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君がいて 僕がいた  作者: 時帰呼
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君がいて 僕がいた

初めまして、文字書きの端くれにして 透明水彩画描きの時帰呼と申す者です。


今回から、少しばかり 皆様のお時間をいただいて、男女二人の恋と剣と魔法の織り成す物語を お目にかけたいと思いますので、よろしくお願いいたします。




その日は ふと気が向いて 渋谷から

原宿辺りを ぶらついていた。


天気は 初夏なのに汗ばむほど晴れ渡っていて 頬に触れる風は心地よく、朝方に 豪雨が降ったのは知っていたが、さほど 気にもせずに あちこち歩き回っていた。


一人きりで 気ままに歩き回るのは 嫌いじゃない。けれど、道行く人たちの仲の良さそうなカップルを見かけると 寂しさと 羨ましさに囚われてしまうから 出来るだけ見ないようにする。


数えきれないほど建ち並ぶビルの歩道沿いに営業する無数の店舗が きらびやかな服や きらきらと輝くアクセサリー、はたまた怪しげなグッズに溢れかえらせて、嫌でも目を惹き付けるから 気を紛らわせるのには それほど苦労しなくてすむのは助かるなって ちょっと思った。


(君がいて僕がいた)


不意に表情が歪みそうになって、慌てて 空を見上げる。


青い空に 燕が 高く 低く すいっと円環を描いて 飛び去って行くのが見えた。


それは、ほんの数秒立ち止まっただけだったけれど、明らかに 狭い歩道を歩く人たちにとっては邪魔な存在だと気づいて はっとした瞬間、ドスンと重い何かが 僕のふくらはぎに激突するのを感じた。


「ごめんなさい!!」


通行の邪魔をしていたのは こちらの方だ。 僕も その謝罪の声と同時に謝っていた。


「ご、ごめんなさい!!」


振り向くと そこには、眼鏡をかけた 長い黒髪の少女が 足元の大きな赤いキャリーバックを (どうしたって無理なのに) 少しでも通行の邪魔にならないように なんとか小さくならないものかとでもいうように押さえつけながら立っていた。


事態を把握して 苦笑いを浮かべた僕は 重ねて謝った。


「僕が 立ち止まっていたから悪かったんだ。 ごめんなさい」


「いえ、私が… 」


少女も重ねて謝る。それを見て 僕が また謝る。 ふたりが 交互に頭を下げるものだから キリがない。


けど、そんなことをしていること自体が 更なる交通の邪魔になっていることに 僕は気づき 彼女を即して 道路脇のビルの少し引っ込んだところにある通用口の鉄扉の前に移動した。


ふうっと 一息つき、あらためて彼女を見た。 精一杯おしゃれをしているけれど 道行く都会ずれした女性たちと比べると どこかが違う。 どこがどうだと聞かれると困るのだけど、何かが違って感じられた。


「ケガしませんでした?」


彼女が 心配そうに尋ねる。


「大丈夫。 あれくらいでケガなんて」


僕は そう言って見せたけれど、先程 ぶつかったふくらはぎは 鈍く疼くように痛んでいた。


会話が途切れた。


(えっと…、どうしよう?)


その思いは 二人とも同じだったのだろう。 口を開きかけては お互いに 妙な笑いを漏らしそうになり 慌てて口を噤むのを繰り返す。


歩道を行き交う人々は ひっきりなしで 一旦 その流れから外れてしまった二人は 合流するのが難しそうなほどだった。


こうして人混みを ほんの少し離れて見ていると 何故 あんなに 皆が皆 急いでいるのだろうと思える。 楽しそうな笑顔の人。苦虫を噛み潰したような顔の人。耳にスマホを押しあて 大声で話しながら 足早に過ぎ去ってゆく人。


「荷物…、大丈夫でした?」


僕は 間が持たなくなり、少女に問い返していた。


「え、大丈夫です。 壊れるような物は入ってないし…」


そう言って 彼女は大事そうに 真っ赤なキャリーバックを そっと撫でた。


それにしても 場違いなほどに大きなキャリーバックだなと 変に感心してしまった。 まるで海外旅行に行くのかと言うくらいの巨大さで しかもパンパンに表面が膨らんでいる。

いったい何が入っているのですか?と 不粋にも尋ねそうになった時。 不意に 通用口の厚く重い鉄扉が ガチャンと開いた。


ゴツン!!


鉄扉には覗き窓も無かったし、開けた人間も 不用意だったのだろう。 それは 見事に 後頭部にヒットして その場で僕は昏倒してしまったらしい。



…らしい、と言うのは 次に気がついた時には 見慣れない薄暗い一室のソファーの上に横たわっていたからだ。


「あ、良かった」


その声には 聞き覚えがある。 ゆっくりと声の主の方へ首を向けると、そこには 赤いキャリーバックの少女が 泣きそうな顔をして膝まづき 僕の顔を覗き混んでいた。


「ここは?」


「動かない方がいいよ」


こちらは 聞いたことのない声だ。

少女の顔に見とれていて 初め気づかなかったけれど、その背後には もうひとつの女性の顔があった。


「ただの脳震盪だと思うけど、しばらく じっとしていた方がいい」


その歳のころは 30代後半だろうと思える 派手な化粧をした赤く染めたソバージュの女性が 気だるそうに言った。


「すまなかったね」


ツイっと立ち上がり 壁際のバーカウンターの方へ向かいながら そう謝ったところを見ると、どうやら この女性が 僕の後頭部に一撃を加えた犯人に違いなさそうだった。


鈍く痛む後頭部に そっと手をあてると ぷっくりと大きなコブは出来ていたが 出血もなく 大したことは無さそうだ。


「ごめんなさい。 私のせいで…」


キャリーバックの少女が 謝る。


「いや、君のせいじゃないよ」


「そうそう、男なら 細かいことなんか 気にしないもんさ」


先程のソバージュの女性が あっけらかんと いい放ちながら戻ってくると 手にしたグラスを 僕に手渡した。


(あんたが、言うセリフじゃないだろう)


