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14、決戦前の仕込み

 しばらくするとヒメちゃんが、みんなを連れて部屋に戻って来た。


「ヒメちゃん!」

「途中でモンスターと遭遇したので、重傷者が増えてしまった」


 これはまずいな、重傷者が増えちゃってる。

 まずは奥の部屋に移動させよう。


「重傷者は奥の仮眠室に運んで!」


 アリアは的確に指示を出した。

 ダークには、戦える者の人数と能力の種別分類を、百襲姫(モモソヒメ)には治癒系魔法が使える者を集めて重傷者の救護をするように言った。

 更に、ジェミーには重傷者の縫合を、カレリアには毒薬を利用した治療を行うように指示した。


 ベッドのある仮眠室は、まるで野戦病院のようだった。


  * * * 


 しばらくするとダークから報告が上がって来た。

 生徒数はアリア達を含め32名。

 無傷14名、内訳 戦士5名、攻撃系魔術師4名、その他5名。

 軽症11名、内訳 戦士3名、攻撃系魔術師3名、治癒系魔術師5名。

 重傷者7名、うち2名は意識不明。


 軽症の治癒系魔術師は仮眠室で重傷者の手当てを行っている。

 

 報告を受けたアリアは深刻な表情になっていた。

 それを見たダークが話しかけてきた。


「アリア、少しの間ここに留まって重傷者の治療に専念してはどうだろう?」

「そうなんだけど、あの黒煙が更に力を増せば、ここも危険だと思うの」

「確かにそうだが…」


 そこに応急治療を施してきた百襲姫が戻って来た。


「アリアよ、意識不明の2人以外はなんとかなりそうじゃ」

「その2人は?」

「かなり厳しいである。いまカレリアが毒薬を用いていろいろ試しておるが微妙なところじゃな」


 だめだ、このままここに留まれば2人は助からないかもしれない。

 アリアは、百襲姫に黒煙の事を確認した。


「ヒメちゃん、黒煙を倒すことは出来るの?」

「今なら、なんとかなるかも知れぬが、あれ以上力を増せば妾でも勝てるかどうか微妙である」


 いま打って出るしかないか…

 何か弱点とかないのかな、さっきは炎と風魔法が若干効いたようだけど…。

 そうだ、パソコンだ。


「ダークちゃん、パソコンに何か有益な情報はあったの?」

「弱点とまではいかないが、炎と風は一定の効果があるようだな」


 炎と風か。

 両方を同時に使って火炎旋風をつくり叩き込めばどうだろう?

 致命傷にはならないだろうけど、それで黒煙に少しでもダメージを与えその隙にヒメちゃんが発光を使えばなんとかならないかな?


 アリアが攻撃方法を考えていると、百襲姫がダークの事について話し出した。


「ダークよ、ふと思ったのじゃが、お主はダークエルフじゃろ。何か魔法は使えんのかや?」

「魔法か?、どうやって使えばいいのだ?今まで魔法を使おうなんて考えたことも無かった」


 ダークちゃんが魔法ねぇ?

 使えるのかどうか試してみる価値はあるかも知れない。


「ダークちゃん、魔法って火なら燃えさかる炎を意識してスペルを唱えるの。慣れてきたらイメージだけ魔法を発動する事ができるよ」

「イメージか?」

「うむ、どの魔法に長けておるか見てみよう。まずは火からだ」

「ダークちゃん、スペルを覚える時間は無いから、私みたいにイメージで魔法が発動できるやってみて」

「わかった」


 ダークは目を閉じ、手の上で燃える火をイメージし始めた。

 最初は火の最も明るい内炎を、つぎに熱い外炎をイメージ。

 程なくして、手が熱を持ったような感じになる。


「うむ、いい感じじゃな。目を開けてみよ」


 ダークが目を開くと、己の右手が淡い炎に包まれていた。


「今の状態から、更に火のイメージを強くすれば、炎を伴った手刀も可能になりそうだじゃな」

「ダークちゃんいい調子だよ」


 その後彼女は、水、風、雷、氷の順に試したが、炎ほどの効果は得られなかった。

 そして最後。


「次が最後じゃ、防御魔法を展開してみるのじゃ。イメージは硬い壁のようなもの」

「ダークちゃん、手を開いて、攻撃を跳ね返すイメージもしてみて」

「わかった」

「壁にあたった攻撃を跳ね返し、敵を倒す事をイメージしてね」


 彼女は黒煙から放たれた竜巻を跳ね返す事をイメージした。

 手のひらが再び熱を帯びる。


「アリアよ、火を放ってみよ、跳ね返ったら妾が消す」 

「分かった」


 彼女はファイアーボルトを念じ、ダークに向けて放った。

 火の玉はダークの手のひらに触れる直前、何かにぶつかったように形を崩し、反動でアリアに火が戻てきた。

 跳ね返しに成功したのだ。


「上出来じゃ、次は風を放ってみよ」

「分かった」

 

