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過激な表現
グロテスク
リョナ
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オメデトウゴザイマス
万象の瞳 ヲ有シマシタ。
ライトヒーリング ヲ有シマシタ。
マイナーヒーリング ヲ有シマシタ。
ヒーリング ヲ有シマシタ。
リバイタル ヲ有シマシタ。
キュア ヲ有シマシタ。
キュアディディーズ ヲ有シマシタ。
デッドリィリザレクション ヲ有シマシタ。
ショット ヲ有シマシタ。
『魔力を一定量回復した事により、魔法が解放されました』
視界を覆っていた砂嵐とノイズが消え去る。
「今のは……いったい…?」
ぽかぽかと身体の奥が暖かくなるのを感じながら、与えられる情報の多さに戸惑う。
脳内へ流れ込んできた情報がそのまま頭かから足先へ流れていくような、なんとも表現し難い感覚を覚えながら考える。
まず、魔力が回復したというのは……多分そのままの意味なんだろうけど…感覚的にさっきより体調が良い。
体調が良くなり、思考もはっきりしてきて、気分も悪くない。
ゲーム等でMPを回復するというのはこういう感覚なんだろう。
魔法を解放しました……か。
『他に、見ているモノの為にゲームらしさを加えていますよ』
この世界に生まれる前に聞いたこの言葉はこういう意味だったのかと今理解出来た。
システムウィンドのようなテンプレートも無いが、頭の中で何となく想像できる。
その感覚は、スポーツ選手がテクニック技を身体と頭で意識して扱うような感覚に近い。
次は、この魔法の一覧。
呪文と言った方が良いのか…いやでも魔法を解放しましたって言ってたし魔法か。
回復系の物は分かったが…。
この“万象の瞳”と“ショット”がイマイチピンとこない。
そもそも本当に魔法が使えるのか。
疑り深いわけではないが、経験したことのないものというのは不安を覚えるので半信半疑だ。
でも使って見てない事には分からないのも事実…。
まずは使ってみよう。
両手のコレを治せるか試してみる。
両手に淡い薄緑の光が灯り、温かい熱を帯びて…消えた。
「痛くない…けど」
取れなかったな、この棒みたいなの。
痛みを伴っていた両手は、痛みを無くしたがこの痛々しい棒は取れる事が無かった。
そりゃそうか。
異物までポロッと取れたら…なんて都合が良すぎるな。
「現状、これだけでも都合がいいんだけどね」
ズキズキと痛み続けていた両手に苦しむ事が無くなっただけ幸いか。
この棒はどうにかして取らないといけないわけだ。
ただそれをどうやって取るか……。
今考えるのはよそう。
「お前も、今楽にしてやるからな」
横たわる犬の頭を指で撫でる。
「たぶん、お前のおかげでこうやって痛くなくなったんだと思う。……ありがと」
治してやりたい。
見た感じ病気……だとは思う、あと外傷。
身体が血で汚れているのは、たぶん切り傷や擦り傷が多いからだと思う。
「もっと詳しく知らなきゃ治せないな」
魔法の効果を見るかぎり、ただ単に強力な回復を使えば良いというわけではないみたいだ。
間違った使い方をすれば、治すはずの相手を殺してしまう危険性もある。
経験したことなんて無いが、医者の手術もこんな気持ちなんだろうか。
兎に角、情報だ。
なんでもいいから、目で見て解るものが欲しい。
目を凝らして傷ついた身体を見ていると、ぼんやりと文字が目の前に滲み出てくるように現れ始めた。
命名 ウィツィロウルフ
種族 戦狼
状態 疲弊 衰弱 伏蛇竜の猛毒 身体部位に軽度の傷 打ち身
これは……。
「万象の瞳………あ、なるほど」
視る事が出来る能力って事か。
これでこの犬、もとい狼を治す事が出来る。
「軽度の擦り傷と打ち身……はライトヒーリング」
軽傷ならこの魔法が使えるはずだ。
「衰弱と疲弊と……ふ、ふく…へび?ふくへびりゅう…?」
と、とにかく…猛毒って事はすごい毒って事だから、キュアディディーズが有効なはず。
使用するとさきほどのヒーリングとは違い、淡い空色の光が生まれた。
体力の回復と自然治癒力?を高めてくれるリバイタルも使用する。
こちらはオレンジ色の光だった。
使用する魔法で色が違うようだ。
どれも安心する色合いで、見た目でも十分な効果がありそうな気がしてホッとする。
もちろん、効果は見た目だけではなかった。
状態の部分を見ても何も表示されてない、つまり健康って事でいいのかな?
