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導入編

この作品はほのぼのを目指しています。

残酷な描写もありますのでお気をつけ下さい。


 少なくとも、人生ってのは大体が妥協と自己満足で出来ている。

 そう思わざるえなくなったのはいつの頃からだったか。


 平々凡々とした生き方が好きだ。

 刺激に富んだ日常より、ありふれた景色の中で生きていくことの何たる幸福なことか。


 失敗しないように生きてきた結果も、失敗続きから生きてきた結果も・・・どちらにしても上手く行かない事が上手くいくように頑張ってきた結果なのかもしれない。

 

 失敗のない人間はいない。

 転ぶと理解していて転ぶと血が出て痛い。

 上手くいかないとわかっていたから、諦めることも必要だったのかもしれない。


 不治の病とやらを患ってしまった俺は、未練たらたらの人生をこの寂しい世界で過ごすことになるのかもしれない。


 それは…。

 とても悲しい。


「次に生まれ変わるなら…」


 不治の病に侵されない俺は普通の人で人生を全うしたい。




『私は失敗したことがない。

  ただ、1万通りの、うまく行かない方法を見つけただけだ。』

 

  Thomas Alva Edison




















『おはようございます。遊佐ユサ 瑠那ルナさん』


 …。


『もう起きる時間ですよ』


 …まだ起きたくない…。


『そういうわけにはいきません、アナタと話しをしたいのです』


 入院中、面会の予定は無かった俺に話すこと?

 なんだそれは。


「何の用かは知らないけど、まだ起きるような時間じゃないぞ…」


『アナタがそうでも、私はそういうわけにはまいりませんから・・・さ、起きてください』


 断る。

 俺はまだ眠いんだ。


『困りましたね…私はあなたの願いを聞き届ける為にこうやってコンタクトを取っているのに』


 アポも無しに突然の来客は失礼なんじゃないか?


「俺は病人だ」


『存じております。不治の病だとか』


 知っているなら、改めて面会依頼を出すことだよ。


『その必要はありません・・・遊佐ユサ 瑠那ルナさん。アナタはもう死んでいるのですから』


 何をバカなことを。


『いいえ。全て本当です。…さぁ、その目を開いて』


 開く目もないのにどうやって。


『欠損は完治済みです…何かと不便でしょう?』


「・・・。…?……っ!?」


『おはようございます』


「君は」


『私は・・・なんと言えば良いでしょう…?人の言葉で表現するならば、創生神そうせいしん、といえば良いでしょうか』


「そうせい、しん…?」


 開いた口が塞がらないとはこのことか。


『そうですね…アナタが思い浮かべたのはきっと創世神だと思います。しかし、私が持つ力は多種多様の生物を生み出す力。世を創る力とは違います』


 コイツは何を言ってるんだ…。


『理解がまだ追いついていないようなので、ご説明しますね』


『アナタ…遊佐ユサ 瑠那ルナさんは残念ながら死にました。』


 …は?


『原因は…医療ミスと、アナタの病弱な身体が病に打ち克てなかった。』


「ま、待ってくれ!…医療ミス?死ぬ?な、何のことだよ。現に俺は今こうして生きているだろ!!」


『まずは話しを聞いていただけますか?・・・手荒な真似、というのはしたくないのです』


 今気づいた。俺はいったい誰と話しているのか。

 彼、ないし彼女は姿が見えず声だけが直接脳内に響いて来る。

 さらに俺は言葉を発することも出来なくなった…いや、出来なくさせられたの方が正しいだろうか。


『もちろんアナタは、身体が病魔に蝕まれ儚い人生を病と共に過ごすような人物ではなかった。不治の病もせいぜい視力が欠損してしまうことくらい・・・さらにあなたには言語障害もありましたね…さて、ここで問題ですが』


 脳内に響く声が、お茶目な悪戯が暴かれるのを心待ちにしている子供のように気色にとんだ声をあげた。

 もちろん、声をあげたという表現はおかしいのかもしれない…ただ、俺にはそう直感的に思った。


『アナタは、なぜ、言葉を発しているのでしょうか』


 疑問。

 素直な疑問。しかしその疑問は俺にとって衝撃的な事実だった。


『私が、会話には不便だからと。わざわざこうして不自由を取り払ったのです…この意味がお解りいただけますか?』


『全てはアナタの為に!・・・いいえ、もしくは私にとって敬虔な信者の為に…いいえ、はたまた神の気まぐれの為に…』


 ケイケンな信者?カミの気まぐれ?


