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続きました。

注意事項をご理解の上でお進みください。


 目を開けると、眼前に広がる広い焼け野原。

 焼け落ちた木材家屋は細々とその痕跡を立ち昇らせていた。


「ここは…」


 こめかみが痛い。

 チクリと痛んだ場所を指で押さえながらゆっくりと周りを見る。

 どこかの廃屋…だろうか?

 半壊した小屋なのか…家なのか…の中に俺は倒れていた。

 倒れていた場所は荒い地面の上。屋内だっただろう場所にこの床を見て、ここが俺が生きていた場所ではなかった事が解る。


 身体のあちこちが痛い。

 とにかく起き上がり、さらに状況を細かく確認するために一歩一歩ゆっくりと屋外へ進んだ。


 分かった事はここが焼かれたばかりの廃村であること。

 少し歩いて見ても動物すら居ない本当に無人の村のようだ。

 どの家も荒らされているか燃やされているかで以前の光景を想像させることも難しいとさえ思った。

 こんな場所に落とされたのか。


「あのクソやろう…」


 吐いて出た悪態も聞こえているのかすら分からない。

 ただ、こめかみの痛みは消えた。


 そして脳裏にフラッシュバックするあの光景。


「っう、ぇ。おうえぇぇぇぇぇ・・・・‼」


 嫌なものを思い出した。

 涙ながらに荒い息を吐きながら、出すものなどないはずの所から出てくるのは胃液ばかり。

 胃から食道へせり上がり喉を通って口いっぱいに広がり口から吐き出た。

 すっぱい胃酸は喉と口に痛みを与える分には十分で、無意識に水を求めた。


「水…・・・水道・・・井戸…あとは」


 ともかく何でも良い。

 水分を取らねばと意識したら急激に喉が渇き始めた。


 一軒ずつ建物を見て回った。

 

 まずは身近な場所。

 こうなる前は何かの物置小屋だったのだろうか。棚らしき場所に大きなハンマー、刃物が掛けられていた。

 焼かれた箱の中や、樽の中を見ても何も入っていなかった。


 二軒目。

 今度は民家だ。

 軒先の周りを見て、玄関を入るとすぐリビングのような場所だった。

 ような。というのは見てそのまま…焼けてしまったテーブルを囲むように四脚の椅子が無造作に倒れている。

 その向かい側には石で作られたかまどや水場があった。

 ごくりと息を呑んでそこを見る。

 桶、小樽、四角に作られた箱の中、戸棚らしき場所…何も無かった。

 続いて、寝室だった部屋に入る。

 ダブルサイズの大きなベッド、その横には赤ん坊が眠るであろうゆりかご。

 寝る為の部屋として機能しているだけで、他には何も無い。


 その他、数軒も全く変わらないものだった。

 どこももぬけの殻で、あるのは焼けた家財道具のみ・・・水はおろか食べるものすらなかった。


 村であるなら何か食堂や酒場があるのでは。

 そう思い探してみる。

 民家から離れて反対側…もう少しだけ歩いてゆくと家よりか大きな、造りの違う建物があった。

 それは、アニメや漫画で見知った酒場のような食堂のような場所。

 形はもちろん違うが、何かあるかもしれない。


 民家になにも無かったから分かっていたようなものだったけど…何か、何かあるかもと淡い希望へ無意識に縋りつく。


 コップ一杯、両手一掬いの水で良いから…。

 

 急く思いと不安を押し殺して中を物色する。

 目の前にカウンター、いくつも並んだテーブルに椅子、壁にはボード等があった。

 こうなる前の平和な時は、ここで飲み食いしていたんだろう。

 仕事終わりに独り身の男性がカウンターで食事をしたり、若い男女のカップルが席で楽しそうに美味しい食事を囲み満喫したり、家族連れの親子が子供と一緒に食事をして、子供たちは普段とは違う食事に目を輝かせる…。