先程のぐったりとした姿が嘘のように、今は静かな寝息をたてているのできっと健康なんだろう。
「良かったね」
指先で頬を撫でて寄り添い、寝転ぶ。
抱きしめると両手の物が邪魔だから止めておこう。
撫でながら、何とかなったという一時の安心感で目を閉じる。
今は、今だけはこの安心感に逃げさせて欲しい。
本当ならココで足を治せて、脱出の計画でも立てなくちゃいけないんだろうけど。
そこまで考える心の余裕も、集中力も今はない。
異世界転生して五日目の、たぶん朝。
決して強くない自分の心の弱さから逃げるように目を閉じて眠りについた。
今の時間が朝なのか昼なのかはたまた夜なのか。
この薄暗い場所では何も分からない。
元気になったこの狼の頭を指先で撫でながら、コレからどうするか考えている最中だ。
「どうしよっか」
狼に問いかけても返事は来ない。
ウォンと一声返してくれただけでも嬉しいのだけど。
「お前は頭がいいね。まるで俺の言ってる事が理解出来てるみたいだ」
首をかしげられた。
本当に頭がいいと思う。
こちらの問いかけに、鳴くか唸るか首を振るかかしげるか。
良しと思えば鳴いて返され、微妙であれば唸られ、分からなければ首をかしげて返され、ダメであれば首を小さく振る。
本当に理解して反応を示しているようで、つい尋ねてしまう。
ココから脱出する為に色々考えた。
ゲームやマンガ、それに現代知識を多少齧った程度の身でも何とかならないものかと試行錯誤する。
そして、思い至った考えがある。
こちらからヤらねばヤられるという事。
そのチャンスを掴んで、逃げ出す事。
転生する前の空間を思い出していた。
人が人を殺し魔物が跋扈する外の世界。
自分の身は自分で守れという言葉が1番重くのしかかるこの世界の秩序では避けて通れない道。
人殺し。
人を殺すくらいなら殺された方がマシだと思えるほどそこまで弱くなっているつもりはない。
殺さねば殺されるのだ。
今後どうなるかより、今後どうするか、どう生きのびるかを考える方が気持ち的にたぶんマシだと思う。
だから、殺す。
殺して逃げて生き残る。
生前は虫を殺したことくらいしかない人間にどれだけの勇気が必要か分からない。
やらねばならないのだ。
その時を窺う。
その時まで気持ちに整理をつけ覚悟を決める。
「起き……なんだ、起きてんのか」
「おはよう、ございます」
「お、喋れるのかお前」
板に乗った残飯のような食事を床に置いて、男が見下すように近づいてくる。
「今は朝でもねぇし昼でもねぇよ……ったく、奴隷として高く売れるからって飯まで食わせてもらってありがたいと思えよ」
「奴隷…ですか?」
「あぁ、お前みたいな足のない処女のガキを欲しがる変態が居るんだとよ……俺にはわかんねぇな」
「あ、あの…お…いや、私これからどうなるんですか…?」
「知らねぇよ。性処理奴隷として買われて飽きられたら捨てられんだろ。………でもまぁ、お前は珍しい髪と目をしてるから物好きにでも当たればいいんじゃねぇのか?」
「………珍しい、ですか…」
「黒い髪の毛なんざ聞いた事も見た事もねぇからな。目も黒いから欲しがる奴も大勢いるはずだ」
「黒い髪に、黒い目……」
「なんだ、どうした」
「い、いえ……なんでも…」
「ちっ…………あ〜っくそ。頭は商品だからってお前に手を出すなって言われてるし……こちらとイライラする一方だ」
なるほど…やっぱりそうだよな。
「あ、あの…」
「なんだ」
今だけはこの体で、良かったと思いたい。
思わざるをえないようにしなきゃいけない。
「私は売られる身なので、処女に価値があるんですよね…?」
「さっきもそうだって言っただろ。馬鹿なのか?お前は」
「両手もこんなで、足もないし…お相手も出来ないですけど」
出来るだけ色っぽく……色っぽくってなんだろう…わかんないけどグッと来るような感じ?で…。
「ご飯も食べさせてもらえるお礼に………んぇ……わらひの、おくひれ、ひもひひょふひゃへて………ふらはい…」
「は………おま、は?」
「んべ………ろうろ…?」
男がコッチに向かってくる。
目の前でズボンをずり下ろすと、勢いよく中のモノが出てきた。
ムワッとむせ返るようなキツい臭いに不快感を覚えたが、男は全く気にしない。
この男がタッているのを知っていた。
変態のモノ好きがどうの言いながら…子供とはいえ女の身体だもんな…どれだけ溜まっていたのかなんて知らないしどうでもいいが、もと男の俺から言わせても……クソだなって思えるほど本能に忠実だ。
馬鹿で良かった。
「あの…大きい……ですね」
「あ?あぁ…いや、俺こういうの初めてだからわかんねぇんだよ」
「初めてなんですか…?」
「俺ら下っ端はヤられせてもらえねぇ。余りもねぇから見てるだけだ………文句でもあんのか」
「い、いえ…すごく大きくて…びっくりしました」
「そ、そうか……じゃあ、頼むぞ」
先っぽからヌラヌラとした透明な液体が松明の灯りに照らされて光っている。
臭いも見た目も…この身体から見てみると本当にグロいと思えるほど汚い。
「わかりました……………さようなら」
