 心なしか赤く染まっているのを見逃さなかったギョウメイは、やっぱり可愛いなと思いつつ 慌てて その後を追った。
明日も 晴れてくれるなら、久々に屋上で 白いシーツが 風に舞う姿が見れるだろうなと思いながら。
『止まない雨はない』
長雨を降らせていた黒雲は 既に 地平線の彼方に遠退き、東京の上には 青空が どこまでも広がっていた。
to be cotinued……
少しだけ 近づくことができた りょうとギョウメイの二人。
けれど、まだまだ 君のことが、貴方のことが知りたい。
人間は 欲張りな生き物なんだ。