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ほんの少々、子供だまし程度のホラーが含まれております。
ご注意ください。
異世界に転生して三日目。
そして俺がまさかの女性…女体化していた事実は…何日目だ。
それは分からんけども、昨晩の事を思い出す。
昨日から村の屋敷で寝泊まりしている。
幸いにもベッドがあり内側から鍵が掛けれる扉があり防犯は恐らく大丈夫だったはず。
使えそうな衣類や薪や小道具なんかは同じ室内に纏めて置いてある。使えそう、というだけで必ずしも使うと決まったわけではないからとりあえず置いてあるだけだ。
初めて会った、人…だと思う。
もしこの世界にも幽霊やお化けや悪霊の類があるのであればそうなのかもしれないけども、あの場所で見たモノとは違和感を感じる。
しかし、ゴブリンやスライム等が跋扈することが分かっていたこの世界でも、ああいうホラーはあるんだなと思った。
そして、二度と忘れてはいけないと思った。
出来事は俺が女体化していた時に遡る。
「・・・異世界で女体化してしまいましたが何か?」
自虐たっぷりの言葉を吐いてがっくりと項垂れる。
まさか女性になってるとは思わなかった。
女性だけど、見た目年齢で言えば少女だと思う…何歳くらいだろう。
栗色の髪はぼさぼさで毛先が少しばかり焼け焦げている。顔も身体も汚れと生傷が絶えないので正直汚い。
でも笑った顔は可愛かったので愛嬌はあると思う。
生前の自分と比べるが全く似ている部分がない。
それは当然のことなのだが、どうせなら黒髪に黒い目にしてほしかった。純日本人だったらまぁ納得できたんだと思う。
女体化はさておき。
閑話休題。
この時代の少年少女は容姿のレベルはどのようなものなのかと疑問に思った。
当時子供のころに流行った異世界転生アニメや漫画小説などでは、あちこちに美少女が湯水の如く表れていたので思春期の頃は、異世界には美少女(モブ除く)ばかりなのか・・・とそれはそれは良からぬ妄想を働かせて以下省略。
つまり、自分も異世界に転生したのだからきっと美少女になっているはずだと今この時は信じようとしたが如何せん美少女というよりはまぁ愛嬌のある少女だなと思った次第である。
当時の設定でよくあるのが『この時はこう思っていたが実は相当な美少女なのだと本人は知る由もなく云云・・・』。
で。
ただし残念ながら、普通にまぁ良い程度であり人攫いに会おうならば人質として有効活用される程度の容姿…つまり可愛いである。
残念ながら主人公補正と言うのは何時の時代にも存在するのだから合ってもいいじゃないかという不満がすこしばかり存在した話。
閑話休題終了。
今居る倉庫からとりあえず使えそうな物を手頃なバッグに詰め込む。
他に、靴を履き替えて、サイズが合うかわからない胸当てを着けるのに苦戦して、護身用にナイフと…弓。
使ったことないけどそれっぽい動作なら出来るからまぁ無いよりマシと考えて持って行こう。
もう必要そうな物は無いかと改めてぐるりと一回りしてさぁ出発。
しようとしたところで、ガラスの割れる音が聞こえた。
何事かと音のした方を振り返ってみると、鏡が割れていた。
あぁ、ガラスじゃなくて鏡か。
なぜだろうと思いながら鏡の前に立つ。
何の変哲もない鏡で、上の方にヒビが入っている。
まぁなにも無いなら…気味も悪いし早いところ出よう。
鏡の前を離れバッグを片手に担いで再度横目で鏡を確認。
その鏡には直立不動の俺が立っていた。
いや、まぁそりゃ鏡に映るよ。
俺人間だもの…鏡に映らない生き物じゃないし?