『そろそろご理解いただけますか。こうして、生物の輪廻転生を司るわたくしこと創生神そうせいしんがわっざわざ人間一人の為に舞い降りたのです…あの世界であれば、それはもう崇め称え自身の身の矮小さに打ち震え感動に咽び泣く事も当然なのにアナタはその事実にさえ気づかない!』


 まるで心臓を鷲掴みにされたような感覚。

 実際に心臓を鷲掴みにされる経験など生きている内に果たして達成するのかと言えば、もしかしたら有り得ないのかもしれないがあるかもしれない。といった曖昧な感覚を今経験している。

 ただ、とても怖い。

 

 むせ返る様な。

 吐き気を催すような。

 胸の内側を強い鈍痛が支配する感覚…それはとても不快だ。


『・・・お解りいただけましたでしょうか…?如何に今のアナタが無力で小さき存在なのか。アナタにはイエスかノー。ハイかイイエ。肯定か否定。否定か肯定の受け答えしか、たった今だけは許されないのです。…さ、話しを戻しましょうか。いいえ、しかしせっかくなのでこのまま話しを進めアナタに新たな人の生を勧めましょう』


『ではこちらを見てください』


 視界いっぱいにモニターのような画面が出現する。

 そこには広大な海、険しい山々、青々と広がる草原、光を拒むかのように群生する森林・・・地球でも目にすることはネットや写真くらいだろうと思われる景色が次々と映し出されていた。


『お次はこちらです』


 さらに切り替わって映ったのは街と人、城と城壁、集落と畑。


『私達にとって・・・並行の世界を管理する者達にとって、この中世時代・・・人の知識で表すならば西暦500年~西暦1500年ほどの間が一番扱いやすい時代なのです。故に他の世界の神々も世界創世を行う際はこの時代を基準に作成します。…あなた方異物にとっては大変重要な知識ですから覚えておいてくださいね。ここからさらに詳しく、話の内容は難しくなります』


『アナタが生まれ落ちる予定はこの…時代で言えば中世後期。金属による一般食器などの加工がやっと始まり一般家庭に普及され始めた時代です。文明レベルは中程度であり火薬も人々に知れ渡っていますし…とは言え、大したことではありませんね』


『ここまでで、何か質問は?』


「・・・いいえ」


『結構なことです。…それとも、次々に現れる映像に思考が追い付きませんか?』


「はい・・・」


『では続けましょう。文明レベルの話しでしたが、付け加えると時計と紙は存在しますし天文技術のおかげで一日が24時間であることも人々に立証されました。紙は羊皮紙が重点…ではありませんがちゃんとした紙もあるようです。印刷で本を作成し活版印刷かっぱんいんさつの技術も発達しています。人並み程度かそれより少し高い水準で生活ができますね。おめでとうございます』


『では続いてこちらを』


 次に写し出されたのは剣や槍、斧、弓、馬に乗り鎧を身に纏った人々だった。

 中にはマントのような軽装の人もいる。


『この時代の武装レベルをご説明しましょう。この時代になると、先ほどもお伝えしましたが火薬も存在し、火薬が使われる武器…そうですね、解かり易く言うならマスケット銃、大砲、擲弾てきだんが存在します。さらに話しを続けますと、騎兵こそ至高という戦争理念がありますし…そこからさらに進化させるつもりはありませんし、間引く為の作業工程で大変面倒です』


 マビク…?


『どうされました?』


「マビクってのは、間引くって事でいいんだ…いいんですか」


『そうです』


「・・・間引く、か」


『なにか?』


「いや、なんでも…」


『それならば結構です。では次、武装レベルの話しをしましたから…次は生態についてお話ししましょうか。他の世界の神々にのっとって、魔物が存在します。魔物とはスライム、ゴブリン、オーク、ワイバーン、ハーピー、ドラゴン等々』


「魔物…か。何のために?」


『人類種が発達し過ぎないよう適当な数に間引き抑える為です』


「まるで、家畜みたいだ」


『ええ、私はこの世界を管理しているのですから…私から見ればこの世界に生きるすべての動植物は私の所有物であり家畜に変わりありません。並行世界を管理する他の神々は面白いからと導入しているようですが…私は有用な価値観を見出して扱っています』


『しかし、私は間違っていました…たかが剣や弓程度で人間が魔物に勝てるわけなどなかったのです…一度絶滅危惧に瀕してしまいましたから。なので、人間でも魔物を倒す事が出来るか出来ないか程度にまでレベルを下げて、火薬と魔法を与えました』


「魔法?」


『はい、魔法です』


 景色が変わった。

 目の前に映し出されたのは、色とりどりの石のような物から水や火を生み出しそれを生活利用に扱う人々の姿。

 もう一方は、自身の何倍もの大きな火…いや炎で・・・さっきの魔物、だろうかを殺している人の姿。


『ご覧いただいて分かる通り、魔法を扱うことによって多少は楽に魔物を倒す事ができます。ただ、人類皆がこの魔法を扱うことが出来てしまうと均衡がまた崩れてしまうので、魔力と言う概念を私は人類と魔物双方に付与しました。魔力を持つモノと持たざるモノにけ、一定の基準を満たすモノのみが扱うことのできる魔法…これは大変でした。他の神々はホイホイと何も考えずに扱わせるものですからどれだけの労力が掛かっていることやら』