 夜も深まれば大人の雰囲気に包まれ酒場として騒がしくも明るい喧噪を迎えていたのかもしれない。 

 カウンターの裏、キッチン、倉庫、壊された酒樽。何の部屋か分からない空き部屋。

 全てを見て回ったが、収穫は何一つなかった。
















 たぶん数時間くらいたっただろうか。

 もっと経ったのかな。

 俺は最初に目覚めた廃屋に戻ってきた。

 目覚めたのが朝か昼か分からなかったが外には夕陽が差している。

 戻って、壊れかけの椅子に座った。


 何も、何も無い。


 もしかしたら虫も居ないんじゃないかと思うくらい他に生き物の気配が無かった。

 探し回った時に更に色んな場所を見つけた。

 畑を見つけたが、荒らされていて何も見ることは出来なかったから諦めた。

 井戸を見つけた時は喜んだ。

 初めて見つけた大収穫に思わず頬が緩みかけた。

 急いで寄って垂らされた縄を手繰り引き上げる。


 結果出てきたのは先が切れた縄のみ。

 水を汲む桶なんて付いてない。

 俺はその場に蹲った。


 そして疲れた身体を引きずって最初に目覚めた場所へ戻り今に至る。

 壊れかけの椅子に座り込んで、もう何もしたくないと膝を抱えてしまう。


「疲れた…」


 喋ると喉が乾く。

 口を開けると乾きに引きつった口内か喉かがじりじりと痛む。

 喋るのを止めよう。

 ボーっと目の前の景色だけを眺めつづけていたら視界が歪み始めた…これはもう駄目なのではなかろうか。

 身体のバランスを保てず、椅子から転げ落ちてしまう。


「っ・・・っづ・・・っ」


 転げ落ちた際、手のひらを何かで切ってしまった。

 血がじんわり広がって指から滴る。


「・・・血が…血……」


 血、血液、液…エキ…えき……みず?


 乾いた口からおずおずと舌を出して血を舐める。


 ごくり。


 口の中に仄かな血の味。

 酸っぱいのか、マズいのか、鉄なのか。

 鳴らした喉に従って掌の血を吸った。


 夕陽が差し込む中、割れたガラスに反射して映ったのは、黒髪の少女が自分の血を舐めている姿で。

 絶望しかけたこの世界で初めて口にした物は自分の血だった。











『あぁ…なんて可愛い…』

 

 歪んだ愛情の目を向ける先に居たのは、黒髪の少女。

 私がこの世界に産んだ落とし子。

 人は産んだ我が子を嫌う事もあるという。

 生まれた後悔。産んでしまった後悔。


 だが、スクリーンを眺める瓜二つの少女は血を眺める同じ姿の少女を恍惚とした姿で見つめ続ける。

 荒い息もさながら、時折身体を震わせ息を吐く姿は色っぽいとさえ思える。


 その少女の後ろには山と重なった黒い塊。

 その黒い塊とは、焼け死んだ人型の物であった。

 

 愛おしいが故に歪んだ愛情は何者をも凌駕する。

 彼女が死ぬことは許されない。

 だがしかし、痛みに悶える姿は見たい彼女が苦しむ姿が見たい絶望に打ちのめされる姿が見たい。

 それは正しく全て起こり得る感情。

 

 愛だ。


 愛してる。愛してる。愛してる。

 ただただ愛してる。

 恨まれる事も蔑まれることも憎まれる事も、彼女のすべての感情を一身に受けても傷つかない。

 

 愛ゆえに。


 創生神であるアレが要らぬ事を吹き込んだのかも知らないが。

 私は彼女を見守り続けよう。

 依代よりしろさえあれば、私が彼女の盾になりたい。


『愛しておりますわ…』


 クスクスと微笑みスクリーンを見続ける少女の声は、この薄暗い空間をどこまでもこだましていった。


読んでいただきありがとうございます。

校閲も行いましたが、主観による日本語表現なので違和感があれば教えてください…。


一部表現として脱水症状に陥った時の事を思い出しながら書きました。

嘔吐は実際に指をツッコみ感覚を掴んでみたり…。


※ガラスについて

中世後期には無色透明のガラスが作られていたみたいなので作中に表現いたしました。

今度登場する表現として気を付ける物として、中世ヨーロッパにはまだ透明のガラス瓶などは無かったそうです。代用として、当時あった磁器を使用したいと思います。

ローマ時代に普及され始めたガラスですが、当時はまだまだ貴重品でとても高価な物だったらしく…一般庶民の家も窓ガラス!という表現はあまり相応しくなかったのかもしれません・・・。

主人公が目覚めた場所はでガラス片があったのはおかしいのかなぁ…と思いつつも、最初だけ…これだけだから…と思いながら書きました。表現力の足らない私を許して下さい。


本作は1話が2500~3500文字と大変短い構成になっております。

物足りないとは思いますが、執筆速度も相まって…どうかお許しください。


後書きもお読みいただき、ありがとうございました!

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