「あ?」
男の顔に手をかざす。
虚を突かれた男はほんの少しだけ仰け反っただけで避けてなどいない。
「ショット」
魔力を込めた不可視の弾丸は男の顔を正確に捉え、破裂される。
パシャン。
まるで水風船が割れるような軽快な音が頭上から聞こえたが、水ほどに綺麗でもない。
ベチャベチャと落ちる肉片と血。
残った身体は一瞬の痙攣を見せて、その場に倒れた。
倒れた後はプルプルと細かく震えていたがそれもほんの少しだけ。
糸の切れた人形のように動かなくなった。
「っ、うおぇぇぇ…!」
我慢していた男の臭いと、新たに生まれた生臭い血の臭いが鼻腔を抜けて脳と肺にダイレクトに不快感を伝えてくれたせいか、その場に吐き出してしまった。
その臭いも相まって、この場所の臭さはなんとも形容しがたい。
「……っう、んく………大丈夫…大丈夫………さ、逃げるよ」
震える身体に言うことを聞かせ牢屋から出る。
狼も一緒だ。
この子を置いて行くことなんて出来ない。
賢いので外に出るまでは仲間として行動を共にしてくれるだろう。
「見つからないように、慎重に…ね」
「ヒーリング」
両足が元通りになった。
生えてくる……と言うより、集まってひとつになる…ような、透明だったモノが骨、血管、筋肉、皮膚と徐々に露わになっていく…ような。
ジュウウ…っと音をたてながら小さい煙があがり初めて足が出来上がる。
自由に動く元に戻った足は、まるで自分のものではないような、でもなんとなくしっくりくるような奇妙な感覚。
ともかく、足が元に戻ったのだから良しとしよう。
階段とも言えない段差を上り、木の板を代わりに立てつけたような扉をこっそり開けて見渡す。
入り組んでいる事は無いがぐねぐねとした天然の洞窟のようにも見えた。
人の気配は……通路の先から多数の人の話し声が聞こえる。
集まっているのだろうか?
一本道故に避けて通る事も出来ない。
覚悟を決めて右に左にと曲がりながら進んで行くと、通路は途切れて大きな空間にたどり着く。
顔を覗かせると、そこは広間のような場所だ。
パッと見ただけでも7人か8人の男がいる。
その奥にも、もしかしたら他に見えない場所にも居るかもしれない。
「……困った…どうしよう」
流石に多勢に無勢過ぎて話しにならない。
「ねぇ……もしかしたらだけど、戦える?」
淡い希望をもち、狼に聞いてみると頷いてくれた。
「お前は…本当に賢いし強いんだね」
作戦らしい作戦……はないけど、戦えるなら1人じゃないから大丈夫そうだ。
「じゃあ、飛び出して騒ぎたててくれっ…あ!」
やって貰おう思っていた事を伝えようとしたら広間に飛び出していった。
「AWooooooonn!!!」
「うわ!?なんだコイツ!」
「誰だこいつを檻から離しやがったやつは!」
「知らねぇ!コイツ死にかけぎゃあああぁぁぁぁ!!!」
「ああああああ!腕、腕がぁぁぁぁ!!ちくしょぉぉぉぉ!!」
広間に風が巻き起こる。
竜巻のような、風はヒュンヒュンと切り裂くような音を発しながら獲物を求めるように男達へ襲いかかり切り刻む。
竜巻の中心にいるのは、狼。
全身の毛を波立たせながら勇ましい咆哮と共に、風の凶刃を生み出し切り裂き続けた。
人がまるでバターか何かのように切り刻まれていく。
首を落とされた者、胴体を真っ二つに裂かれた者、縦にスライスされて細切れにされた者。
たとえ運良く生き残って居たとしても、両足や両手を切り落とされ多量の失血で死んでしまうだろう。
「UuuAwooooooonn!!!!!!」
より一層、勇ましい咆哮が空間を支配した。
風はなりやみ、その代わり上から下へ風の塊よようなモノが降り注ぐ
「なんだ!なんのさわ、ブベッ!」
騒ぎを聞きつけた者が、ブヂュン!と生々しい音を響かせながら潰れてしまった。
圧縮機につぶされたように一瞬で。
その場所と周囲を地面がメリメリ音を発しながら削れる程の風圧が広間のあらゆる場所で巻き起こる。
床にこびりついた肉片と、その肉片の元が着ていた服が散り散りと裂けていく。
この光景はあっという間に止んだ。
まるで、最初から生きていた人など居なかったような静寂が広間を包む。
静寂の後にはただ血の匂いが広がる。
新鮮な肉片は血の匂いをこの広間に充満させる。
さきほどの惨状は夢じゃなかったと証明するように。
その惨状を作り上げた生き物は、くるりと振り返り軽快な足取りで帰ってきた。
成し遂げたと言わんばかりの態度である。
「…………す、すごいな…その、ありがとう…?」
排除してくれた感謝を伝えるべきか。
脱出出来る喜びを伝えるべきか。
この惨状から目を背けるべきか。
他にも思うところがあれど、どう表現したらいいのか分からなかった。
でも助かったのは事実だから感謝の言葉は伝える。
「随分、好き勝手にやってくれたなぁ…?」
耳元で声がした。
今この瞬間まで誰も居なかった背後に人が居る。
その恐怖を覚えた時にはもう遅かった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!