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1、始まりの村

 ターラスは魔法があり、ヒューマンやエルフなど多種族と怪物が混在する世界。


 その中部から北部にかけてはアルゴニアと呼ばれる大陸があった。

 大陸北東部の村ライノックでは、朝から少女が怪物と戦を繰り広げている。

 少女の名はアリア、両親は村で唯一の宿屋を営んでいる。


 * * *


「アリア今だ!スノーナーガ(スノナガ)を仕留めてくれ!」

 彼女に合図を送ったのは幼馴染のリックだった。

 2人は村に侵入してきた怪物を、大人達と一緒に退治しているところだった。


「分かった!」

 アリアは返事をすると、ファイアーボルトの呪文を念じた。すると右手に火の玉

 が現れ、それを怪物目がけて放った。

 1発目を放つ直前、同じ呪文を再び念じる。こうする事で連続5回までファイア

ーボルトを放つ事ができる。


 彼女は呪文を詠唱せず念ずるだけで発動する上級技を身につけていた。


 放った火の玉が怪物に当たると、彼らは一瞬動きを止める。その瞬間を狙ってリ

ックが剣で急所を刺す。ヌノナガの場合は首筋がそれだった。


 2人は連携し10匹の怪物を倒したとところで怪物達は逃走した。


「お二人ともご苦労さん」

 一緒に怪物退治をしていた大人が二人を労う。


「それじゃ私達はべスピアに行く準備をしないといけないので…」

 二人は14歳。

 昨年末、村にある学校を卒業し、新年からべスピアの王立高等科校へ進学する。

 今日は入学式に出るために出発する日だった。


 アリアはリックと別れ家に戻った。宿の客は出発したようで、中は閑散としてい

た。1階の食堂では両親が朝食を食べていた。

「お帰りアリア」

「ただいまー、着替えて荷物取って来るね」


 アリアは階段を上り自室のある2階へ向かう。

 部屋に入った彼女は着替え始めた。ふと、隣のベッドから寝息が聞こえてきた。

 それは10歳になる妹、リアのものであった。


「気持ちよさそうに寝ちゃって…、そろそろ起こすかな」

 アリアは妹の鼻をつまみに行く。

 しばらくすると顔を真っ赤にしたリアが目覚めた。


「ねーちゃん何するのよ!せっかくお菓子食べてる夢見てたのに、急に喉につまっ

て息が出来なくなって死ぬかと思ったよ」

 必死に抗議するリアは可愛らしかった。


「今日はどんなお菓子の夢だったの?」

「ねーちゃんには教えないもんね! べーーだ!」

 リアは毛布に潜り再び夢の世界に戻っていった。

 この時期は村の学校も冬休みなので、朝寝坊は日課となっている。


 着替えを終えたアリアは朝食をとるため1階へ下りる。

 今朝はハムエッグとライ麦パン、それとクルミ油のスープであった。アリアは席

に着き祈りを捧げてからパンに手を伸ばす。パンはとても固いので、千切ってスー

プにつけから食べる。次にハムエッグを切り分けて口に入れる。


 ここ数年、冒険者がもたらした知識により、この世界の食生活も変わってきてい

る。

 それらは冒険者レシピと言われている。


 べスピアに行けば、パスタ料理やハンバーグといった食べ物があり、更にパスタ

の上にチョコレートや納豆という物を乗せたキワモノメニューもあるらしい。

 それはどんな味がするのか?妄想を膨らませていると父が話しかけてきた。


「アリア、お前に話しておきたい事がある」

 アリアは妄想を止めて父を見た。


「なに?お小遣いでもくれるの?」

「違う。アリア、お前は何故自分が魔術に長けていると思う?」


「私が天才だからじゃないの?」


 村の学校は初等科(5年)、中等科(4年)の一貫校で6歳から通う。

 中等科からは魔術の授業が始まり、アリアはトップクラスの成績だった。


「お前がべスピアに旅立つ前に、その事に関して話しておくことがあるんだ」


 いつもは、笑顔が似合う優しい父であったが、今日は少し厳しい表情だった。

 家族に言えない秘密でもあるのだろうか?アリアは心配した表情で父を見る。


「私達は今こうやって宿屋をしているが、大昔は神官をしていた家系なんだ」

「え?それほんと??」


 神官というのは特別な職種で、アンクと呼ばれる施設で、聖女と共に神への祈り