でもまって、オカシイんだよ。
俺、バッグ担いで靴も履き替えてる。
鏡に映った俺、貫頭衣を着る前のボロを纏った女の子で裸足。
なんで。
バリッと音がして鏡の一部が割れる。
俺も鏡の俺もそこを見る。
お互いに目が合う。
鏡の俺・・・いや、少女か。鏡の少女は顔半分が爛れた姿で唇を歪め・・・。
み
つ
け
た
。
声は聞こえなかったがきっとそう言ったと思う。
なんで解ったかって?
そんなの直感としか言えない。
でもそれと同時に感じたのは身の危険。
全身に鳥肌が立ち持っていた物を引っ掴んで逃げた。
扉まで行けば!
履き替えた靴のおかげで足元を気にせず全力で走り抜けることが出来た。
しかし、閉めた覚えのない扉が閉まっていた。
いつのまに!?
閉めた覚えなんてないのになんで閉まってるの!
「このっ・・・!・・・なんで、っこんな重いんだよくそ!!」
扉は押しても引いてもビクとも動かない。
先ほどの奥の部屋で鏡がけたたましく割れる音が聞こえた。
驚いて振り返ると目が合った・・・ような気がした。
さきほどまであった目は落ち窪んで真っ黒になっている。
「ガ…ンギ…ヂデ……ワダ………ラ…」
意味の分からないことを言いながら、のそりのそりと両手を前に歩み寄ってくる。
その姿は全身にガラスが刺さっており、なんでどうしてそうなったかわからない裂かれた皮膚がだらりと垂れていて、化物そのものだ。
「食堂…違う、二階!」
なんでその選択肢なのか。
人間焦ると兎に角遠くへと逃げる傾向があるようで、身体は自然と二階へ向けて走っていた。
煙とナントカは高いところが…あながち焦った人間にも同じ事が言えるのかもしれない。
「ワ…ダヂ…カラ…ダァ!」
突然、グッと飛び掛かるように這ってくる化物。
うつ伏せのまま這いずって追ってくる。
そんな事に構うはずもなく、二階へ全力で走り、手短な部屋に入って扉を閉める。
テーブル、タンス、椅子、押さえられそうな物で扉を押さえてうずくまる。
「なんだよあれ…あんな、化物、幽霊…あぁもうわかんねぇ…」
部屋の外からは呻き声が聞こえる。
あいつは階段を昇ってすぐにこの部屋の前まで来る。その前に何とか逃げないといけない。
出来るのは目の前の扉と窓。
可能ならあいつに襲われないように窓から逃げるのが得策。
「なんで、窓…開かないんだよ…」
押しても引いても窓は開かない。
横に動かす余裕も幅もない。
「こうなったら、割るしかないか」
手持ちのナイフで窓を破壊して逃げる。
窓を意図的になんてやったないが、そんなこと言ってられる場合じゃない。
覚悟を決めてナイフを振りかぶったのと同時に、扉が何か強い物で殴られた。
「っひ!」
情けない声を上げながらも再びナイフを振りかぶる。
「っなん・・・え」
振り上げた手が何かに掴まれた。
「ドウジデニゲルノ」
今度ははっきり聞こえた。
「ワダヂノガラダダヨ…イダイノ…イダイノ…」
潰れた半身をずるずると引きずって身体を延ばす。
文字通り、裂かれ別れかけの上半身と下半身が可能な駆動域を無視して引き延ばされ中身がみっともなく垂れ下がっていた。
「ガエジデ…ナンデモッテルノ…アツイノイダイノ」
ぱくぱくと動かす口の中は真っ黒で、目のあった場所も真っ黒で、苦しそうな細い息をならしながら顔を近づけてくる。
「ふ…ふざけんな…これは、俺だ」
「ヂガウノ…ワタシナノ…ダッデソレワタヂナノ」
「ちが・・・これ、は…俺で…俺の、身体だ」
「・・・エ」
「俺の…身体だ」
「ヂガウノォォォォォォォォォォ!!!ワダヂノカラダノノノノノノノノァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
