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紙飛行機  作者: 青空
2/5

小学校


久しぶりの陽菜と並んで歩く登校風景は、いつもの何倍も面白かった。

見かけた近所の家のおじいさんはまだふさふさの髪が残っていた。

綺麗な髪が自慢のあの子は髪を短くしていた。

見上げるほど身長が高かった男子は私よりも小さかった。

そして何より、隣でずっとしゃべり続ける陽菜が可愛かった。

「でね、さっちゃんが先生に…」

陽菜がにこにこと話す内容にうんうんと相槌を打っているうちに学校に到着する。

ああ、私の癒しの時間が終わってしまう…!

「じゃあね!」

バイバイ!と手を振る陽菜に癒されて私は教室に向かった。もちろん自分の学年は名札で確認済みだ。

いやぁ、それにしても小学校の頃の私!陽菜と登校できるなんて、どれだけ贅沢なんだ。

あと数年もすれば、

「わたし彼氏と学校行くから」

って言われてしまうんだぞ!はあ、お姉ちゃん寂しい…。

陽菜に彼氏ができた日は、友達とお好み焼きをやけ食いしたものだ。特にアイツ…シロは最後まで付き合ってくれたんだよね。

…そういえばシロは無事だろうか?

あの、トラックがぶつかってくる寸前でアイツの声を聞いた気がしたんだけれど…。

ま、アイツなら大丈夫か。悪運強いし。

というか無事でいてくれ。私のせいで怪我なんかしたらおばさんに申し訳ないから。

と、そう思うことにして、私は懐かしい小学校五年生の教室の扉を開けた。

「おはよー!」

元気よく挨拶をすると、クルリと数人のクラスメイトたちが振り返る。

「おっはよー!」

「光!おはよ、今日は元気だね」

「宇都宮、今日の放課後もドッヂボールだからな!」

と各々返ってくる挨拶が懐かしすぎて目を細めた。

そういえばあったなー、放課後の謎習慣。女子対男子のドッヂボール対決。

結局あれってどうなったんだっけ?結果は覚えてないや。

でもすっごく楽しかったことは覚えている。あ、だからこの時代の夢みてんのかな。

かつてのキラキラした思い出に口元を緩ませた。

「わかってるよ。今日こそ勝つ!」

ニヤリと笑って席にランドセルを置きふたを開ける。すると出てくる出てくる、やっていない宿題プリントの数々よ。

小学校の頃の私、なぜこんなに宿題を溜め込んだのだ。こんな簡単な問題、一瞬で終わるだろうに。

「その前に溜めた宿題やれよなー」

誰かの呆れたような言葉にクラスメイトたちがどっと笑いだす。

くっそー!言い返せない!

「うるさいやい!」

私は叫ぶなり、宿題をやり始めた。高校生の今なら笑えるくらい簡単だった。…はぁ。

それから賑やかな授業と美味しくはないけれど楽しい給食を終えて。休み時間には鬼ごっこして、体育で暴れて、気づいたら放課後になっていた。

休み時間には小学生の友だちと美味しい花の蜜の話なんかして、こんなこと話してたっけって笑って。

お調子者の男子が先生に怒られて、その返しがまた面白くて。

女子同士で手紙交換してこっそりドッヂボールの作戦なんかも立ててみて。

小学生の頃がこんなに楽しかったなんて、私すっかり忘れてたよ。改めて体験すると、小学生の頃って恵まれていたんだねぇ。

気づいたら放課後になっていて、約束通り行われたドッヂボール対決は、学年関係なく一から六年生まで合同で行われた。

もうカオスだよね。男子が女子相手に本気ってどうよ?

いや、小学生の男子と女子って身体能力にそんなに大差ないんだけれどね。その代わり年の差と実力の差は比例していた。

下級生を守れって体を張る六年生の背中の大きさよ。

結果はニ対一で女子の勝ち。

高校ならこれで終わって、お疲れ様会なんて言いながら何か買い食いして帰るんだけどね。

小学生男子は諦めなかった。今度は秘密基地対決だとかなんとか言い出して、今私たちは山にいる。

すげぇな、小学生の行動力。今日1日でどれだけの運動量だ。これは痩せるわ。

「じゃあどっちがすごい秘密基地を作れるか競争な!」

男子どもはそう言い残して山の中に走って行ってしまった。好きだな、競争。

「どうする?」

尋ねると、女子たちは断然やる気で答えた。

「もちろん作るよ!秘密基地!」

こうしてなぜか、女子対男子の対決で秘密基地建設が始まったのだった。

「じゃあどんなの作ろっか?」

「木の上に作ろう!」

「大きいやつがいいね!」

わいわいと賑やかに話すみんなを一歩離れたところから見て、私は再び苦い笑みを浮かべた。

楽しいのに、もうこの時間に戻れることも、こうやってみんなで集まって何かすることもできないんだなぁ。

…もうすぐ死んじゃうんだから。

どうせならもう一度だけ、小学校のみんなと集まりたかった。

またひとつ浮かんできたこの世への未練に胸がキュッと苦しくなる。こうやって走馬灯を駆け巡っていくうちに、未練が増えて、胸が苦しくなっていくんだろうか?

「お姉ちゃん、どうしたの?」

秘密基地という言葉に目を輝かせていた陽菜がこてんと首をかしげる。

「ううん、なんでもないよ」

でも、苦しくなったってこの子を助けないという選択肢はあの時も今もないんだよね。

私は首を振って拳を突き出した。

「よし、じゃあ木の上の秘密基地、作ろ!」

声をかけると女子たちはおー!と拳を突き上げた。

「まずは材料だね」

「枝ならたくさん落ちてるよ」

「うーん、すぐに折れちゃいそうだし」

「ならお家でいらない木の板持ってこようよ!」

「ならついでに釘も持ってこよ!」

「ノコギリも必要だよね」

まずは設計図!と紙に完成図や材料を書き始めたグループに私と陽菜も混ざる。みなさん本当この短時間で色々思いつくんだねぇ…。おばちゃんその思考回路についていけないよ。

「釘とノコギリは私が持ってくるよ。確かお父さんの古いのがあったはずだし」

「お、光頼んだよー!」

「おっけー」

せめて材料くらいは協力しようと声をあげるとポンと肩を叩かれた。

「じゃあ連絡手段は手紙で」

「よっし!作戦開始!」

リーダー格の女子の一声によって、私たちの秘密基地計画は始まった。

まずは家で材料調達。

「ねえ、これ使えるかな?」

と雛が持ってきたのはもう使っていない木箱。試しに叩いてみるがビクともしない。

うん、丈夫でよろしい。

「陽菜ナイス!持って行こう!」

「うん!」

陽菜が嬉しそうに頷いて木箱を抱きしめる。

私も釘やトンカチ、ノコギリなどが入ったお父さんの工具箱を背中に担ぎ、ついでにビニール紐をポケットにねじり込んだ。

手紙用の紙を持つのも忘れない。

「じゃあ戻ろっか」

陽菜と手を繋いで、私は先に場所探しをしているみんなのところへ戻ったのだった。


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