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1話から、後書きに私が調べた中世ヨーロッパ時代背景を書いてます。
それを基に作品表現に尽力しておりますので、補足程度になれば…と思います。
異世界に生まれて7日目当日。
いや、落とされて…?召喚されて…?
俺は女になった。
させられた…なっていた…した…どれもしっくりこない。
女体化した…させられていた…これだ・・・しっくりくる。
何を言ってるのか分からねぇと思うが、大丈夫だ・・・俺にも分からん。
ともかく、自分の中で整理したいから少し振り返らせてほしい。
その事に気づくまで色々あったのだ。
一日目深夜。
空腹と喉の渇きで目覚めたが、起きた場所は相変わらずの廃屋だった。
起きたらきっと真っ暗な世界が広がって、代わりとしていやに発達した聴覚が聴き慣れたナースの足音と扉の外の喧騒を伝えてくれるだろうと思ってた。
でもそんな事は無かった。
顔をあげると椅子が倒れていた。
きっと、気を失って転げ落ちたのだろうがいつ倒れたのかすらもう覚えていない。
じわっと広がる痛みに目を向けると掌が血塗れだった。
まるで何かに齧られたような痕で見ていて痛々しかったし、なぜか吐き気を催す。
きっと、まだ固まり切れていない傷口から菌が入って化膿して破傷風にでもなるのだろう。
ネガティブだ・・・現状、俺はとことんネガティブだ。
こんな世界、場所に落とされて今の際死に掛けている。
でも良かったのかもしれない。
感覚も麻痺してきた・・・空腹も喉の渇きも、強くなったり弱くなったりを繰り返してもう意味が分からない。
最後に食べた食事はなんだったかな。
目の見えなかった俺には味覚と風味でしかそのイメージを掴めないがそれでも最後に食べたのは・・・。
確か、病院食だった気がする。
身体に良いからと、味濃くないがあまり好きでもない食事内容を思い出す。
あの時、たくさん食べておけばよかった。
何の不自由なく食事が出されることがとても有り難い事だってここまで追い詰められなきゃ気づかなかった。
目が見えない事を不幸に思い、繰り返される平凡な日常に不満をぶつけて、平和であることが解かっていなかった。
まだ死にたくなかった。
まだ死にたくない。
まだ生きていたい。
生への渇望は時として人を大きく動かす。
芋虫のように這って外へ出る事も、惨めなその行動は生きたいという本能に従った故の行動だ。
心臓はまだ動く。腕も手も脚も足もまだ動かせる。意識も浮き沈みを浅く繰り返すがまだ考える力は残っていた。
大丈夫と根拠のない自信で自分を奮う。
廃屋から出る事を目標に、這う。
とにかく這って、這って。
何かが触れた。
この廃屋の中、布のような柔らかい感触は初めてだった。
細くなった息も絶え絶えの中、そちらに目を向けると一つの布袋が4つと一枚の紙。
『連れて行きたかったがこれしか出来なかった許してくれ。生きていることを願う』
雑に書かれたその紙を見て、恐る恐る一つの袋に手を伸ばした。
冷たくもぐにゃりと歪む感触は、触ったことのある物だった。
うつ伏せのまま両手を伸ばし、それを手に持つ。
振る。
ぽちゃぽちゃとなる音はすぐに解った。
すぐに袋の口を探す。
細く括られた口はコルクのような形の加工した木で栓をされていて、抜くとその反動で中身が少し零れる。
慌てて口を含み横向けになりながらも頬張った。
口いっぱいにじんわりと広がる冷たさは欲されるままに喉を通って、まるで身体全身を駆け巡るかのようだ。
口の端から零れる事がもったいないと、指で掬ってその指を舐める。
意地汚いと思うだろうか。
だがしかしそれほどまでに求めていたのだ。
もしここに他人が居たのならば、その人は「意地汚い」と蔑んでいたかもしれない。
でもそんな事を気に出来る状態ではないし、気にしなかっただろう。
それほどまでに追い詰められていたとあとで冷静に理解した時は、自傷気味に自分を笑っていた。
でも自分を皮肉る程度に笑えるのは生きる余裕が出来た証なのだと思った。
袋半分を飲んだところでむせ返り、仰向けに寝転ぶ。
荒い息を吐きながら、呼吸と心臓を落ち着かせる。
口の端からまた水が垂れてきたので舐めとると鉄の味がした。
ああそうか、口を開けた衝撃で乾いた唇が切れたのかも。
ドクドクと脈打つ心臓が響く中、確かに生きている実感を改めて知る。
良かった…まだ生きている。
落ち着いて、改めて寝返り残りの袋を手繰り寄せる・・・が、少々重たかった。
今の力では片手で手繰り寄せるのは難しいから両手を使う為に起きる。