「この、魔法…は、俺にも使えるのか…ですか」


『え、あぁ…まぁ差し上げましょう。話しは続きますが、魔法は四種類の地水火風です。これ以上は管理能力に差し障りますし、あまり増やし過ぎても面倒ですから…もっと簡単に言えばアナタが住んでいた世界のゲームに出てくる魔法が扱える。と思ってください』


『話しは長くなりましたが、以上が私の管理する世界の設定です…何か質問は?』


「俺は、これからどうしたらいいですか」


『私が管理している世界で生きてください』


「なぜ、俺なのでしょう」


『アナタはくじの入った箱の中からあたりはずれを選ぶような人なのですか?』


「え…?」


『つまりそういうことです。選ばれて良かったですね』


「それはどういう…」


『あとは、そうですね…これは私の個人的な趣味なのですが服飾に拘っています』


「フクショク?」


『見るのなら目に優しいものでなければなりませんから』


「はぁ…。…?」


『他に、見ているモノの為にゲームらしさを加えていますよ。それでアナタが転生する新しい人はこれですね』


 目の前に映し出されたのは、焼かれた村。村人らしき人達が叫び喚きながら逃げ惑い、あるいは地に伏している。


『あ、遅かったですかね…あららこれは盗賊、ですね。あぁもう、ちょっと目を離すとこうなるんだから…』


 目の前に広がるのは地獄絵図。

 映画や漫画アニメの世界でしか見たことのなかった、惨憺さんたんたる景色。


 抵抗していたと思う人が数人から滅多刺しにされる姿。

 逃げる女性を無理矢理押し倒し犯そうとする野蛮な男。

 それに抵抗しようと必死にもがいて叫び助けを乞う女性や少女。

 儚い命をどうにか繋ごうと這って逃げる老人に殴る蹴るの暴力が襲う光景。

 我が子を守ろうと抱き身に隠す親を容赦なく親子共々刺し殺す光景。


 地獄だ。


 無い身体の内側から吐き気を催す。見るに堪えない光景を見たことによる幻痛に悩まされる頭。

 目を背けたい耳を塞ぎたいこの場から早く逃げ出したい。

 しかし残念ながらそれを許してくれる身体が無い。


 地獄だ。


『それでですね、アナタが生まれ変わる人間なんですけど…あ』


 その映像が次に切り替わった。

 女の子だった。

 ・・・だったのだ。

 焼け爛れた皮膚。片腕を欠損した身体・・・いや、両手足もない。

 それはまるで、達磨

 人間の達磨だ。


『あぁぁ…どうしましょうか…これじゃあ生まれ変わってもすぐ死んじゃいますね。困ったなぁ…』


 その隣には、全身が燃え尽きもはや分別のつかなくなった同じような・・・子供。


『あ、そうだ別にコレでも問題はありませんでした』


 炎が燃え盛る場所が目にとまった。

 その場所に二つの影が近づく。

 片方は、手に剣を持った男。もう一人は、身体中が生傷だらけで服も無残に破られ布きれを纏っている女性・・・この人に何があったのかは容易に想像がついた。


 『この時代には証明写真なんてモノもありませんし、死んでしまった代わりになれば問題もないでしょうね。そもそも死ぬ予定ではあったのですし…それが少し早まっただけのことでしょう』


 男は女性の脚を切った。

 突然の痛みに叫びもがく女性。

 男は女性の髪を掴むと、近くに居た他の仲間らしき人を呼び…二人で担いで炎の中に投げた。

 いや、投げ捨てたという表現が正しかったのかもしれない。

 炎の中、女性は逃げようと這いずって抜けようと動く。

 人の声とは思えない叫び声を発しながら逃げる女性を指差して笑う男達。

 しかし這いずる歩みは遅く、炎の中で女性はピクリとも動かなくなった。


『では、改めまして遊佐ユサ 瑠那ルナさん。アナタをあちら側へお送りますね。あ、大丈夫ですよ・・・常日頃からこんなむごい光景があるわけではないので、安心してください』


「え、ま―――」
















『では楽しい楽しい管理者ゲェムのスタートです。今回の異物ひまつぶしは、さてどこまで面白く見せてくれるのでしょうか…すぐには死なないでくださいね。異世界転生は、神様の暇つぶしなんですから……フフフ、ウフフフフフ・・・・アッハハハハハハハハハハハハハ!!!』


この作品はほのぼのを目指しています!!!

校閲を行っておりますが、誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせ下さいませ。

感想や評価もお待ちしております!!!

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