そう思いながらも、僕は素直にグラスを受けとると その中の透明な液体を 一気に喉へ流し込んだ。


ぶふぉっおッ!!


喉が焼け、飲みかけの液体の大半を吹き出してしまった。 あろうことか、それは

水ではなく ストレートのウォッカだったのだ。


「あー、酒はイケない口だった?」


(いやいやいや、そういう問題じゃないだろう? 怪我人に いきなり これは無いだろう!!)


「気つけの一杯にと思ってね」


ソバージュの女性が ケタケタと楽しそうに笑う。 故意なのか不作為なのか判別はつかないが、どちらかと言うと後者だろうと 好意的に解釈しておくことにした。


「ここは…どこですか?」


「見た通り、飲み屋だよ」


「飲み屋…さん?」


「そう、飲み屋。 人生という苛酷な旅に疲れた冒険者が 夜な夜な集う場所。 『ジル・ガメーシュ』という ちんけな酒場さ」


ソバージュの女性が またもや可笑しそうにケタケタと笑う。 どうやら 僕にウォッカを奨める前に たんまりと味見をしていたようだ。


その陽気な様子に キャリーバックの少女も 目を白黒させて 面食らいながらも 思わず笑みをこぼしていた。


「そうだ、あんたも 一杯 どうだい? お詫びの印に 一杯奢るよ♪」


「あの、私 アルコールは あまり…」


「なぁに、うちには ノンアルコールのカクテルだって揃ってる。 なんでも好きなのを言ってみな」


キャリーバックの少女が 手のひらを前にして その言葉を遮る。


「私、何も知らなくて、カクテルの名前とか…」


「ふーん、そうかい。 では 私に任せてくれるかい? 取って置きのオリジナルカクテルを作ってあげよう」


どうやら、断るという選択肢は 用意されてないらしい。 少女は 小さく溜め息をつくと 「お願いします」と ぺこりと頭を下げた。


私の方は 私の方で、手にしたウォッカのグラスを 飲まないわけにもいかないみたいな雰囲気に仕方なく、慣れない強いお酒を ちびちびと飲むことにした。


その様子を見ていた少女が (ごめんなさい)とでも言うように 僕にも頭を下げ言った。


「申し遅れてすみません。 私 、『水野りょう』って言います」


「あ、こちらこそ すみません。 僕は 『保科 行明』 ユキアキと読むんだけど、友達は 皆 ギョウメイって呼ぶんだ」


何故か テンパってしまい、説明する必要の無いことまで 喋ってしまった。

これは アルコールに酔ったのか、それとも 目の前にいる眼鏡の似合う黒髪の少女に酔ってしまったのか…。


実のところ、お酒は 嫌いな方じゃないけれど、さすがに ウォッカのストレートを飲んだことは無い。

せめて氷だけでも入れてもらえないだろうかと、バーカウンターの向こうで 少女のノンアルコールカクテルを作っている女性に声を掛けようとした時、不意に バーの入り口が 大きな音を立てて開いた。


「駄目だ!! また位相がずれた!!」


見ると、そこに立っていたのは、身の丈は二メートルを越えようかという大男。

頭には ダボダボのパーカーの フードを被り 顔はよく見えないが、とにかく声が大きな武骨な風体だということだけは分かった。


「あー、それは タイミングが ちょっとマズかったね…」


なにか重大な事件に取り乱した大男の報告を受けても、ソバージュの女店主は たいして慌てた風でもなく 僕たち二人に告げた。


「どうやら、ゆっくりしててってもらうことになったようだよ。

なに、気にすることないよ。ちょうどお店のスタッフを募集しようと思っていたとこなんだ」


「え、それは どういうことですか?」


唖然として 僕がソバージュの店主に聞き返すと、彼女は ニコリとして言った。


「私の名前は、奇子…天戸 奇子。言っておくけど、源氏名じゃなくて 本名だからね」


事態が飲み込めない。

位相がずれたって何のことなんだ?

帰れないって…?


頭の中で そんなことが ぐるぐると回って混乱していると 更に 追い討ちをかける事態となった。


「そして、そこに 突っ立っているウドの大木みたいな奴が ゴロー」


「ウドの大木は酷いな…」


奇子さんの紹介を受け、ゴローと呼ばれた大男が ぶつくさ言いながら 季節外れのパーカーのフードを外すと そこには ゴツゴツと四角ばって厳ついけれど、人懐こそうな目をした ごく普通の顔があった。


たった一つ、その額に生えた 大きな一対の角を除けば…。



To be cotinued……



ありふれた出だしの この物語は、ここからハジマリ。


何処へ着地するのでしょうか?


それは、私にも判然としないのです。


(勿論、オチは 考えてありますよ♪)

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