 アリアは、同じ要領で風をイメージしダークへ放つ。

 今度は跳ね返すと同時に風を飛散させた。


「思った以上に使えそうじゃな、これなら黒煙の攻撃もある程度跳ね返せるじゃろう」

「ダークちゃん、魔法を解除しても大丈夫だよ」

「そうか、私にも魔法が使えたのだな」


 近くでその様子を見ていたニーナが近寄って来た。


「あなた、少し練習しただけで魔術をマスターするなんて何者なのかしら?」

「いや、私は異界からやってきた単なる冒険者だが…」

「あなた達のパーティーの力量がすごいという事は認めてあげるわ」


 アリアと百襲姫は念話で話を始めた。

《相変わらず上から目線な態度じゃな》

《ヒメちゃん気にしたらダメだよ、ニーナさん的には私達に敬意を払った思うの》

《なるほどのお》


「どうもありがとうニーナさん」

「私たちのパーティーは全員動けるけど何か手伝えることは無いのかしら?」


《ほらヒメちゃん言った通りでしょ》

《本当であるな》


「ニーナさん達は通信用のクリスタルを持っていたよね」

「あるわよ」

「それはどのあたりまで行けば使えるの?」

「黒煙のいる所まで行けば使えるわよ」


 よし、この役はニーナさんにお願いするしかない。


「これはニーナさん達にしか出来ない事なんだけど」

「いいわよ、言って頂戴」


 彼女はニーナに作戦を伝えた。

 アリア達3人はこれから黒煙を倒しに行く。 

 最後に百襲姫が発光を使った攻撃で辺り一面を吹き飛ばす。

 その余波はダンジョン周辺部にも及ぶため、黒煙のいる所まで一緒にいき、クリスタルを使って外にいる人たちに避難するように伝える。

 連絡がつけば、百襲姫が攻撃を開始する。


「わかったわ。ダンジョンを吹き飛ばすくらいの攻撃をして、あなた達は大丈夫なのかしら?」

「私たちの心配してくれるんだね」

「当り前じゃない、みんなをここまで誘導してくれたのだし、少しくらいはお礼させてもらわないとミッドフォード家の名が廃るわ」

「わかった」 

 

 今までのニーナでは、考えられないような返事だったため、アリアは少し戸惑った。

 しかし、信頼できるパートナーになってくれたことは嬉しかった。

 

 続いてアリアは、動ける攻撃系魔術師に作戦を伝えた。

 それはニーナ達が退避してきたら、通路に壁を作り中を水で満たす事。

 少しでも百襲姫の攻撃による衝撃を緩和するためだ。

 この任はニーナの仲間も含め7名が当たる事になった。

 


  * * *


 程なくして全ての準備が整った。


「それじゃ行きましょう」


 アリアの合図で13名が作戦を開始した。

 彼女達は部屋を出ると6層を目指した。

 途中モンスターに遭遇する事も無くスムースに進んだが、黒煙に近づくにつれ瘴気が濃くなって行った。

 

 最初に避難した部屋まで来ると、魔術師5人は別行動となる。

 彼女達は、ニーナ達がここまで戻ってきたら壁を作り水で満たす役だ。

 ニーナの仲間の魔術師は護衛のためアリア達に同行する。


 さらに通路を進むと、黒煙のいる場所が見えてきた。

 近づくだけでも体力を消耗しそうなくらい、瘴気に満ちていた。

 黒煙に見つかるギリギリのラインまで進んだアリア達は、ニーナに外部との交信を試みてもらう。


「こちら1年のニーナです。誰か聞こえませんか?」

 

 誰からも返事は無くノイズが聞こえるだけだった。


「もう少し進むしかないかな?」

「でもこれ以上進むと見つかってしまう」

 

 アリアに対しダークが答えた。

 

 こうなれば、私とダークちゃん、それとニーナさんとこの魔術師さんに援護してもらって、黒煙を私達の方に向かせ、その隙に外部とコンタクトをとってもらうか。

 アリアは、ニーナ達にそれを伝えた。


「分かってけど、本当にいいのかしら?」

「うん、もうこれしかないよ」


「アリアよ、ニーナと2人きりで話したいことがある。少し待ってくれ」

「ヒメちゃん分かった」

  

 百襲姫はニーナを連れ少し後退したところで話を始めた。


「ニーナ、よく聞くのだ。私は前世界で神でった」

「ええ、そうらしいわね」

「神格は予言的巫女である。ここに来て前世界の物に触れたせいか、能力がさらに戻ってきたのだ」


 百襲姫は予言の能力を使う事により、おぼろげだがこの先を見ることが出来た。


「ニーナはこの戦いが終わった後、ミッドフォード家の力で研究施設を隠す事はできるか?」

「出来なくはないわ」

「では、心して聞くが良い」

「わかったわ」


「この世界は近い将来滅ぶ」


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