その時初めて気づくのだが、腕も足も細く手も小さい・・・。
まるでこれでは子供のようだと思うも、先に知りたいのは目の前の袋の方であり、先にそちらがどうしても気になった。
この時でさえ自分の身体の変化ないし異変はこの時意識の外に追いやることにしたのだ。
残りの布袋内には何があるのか。
一つ目の袋には、二枚の布が入っていた。
広げてみると貫頭衣のような衣類が一枚と、これは服でもないしズボンでもないし、ただの布である。薄いのでひざ掛けのような物かもしれないからこれを羽織って寝るとしようと思った。
残り二つの袋に入っていたのは、果物と肉のような固形物。
月明かりに照らされて見えた果実を手に取りまじまじと眺める。
いびつに丸く大きさも林檎もしくは梨より大きいかもしれないそれを、黄緑色の果実と思うそれの香りを嗅いでみた。
甘い香りがした。
恐る恐る口へ運び、一口。
歯ごたえは柔らかい果肉で噛むほどに口の中に甘味がじゅわじゅわと広がる。
あとはもう夢中だった。
とにかく食べる事に集中する。
口の中いっぱいに頬張り、何度も何度も噛んでは食べるという欲求を満たすために胃に流していく。水同様に喉を鳴らして食道を通じてその甘い果実を貪った。
芯の無かったその果実はへたを残して全て食べきった。
手に付着した果実の汁を舌で舐めとってその味を感じて余韻に浸る。
べたべたの手で構わないと思い、茶色の固形物に手を伸ばした。
触った感触では、まるでビーフジャーキーのようだ。バリバリに固そうでとても噛めそうではないそれを口に入れてみる。
小さかった口では半分ほどしか入り切らなかったし、噛みちぎることも出来なかったので仕方なしと噛み続けて柔らかくした。
噛むたびに臭みと薄い塩と薄い肉の味が口の中に広がる。一切れずつほぐして飲み込んでやっと三分の一を食べきれた。
正直、美味しくなかった。
薄い塩に薄い肉の味、それに臭みは先程の果実と比べれば全然美味しくない。
「でも…美味しい」
バリバリに固い固形物が美味しいと思ったことは生きてきた中で思うはずも無かった。
しかし噛む度に溢れるのは口の中に広がる薄味だけではない。
「っ…っぐ、んぅ…うぅ・・・・お゛い゛し゛い゛・・・」
ボロボロと泣きながら何度も何度も噛む。
マズいから泣いてるわけでは無いことも解っていた。
生きて、食べていることが嬉しかった。
それに安心して、意識もしっかりしてた頃には声を殺しながらもボロボロと泣き崩れていた。
薄味のそれは、最初に比べて塩の味が濃かった。
二日目朝。
食べて飲んで泣き疲れて明けた朝。
頭から貫頭衣を着こんで、袋を背負い歩き出す。
朝食は摂らない。
この保存食と水がどこまで持つか分からないし、とにかく自給自足出来る物を探すかどこか人が居るところに行かねばならない。
今日は、昨日探して見つけた大きな屋敷に行ってみようと思う。
ここが廃村同様ならばあの屋敷も廃村…だがここより何か良いものはきっとあるはず。
物置小屋で発見した小振りのナイフを片手にそこに向かうが、昨日より回復した身体なら行けるはずだ。
後回しにしなければ良かったと思う結果にならない事を祈る…。
読んでいただきありがとうございます。
校閲も行いましたが、主観による日本語表現なので違和感があれば教えてください…。
表現の仕方は自由です。
だがしかし、私の書き方はすこしばかりくどさを覚えてしまうのが難点ですね…でも細かく表現したい私のこだわりなのでお許しください…。
※中世時代の「肉」
この時代のお肉って扱いが大変なんです。
色んな作品で出てくる中世ヨーロッパのお肉…一見してすごくおいしそうであり、骨付き肉などにかぶりつくのは私のちょっとした夢でもあります。
そんなお肉ですが、当日のヨーロッパでは長い冬を越す為に牧草の保存は難しい…牧草を食べて育つ家畜はどうしたらいいのか・・・どうも出来ないので屠殺しちゃいます。
そうしてお肉へ加工して、干し肉や塩漬け肉にしてたんです。
しかし衛生面はあまりよろしくなく、蛆や蝿の発生したお肉を一度煮沸して食べる…のですが実は殆ど腐った肉ばかりで、当時では当たり前だったんですね。
なので、作中にも「臭み」という言葉を使いました…が、そこまで台所事情に拘るとどうしようもないので、万能役者の「魔法文明」様に助けていただきます。
蛇足ですが、コショウが伝わったのは16世紀からなので、作品の舞台となる中世ヨーロッパ風異世界への登場は…考え中です。
当時の時代背景を鑑みながら試行錯誤して遅々としながら書いていきます…!