異世界で女体化してしましたが何か?
異世界転生を果たして2日目の朝。
朝食は摂らず、俺は後回しにする予定だった屋敷に向かうことにした。
道中は、乗用車が一台通る程度に広い未舗装の道を森に囲まれながら歩いて行く。
先ほどの廃村からこの道に入る際に見たのだが、道の両端に柵を設置しているところをみるとそれなりに区画整理がされた村だったのだろうかなんて考えてしまう。
歩き通しの道はそれなりに長く、思っていた以上に疲労を感じてしまう。
こんなに歩く速さは遅かっただろうか?
昨日からの疲れが大きく残っているのだろうと思っていた。
餓死するかもしれない状況からこの復活…我ながら本当に幸運だと思う。
もう一生分の運を使い果たしたのかもしれないと思うほどに幸運だと。
しかし…穏やかな景色だ。
先ほどの廃村からは窺うことの出来ないほどに静かな森。
たまに聞こえる鳥の鳴き声と木の葉がさざめく音に耳を傾けながら歩き続ける。
こまめに水分を補給しながら考えるのは、今後の生活と目的の場所になにがあるのか。
まず第一目標に生きている人が居るか。
村があんな状態なのだから、もしかしたら屋敷に避難している人が居るのかもしれない。
勝手な判断だとは思うが、かじった知識が正しければ屋敷に住む領主ないし貴族は村人を助けると思う。
我が領民、我が所有物である民を守ることはしても、あくまで守るだけで屋敷に避難させるか。
この時代がどれだけ前のものかわからないが、あそこで見た映像を見ると中世くらい。
それも大雑把に考えても一〇〇〇年から一五〇〇年。
よく言う、道ばたに倒れていた人間を救う話しは都合が良すぎるので却下。
そこまでお人好しな貴族、つまり高く留まった人間はそこまで慈悲を掛けるとは思えない。
現代世界において発達した医療先進国でも、道ばたに倒れた人間を助けようと手を差し伸ばす人間がどれほどいるだろうか。
日本じゃ気味悪がって誰も助けようとはしないだろうし、助けようと思ってもそれは邪な考えを持つ人間。
つまり、俺が今居るこの時代において最も考えられる価値…奴隷。
生きて五体満足なら奴隷にするか。
虫の息なら見殺すか。
残念ながら俺ならこの二者択一で決定するかもしれない。
病気持ちかもしれない。盗賊かもしれない。
助けるメリットなど、ごく僅かかもしれない。
道ばたで人が当たり前のように野垂れ死ぬことが当たり前の時代だってあったのだから、ここが無いわけじゃない。
…考えが大きくそれた。
何が言いたいかと言うと。
領主貴族であればお抱えの兵士で敵を迎え撃つ、それが困難であれば自身の身と財産を第一に考えお屋敷に引き篭もる。
貴重な財産とはここでいう領地と領民である。
つまり、迎え入れてる可能性が高いよ。
大事だもんね財産。
キリスト教的な教えがあればまた話しはややこしくなってくるんだろうけど。
第二に、向かったとして迎え入れてもらえるか。
ここが非常に重要だ。
この世界でも身分の制度があるならば…いやあるだろうけども。
俺は村の外の人間だし、外の人間がどのような扱いを受けるか分からない。
村の生き残りだと言えばもしかしたら入れるかもしれない。だが問題はある。
それは、この村の人口。
大きい村というわけでもなく、たぶん百人から五百人くらいの小中規模の村。
領主とは顔見知りが多いだろうし、全体が大きな一個家族のような場合もある。
困ったことに、もし話しが通らなかった場合は追い出される。
受け入れられたとしても扱いは賤民のような扱いだろう。
こんな形で旅の者です。なんて言えないし、この時代の旅をしている人間がはたして位が領民程度のものであるかも怪しい…。
個人的に望ましいのは。
一、領民が優しい。余所者でも受け入れてくれる現代版突撃お隣晩ご飯なみの寛容さ。
二、領主ないし貴族が優しい。ご都合主義よろしく聡明な人柄で懐も広く未知の存在に対して探求的で物事の事象に対してあまり動じない度胸を持ち合わせていて下手な嘘でもホイホイ着いて来ちまうような素直な心をもった程よく頭の悪い領主。かつ当時の時代背景に似合わないくらいの肝っ玉奥さんが存在していて夫を尻に敷いていておっとりのほほんとマイペースな人が居てくれたらいいなって思いました。
うん、ないわ。
ご都合主義過ぎる。
こうなったらプランBだ。
え、それはなんだって?