突然の絶叫で身がすくむ。
化物は痛いほどに俺の腕を掴んできた。
「ガエジデ!!!ワダジノガラララダ!!!イダイノ!!アツイノ!!!イヤダ!!!クルシイノ!!!ガエジデ!!!!ガエジデヨォォォォォ!!!!!」
血の涙を流しながら泣き叫ぶ化物は半狂乱になりながらもう片方の手で頭を掴んできた。
「っづ!この、ふざけんな!!…これは俺の身体で、俺が私だ!!!」
「ヂガウノワダジノ!!!ワダジガオドウザンドオガアザンニウンデモラッダワダジナノ!!!」
「だから違うって、言ってんだろ!!」
強引に引き離して押し倒す。
その手に持ったナイフが視界に入り、その時はもう身体は自然と動いていた。
「俺、が!私で!!お前は、化物だろ!!死ね!!死ねよ!!」
何度も刺した。
抵抗されることを恐れて、襲われることを恐れて、得体のしれない不安に恐れて。
「死ね、死ね!死ね!!死ね!!!私は!私なんだ!お前じゃ、ないんだよ!!!」
何度も、何度も、あまりにも強く握りすぎてつなぎ目の粗い柄で手のひらを切ってしまうことも忘れて、何度も刺し続けた。
何度も刺す度に何かが浮かび上がってきた。
それは記憶のような、ちらつく光景は想像のままに走馬燈のように映像を巡らせていく。
知らない男性と女性の顔。
それを親と呼ぶ自分。
幸せそうな家族で、もうすぐ新たな命が生まれる頃の母親のお腹。
そこへ襲い掛かる火の手。
父親も母親も殺され、家を焼かれ部屋の片隅で怯えながら薄れていく景色。
「っはぁ…はぁっ…はぁ…」
ナイフで刺す勢いがおさまり、気づけば涙を流していた。
「オドおザん…おガアさン…ドこ…イダイよ…クるしイノ…」
ドロドロと床に沈んでゆく女の子の残骸がそこにはあった。
「いたイノ…イダい・・・おねがイ…ヒトりにしないで……おとうさん・・・おかあさん……さむいよぉ…さびしいよぉ…」
跡形もなく溶けて消え去った女の子。
自分と似ている…生まれ変わってしまった女の子。
「私が、何したってんだよ…くそ…」
ふらふらと立ち上がり、その場を後にした。
何事も無かったかのように倉庫にある鏡と部屋。
何事もなかったかのように開いている扉。
そして、なにも起きていなかったかのように俺が目覚めた場所は屋敷の中だった。
読んでいただきありがとうございます。
校閲も行いましたが、主観による日本語表現なので違和感があれば教えてください…。
※中世ヨーロッパ時代の治安
色んな異世界転生物でよく見かけるもの…それは治安の悪さですね。
実際にこの時代は城は夜になると門は閉ざされて集落や町に置いても用心棒や自警団が欠かさず視回るほどに治安は最悪でした。
この時代には盗み、強盗、強奪、誘拐、強姦etc…と罪人の集団が存在しており、役人悪人善人問わず殺して奪い取るヒャッハー集団が多かったそうです。
あと、この集団は盗賊団とも呼ばれるそうですが、実は盗賊団の働きの一部を貰う代わりに基地や情報を提供する後見人も居たそうで…こんな話しを調べていると、異世界小説にありがちな悪党ってのはなんやかんや扱いやすい存在なんだなと思います。
因みに、シーンでよくある「行商中に襲われる」「旅の途中に襲われる」というのももちろんあって、これには狼なんかの野生動物が一番怖いそうです。中世を舞台にした童話でやたらとオオカミを推してることがなんとなく分かります。
今回も後書き長くなりましたが、最後まで読んでいただいてありがとうございます!
遅かれ早かれ異世界ファンタジー成分はそのうち出てきますのでお待ちください!