5.中央区を目指して……
また、訂正です。
最初に投稿してから分量が1.5倍になってますが……気にせんといて下さい。
「のど、渇いたなぁ……」
シェトと別れてから歩くこと一時間、いや二時間以上か……時計が無いので時間は確認できないし、太陽の位置で時間を測るなんて高等テクは持っていない。オレは、激しい陽射しが容赦なく照り付ける道を、日陰に身を擦り付けてひたすら進んでいた……。
分かっていたが、この世界の太陽光は日本の真夏の日差しよりも強い。もし日向を歩いたら、体力の無いオレは数分で熱射病で倒れるだろう……。
だが、日陰も、直射日光が無いだけで、熱さは変わらない。石畳なのだが、触ってみると石が焼ける様に熱い。それどころか地面から熱い空気が噴出している様な気がする。
とにかく、この場所が砂漠の様に乾燥していると言っても過言じゃないだろう……。
それ以上に、オレは昨日の夜、しかも、自宅を出る前から何も飲んでいない。
目下の問題は、とにかく水を手に入れる事だった。
「まいったな……マジでのど乾いた」
兎にも角にも水を飲みたい……いや、泳ぎたいくらいだ。
シェトと別れる前に既にお金が無い事には気付いていた。その上で、『異世界のお金が無い事くらい、働けば何とでもなる。』と思っていた。
それどころか逆に、『異世界で働くなんて面白そうじゃん? それにスられる物も取られる物も無いから気楽だな。』くらいにも考えていたのだ。
シェトから借りる? あれだけ親切に色々教えてくれた少女から更に、いつ返せるか分からないお金まで借りるのは虫が良すぎるだろう……と思って空気を読まないオレも流石に言い出さなかったのだ。
そう、中央区まで着けばなんとかなると楽観視していた。
シェトは、ここからは真っ直ぐな一本道だからすぐ着くし、この道は王城から伸びた主要道路だから人通りも多く、親切な人も多いと言っていた。
それなのに……
「誰もいないじゃんか……」
これなら、お金があっても無くても関係ない。
少し休憩する事にして誰かの家の前の階段に座る。
尻が少しあったかい。
観察するところ、店らしき看板は出ていないし、そもそも人がいない。家々の窓や扉は固く戸締りされている。
暑すぎるせいか、それとも何処か別の場所でイベントがあるのか……どちらにせよ、これまで人っ子一人見かけなかった。
古そうで、外壁が痛んでいる建物ばかりな事もあり、ゴーストタウンのようで若干怖い。
……だだっ広い道を歩いているのは自分だけ、というのはなんとも不気味だ。
だが、それ以上に、もしオレが熱中症で倒れたら誰も助けてくれない、その事実にゾッとする。
異世界で美少女と出会い、順風満帆な異世界生活のスタートを切った……と、思いきや、いきなりの野垂れ死にルート? 嫌すぎる。
脱水症状で気絶して、起きたら美しい町娘に看病されてた、とか都合の良い二次元的展開は…………無いよなぁ……。
異世界といっても、れっきとした現実だもんな……。
うん。ここで意識を失ったら確実に終わりだな。
幸いまだ意識はしっかりしてるし、全身が重いのは脱水症状では無く筋肉痛のせいだ。中央区まであとどれくらいかは分からないが、歩き切れる可能性は高い……と信じたい。
だとしたら暑さで余計な汗をかく前に進むべきだろう。
「よっこいしょっ、と」
老人のような掛け声と共にオレは座っていた石段を立ち上がる……
「?」
道の果てに目を凝らすがまだ何の影も見えない。
だがその時だった。
陽炎の立つ道の向こう、百メートルくらい先をウマっぽい生物に曳かれた荷車がゆっくりと横断して行く。荷車には樽のような物が満載されている。
流石異世界! ウマじゃないんだ! オレは感動した!
あ、違う。
なんてグッドタイミングなんだ!!
オレって召喚『勇者』らしいし、簡単に水を分けてもらえるかもしれない。
にわかに降ってきた希望に押されるように元気が出てきた、そしてオレは全力で荷車を追った。
「(これで蜃気楼とかだったら……オレ、もう泣くぞ? てか、死ぬぞ?)」
オレは少し後悔した。
だが、もう走り始めてしまったのだ。今流した汗をただの浪費にしたくなかったら荷車を追う事に賭けるしかなかった……。
*****
「ぷはっ! あ、すいません。もう一杯いいっすか? …………ぷはぁ! 生き返る!!」
しばらく後、オレは親切な御者から水を分けてもらっていた。
猛スピードで追ってきたオレを見て逃げた人である。
追剥ぎかと思ったのだそうだ。。
「……いやぁ……まさかこんな場所でまともな人間、しかも、召喚されたばかりの勇者と出会うなんてな。普通、想像だにしないぜ?」
男は自らをガドル、と名乗った。
広く逞しい背中に、丸太の様に太く、筋肉が隆起した手足……豪快な笑顔がよく似合う大男だ。
オレは走り過ぎで気絶し、突然倒れたオレの様子を見に戻って来たこの男性に介抱してもらったのだ。
……目を覚ました瞬間、眼の前にむさいおっさんの顔があってビックリした。オレは何を間違えてしまったのかと混乱したほどだ。
オレと、ガドル、そして満載された樽を乗せ、爬虫類と馬を足して二で割ったかの様な不思議な動物に曳かれた荷車はゆっくりと進んでいく。
「じゃあ、普通はどういう場所に召喚されるんすか?」
男のセリフに少し違和感を覚え、オレは尋ねてみる。
「そう、だな? 普通は中央区の周辺か、本当に街中にいきなり現れる奴もいるな……中央区から遠く離れたこんな場所に召喚される奴は……聞いた事がねぇな」
召喚、かぁ……。
召喚勇者、というからには誰かが何かの目的で人をこの世界に拉致しているという事だろう……。
オレはあの女に召喚ばされた、という事なんだろうか……。
他の召喚勇者は中央区に召喚されるのにオレだけ西区?
