事故
目の前にトラックが迫ってくる。
陽菜は…よかった、無事みたいだ。
歩道に突き飛ばした妹の姿を認めて、私は笑みをこぼした。
可愛い妹を守って死ねるなら本望だ。
せめて最後は痛くないといいなぁ。
目を閉じる。
ああ、でも、ひとつだけ。アイツとのお好み焼きの大食い対決、引き分けだったなぁ…。
せめて決着をつけたかった、と嘆いたその時だった。
「みやっ!」
アイツの声がやけに近くに聞こえた。
背中にものすごい力で叩かれたような衝撃が走る。
暗転。
『困ったら紙飛行機を飛ばしなよ』
子どものようなのに嗄れていて、低くも高くも聞こえる声が遠く聞こえた。
目が醒めると目の前には、見慣れた自分の部屋の天井があった。
「…え?」
どうして?
トラックに轢かれたなずなのに。
訳も分からないまま、いつもよりも軽く感じる体を起こす。
…どこも痛くない。
周りを見渡すと、そこはやっぱりいつもの自分の部屋で…いや、ちょっと待てよ。
なんでハンガーに小学校の制服がかかっているんだ。それにベッドの周りも、壊れたはずの時計やなくしたはずのぬいぐるみが転がっている。
机の上には使っていたはずの数学や英語の教科書の代わりにランドセルが置かれているし…。
あ、なるほど。
私は唐突に理解した。
これは走馬灯っていうやつだ。きっと本当の私は今死にかけていて、それで一生分の夢を見ているんだ。
納得した私は、なんだ、助かったわけじゃないのか、と呟いてベッドから降りた。ちょっと期待しちゃったじゃないか。
苦笑を零し、肩を竦める。
すると不意に、
「お姉ちゃーん!学校遅れるよ!起きろー!」
と階下から陽菜の声が聞こえてきた。まだ舌ったらずな幼い声だ。
陽菜の言葉からして、これから小学生の1日が始まるんだろう。
小学生かぁ…。人生で一番気楽だった時期だ。そしてやり直すならこの時から、といつも言っていた時期でもある。
どうせ人生最後の夢だ。楽しまなきゃ損だろう。
「はーい!」
私はすぐに返事を返して、身支度に取り掛かったのだった。
これからよろしくお願いします!