を捧げたり魔法なども扱う。その能力は子孫にも受け継がれるため、世襲が一般的

である。町の宿屋がなれるものではなかった。


「あぁ、本当なんだ」

「それがどうして今は宿屋なの?」


 父は葡萄酒を一口飲むと話をつづけた。


「今から100年程前になるが、この村から更に北へ行ったところにコルと呼ばれ

る小さな村があったんだ。俺の祖父さんはそこで神官をしていた。」


「ちょっと待って、コルって漁村じゃないの?」


 現在のコルはべスピアから海岸沿いに馬車で3日の距離にある漁村で、人が住む

村としては大陸内で北限とされている。古いコルの村は既に無くなっており、現在

はアンクの跡がわずかに残っている程度であった。


「それは新しく再建された村なんだ。祖父さんがいたのは古い方のコルだ」


 アリアは少し驚いた表情を父に見せる。


「そんなの初めて聞いたよ。でも、なんで村は移転したの?うちも何故宿屋に?」

「話せば…」

「長くなるのね、じゃその話はまた次回にしよう!」


 アリアは父の話を遮った。語りだすと止まらなくなり、馬車に乗り遅れる恐れが

あった。


「だか、ちゃんと話さないとだな…」


 父は真剣な表情でアリアを見る。


「うん、でもね馬車が出ちゃうしさ、ちょっと興味はあったんだけど、また今度ね

…」

「お前の魔術はべスピアの学校では注目される可能性がある。どういった家系なの

か聞かれたとしても、この事はあまり話さないで欲しいんだ」

 なぜ父がその話を、こんな忙しい朝にしたのか……秘密の家系。


 まさか曾祖父は、アンクにいた聖女に手を出して、全てを秘密にしなければなら

なくなったのだろうか?


 アリアは顔を少し赤くしながらいろいろと妄想したが、今は馬車の出発が最優先

事項であったため、残りの朝食を早く済ませ頭を切り替えた。


「それじゃ行ってきます!」

 とアリアが言うと


「いってらっしゃい」

 両親が笑顔で返す。


 外に出てもう一度振り返ると、玄関では両親が、2階を見ると窓から二度寝中だ

ったはずのリアが手を振っていた。


 アリアも手を振り、もう一度


「行ってきます」と言うと村の広場を目指して歩き出した。


 いつも見慣れた光景だったが、しばらく見れないのかと思うと、少し胸が苦しく

なる。

 でも、明日はべスピアでチョコ納豆パスタが私を待っている。

 また夏休みに村に戻れると言い聞かせ気分を転換させた。


 途中で、ご近所さんに挨拶をすませ、村内を流れる小川を越えると目的地が見え

てくる。

 広場には、べスピアに向かう乗合馬車が5台止まっていて、荷物を積み込む作業

をしている。


 アリアが乗るのは最後尾の馬車でスプリングのついた1等車だ。

 2等車に比べると運賃も高めだが、窓にガラスが入っていて気密性もよく、冬場

は隙間風も入ってこないので快適そうであった。


 馬車の等級制や車両の新技術は冒険者がもたらしたものであった。

 彼女はこれを手配してくれた父に感謝をする。


 しばらくすると、幼馴染のリックがやってきた。彼も同じ馬車で町に向かう事に

なっている。


 彼の荷物も積み終わり、日が真上に差し掛かるといよいよ出発である。

 馬車は5台1組で列を作り動いており、客を乗せる馬車は4台、残り1台は荷馬

車であった。護衛の傭兵はそれぞれ単騎で同行する。


 このあたりは田舎なので治安もよく、賊などは滅多にいないが、今朝のように怪

物が村に侵入する事がある。

 5年前までは、怪物達は今より大人しかった。

 しかし、それ以降活動が活発になったが、原因は不明のまま。


 予期せぬ出来事に備え、馬車列には護衛の傭兵が同行する事になっていた。

 御者が馬を鞭で軽く叩くと馬車は動き出した。


●登場人物

・アリア レイノルズ

15歳 女性 165センチ

髪はショートヘア、色は赤毛、瞳は透き通ったブルー

家族構成

父:ミッシェル 母:アンジェラ 妹:リア 4人家族


・リック シスコ 15歳 身長167センチ

アリアの幼馴染で、幼少の頃は友達と一緒に探検して遊んだ。

家は雑貨屋を営んでいる。


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