ねぇよそんなもん!
門付近についた。
山道だったから大変でした。
人の気配がしないものだから、さてどうしたものかと頭を悩ませている。
本来であれば、見張りが居てもいいような気もするがそれもない。
炊事の煙もない。人の歩く音も声も聞こえない。
雰囲気的に感じるのは、映画で見かけるような不気味なくらい静かな屋敷。
もしかしてもう逃げたとか。
いや、そんな事はなさそうに思う。財産を守る為に戦って死ぬ…考え難いな。
そんな事でもあれば避難すると思うけど。
実は戦争の只中で領主共々皆殺しになった後。
でもそうなれば駐留軍があると思うし、その痕跡も残ると思う。
そのままに反映されるならこの時代の戦争ってのは略奪が当たり前だから、残る物がないか少ないってのは分かるのだが。
ともあれ、ここで悩んでも仕方ないと思うし先に進もう。
酷くやられた様子もない外観を見るに、中が酷いのだろうなと思いながら半開きの門をすり抜けて中に敷地内に入った。
外観はいたって普通…写真で見たことのある西洋のお屋敷そのものだ。
確か、海外で開かれていた参考物件で見たことがあったかもしれない。
あとはあの映像で見たのがそのまんま。つまり、何から何まで西洋風というわけだ。
高度過ぎるわけでもなく、かといって人の文明レベルとして低すぎるわけでもない。
環境を汚染するほど発達した物もないので管理がしやすいのだろう。
ある意味最良の選択なのかもしれない。
屋敷の入口まで続く道と、左右に広がる庭・・・まずは裏手から見ていく。
右側は馬車と思われる一台分の駐車スペースがあった。その証拠に予備車輪や御者具等があちこちに置いてある。しかし、物は無くこの空間は無駄になりそうだ…。
その横は小屋があり、さらに奥に進むと馬小屋が存在していた。
開け放たれた大きな扉をくぐって中を確認するが、思った通り何も無い…馬小屋に干し草・・・飼葉というのだろうか。それと轡などの馬具等が置いてあった。
荒らされた後だろう。物が散乱していて特に気に留める物は何も無かった。
もちろん、馬一頭も居ない事は言うまでもない。
屋敷の裏手に回ると、先ほどの小屋より一回り大きなものが建っていた。
踏みしめられた後のある地面と、広がる洗濯物だと思う布が紐に掛かって風に悲しく揺れている。
纏める暇もないほどに慌てていたのだろうか。
横目に小屋を確認することにした。
ここも勝手の開いた扉から入る。
外観から分かった通りここは二階建てみたいで奥に階段が見える。
手前の部屋は何も無かった。
箪笥や棚、椅子に机等のテーブル。それに食堂のような広い部屋には複数の椅子とテーブルがあった。
木造の床をギシギシ音を立てながら何かないかと物色中。
磁器で作られた大小様々な瓶や皿が置かれた棚がある。
更に奥の部屋に行くとそこは倉庫なのか、今まで見た部屋よりはるかに上回る物が置かれていた。
近いものから順に追っていくと荒いつなぎ目の革製品バッグ、衣類、布、木製の小道具・・・灯りが欲しくなる暗さで目が暗闇に慣れるのを待ちながら確認していく。
何か使えそうな物を探そうかと思い手に取って入口付近に纏めていく事にした。と言っても、今必要なのは服くらいな物だが。
あとは、ナイフに本物を見たことはないが恐らく胸当て防具も何着か置いてある。
そうだ、合うか分からない服を着るなら鏡が必要だ。
壁の隅に姿見の鏡が立ててあったのを横目で確認したので、服を持ってそこの前に立つ。
埃が付着していた鏡を、持ってきた布で上から下までふき取って改めて自分の姿を確認する。
何年振りかの我が身の姿に不安に思いながらも鏡を見上げる。
見上げると。
うん、見上げたよ。
どちらかというと見つめるというか。
見つめたまま固まってしまったというか。
「・・・え?」
鏡だと思って拭いたものには女の子が写っていた。
見た目十五歳…いや、もう少し若い…いやでもまぁもう少し見積もって十六歳くらいの女の子
「なんだ…鏡じゃなくて絵か…」
鏡だと思っていた絵は自分の挙動に合わさて反転した仕草を同じ動作で行う。
「・・・そっかぁ、絵かぁ」
うん、絵だわぁ…。
そう言えば女の子の声聞こえるわぁ…。
どっからだろうなぁ…。
絵の前でニコッと笑って見せる。
絵だと思われる鏡は同じようにニコッと笑い返す。
「・・・綺麗な絵だわぁ…」
すっと万歳する。
もちろん鏡だと思われる絵も万歳する。
手を下げる。
もちろん絵だと思われる鏡も手を下げる。
いや、まだ希望的観測は残されているわけで。
貫頭衣をめくって下の確認。
…。
…ないわぁ。
ないってか付いてないわぁ。
いままであるって思ってた付属パーツみたいな男の象徴みたいなの付いてないわぁ。
おもむろに胸を揉む。
「うわ柔らかい…」
鏡の前で突然自分の胸を揉みしだく女の子。
ナルシストに変態が入っていると思われても仕方がない。
大きくないし小さくもないジャストフィットな夢と希望が詰まった素晴らしいものがありました。
「もう駄目だぁ…お終いだぁ…」
突然のお知らせ。
俺、女の子になりました。
むしろなんで今まで気がつかなかったのかと。
「・・・異世界で女体化してしましたがなにか?」
出てきた言葉は自虐めいた言葉で。
乾いた笑い声が倉庫から響くだけでした。
読んでいただきありがとうございます。
校閲も行いましたが、主観による日本語表現なので違和感があれば教えてください…。
※中世ヨーロッパ時代の領主と民
この時代の王を含めた貴族などは、民を国民とは呼ばず領民と呼んでおりました。
王も領地を治める立場にあるのはもちろんのこと、国という概念に置ける立場で言えば戦争や外交戦略の時のみだった…と言われてるそうです(※所説色々あります)
作中に表現した「賤民」ですが、いわゆる奴隷などの領民より立場の低い貧しい人達のことです。身分制度=秩序・・・ですので、気に障る方がいらっしゃった場合は申し訳ないですが、ご理解ください。
さて、村の規模における話しをしますと、当時は大きい街(王都と言えば解かり易い)ですが人口は六万人から十五万人くらいの少なさで、中規模だと二千人から六千人ほど。小規模だと百人そこそこないし百人未満の村ももちろんありました。百人未満の村を治めるのは村長でも地主でもなく領主であっていわゆる零細企業のような世界でもあったわけですね。なので、異世界小説でありがちな領主と民が身近な間がらであった…というのもあながち間違いではありませんから、大変仲が良かったというのもあります。
更に、小さな村では領主の屋敷にしかない設備(パンを作る竈や鍛冶屋等)を使用していたとして、交流もありました。
今回、序盤に現代社会の治安や人間心理を持ち出したネガティブな表現もありました。
不快に思われた方もいらっしゃったと思います。
当時は黒死病や流行り病が流行した時代で医療も発展しているとは言い難い時代柄を踏襲しつつ「もし見知らぬ怪しい人が自分の安全な村(家)にきたらどう思うだろう?」と思いながら書かせていただきました。
とても難しかったです…読者の皆様には賛否両論があるとは思いますが、考え得る様々なハイリスクが存在する時代と思っていただければありがたいです…。
現代の「幸せ」の価値観や「正義」の価値観とは大きくかけ離れた時代に生きる人々に我々現代思想が待ったを掛けるのはおかしいかなとも思います。
それが当たり前で当然のことなのですから、我々の思考でどうこうするのは害悪なのでは…とも考えました。
なので、主人公には極力そういう行動を起こさないように努めてもらいましょうと思います。
毎回長い後書きをご覧いただきありがとうございます。
今後も不定期に更新していきますので、どうぞよろしくお願いします!