まぁ、不運、という訳でも無いかな……。
あんな親切な美少女と出会えたし、話せたし、その上、友達になったしなぁ……。
あ、このオッサンにはまだ訊かなきゃいけない事があるんだった。
「それで、今ドコに向かってるんすか?」
オレは、荷車の前に設えられた御者席、に座る男に再び声を掛ける。
…この男は中央区へ向かうのだと言っていたから乗せてもらったんだけど……。
シェトの情報が正しいなら王都中央区への道はオレが来た道を真っ直ぐだったはずだ。
それなのに、さっきあの大通りを横断したきり真っ直ぐ進んでいる。つまり……中央区の南に進んでいる。
「なぁに……そう遠くへは行かねぇよ。ちょとした回り道だ。野暮用があってな」
「野暮用?」
「あぁ、水汲みのな。そこの樽を満杯にせにゃならん」
ガドルは振り向かず、荷台に積まれた巨大な樽を示す。
ガドルの様な大男がスッポリ入ってしまう様な大きな樽だ。どれだけの水量が積めるのか想像も出来ない。
中々の重労働っぽい。
あ、そうか。オレの中の御者というイメージに合わない、鍛えられた身体と広い肩幅は水の運搬をしているからなのか……。と、オレは勝手に納得した。
いいなぁ……オレも折角異世界に来たんだからイメチェンしなきゃな。このままでは、ひょろひょろなオレよりもガドルの方が勇者といった趣だ。
第一、オレが剣を振れるかどうか分からない。
いや、まぁ、オレは魔法使いになるから剣は振らないけどな!
「ああ、わりぃが、坊主も少し手伝ってくれるか? 早めに切り上げてぇんだ。乗せてやるんだから少しは働きな」
日に焼けた肌に、豪快な笑顔。それに、粗暴な物言いなのに、少しも嫌な気分にならない……いかにも異世界の冒険者って感じだ……って、この人はタダの御者だったな……。
「水汲みを、って事っすよね?」
頷く代わりにガドルは前を指差した。
指差した場所を見ると、五十メートル程離れた場所に噴水があった。街の一角の広場といった感じの趣だが、噴水から水が溢れ広場を浸水させている。
しかも……
「あれ? 水の色がおかしくないか? 異世界じゃ水って赤かったりするんすか?」
『水汲み』なのだから汲む対象は『水』しか無いハズなのだが……広場を浸しているのは鮮やかな真紅の水だった。
「断じてちがう。さっきお前さんも普通の水を飲んだろう? この色は異常な色だ。だが、このおかしな色の水が錬金術に使えるとかっていって大人気でな。まぁ、その為に炎龍を野放しにするとは愚かさの極みだが……」
錬金術!!
そのワードを耳にした瞬間、後のガドルが放った言葉はオレの頭には入って来なかった。
魔法と並ぶファンタジーの二大ワード『錬金術』!!
魔法があるとシェトから聞いた時から考えていたけど……やっぱりあるのか!
ふふふ……ふははははは!
これはもう勇者の運命として魔法と一緒に極めるしか無いんじゃないか!? そして最強の魔法使いになってモテまくるしか無いだろ!!
「……来るぞ」
だが、ガドルの低い唸り声でオレは妄想から帰って来た。
いつの間にか噴水のある広場に停車している。やはり、鮮やかな赤い水が広場全体を浸している。
で、何が来たんだ?
こんな人がいない場所で誰がいったい……?
しかし、その時オレは、何か妙な音がしている事に気が付いた。
ガリガリという音は、荷車を曳く動物達が落ち着かなさげに地面を蹴っている音だ。
それ以外、チャプチャプという水音に混じって湿った音が聞こえる。
「!!?」
一瞬でオレがもたれ掛かっていた樽が無くなり、盛大にオレは後ろにコケる。
「ふん!」
それと同時に掛け声と共にガドルの姿が消えた。
見回してもいない。
そうしている内に湿った音はドンドン近くなっていく……
「えっ? おっさん? ちょっ、御者のおっさん!? ガドル!!! どこ行ったんだよ!!?」
オレは叫ぶが誰も応えない。
だが。
ゴポ……チャプ、ゴポゴポ……ゴポゴポゴポ……
不気味な音は荷車のすぐ横まで到達した。
そして音が地鳴りに変わり、荷車の揺れに変わり…………その禍々しい正体を現した!
「っ!!!!?」
オレの喉は恐怖と嫌悪感にひくつき、悲鳴が出る余裕も無かった。
なぜかって?
そりゃ、体長十メートル近い化け物が上から覗き込んでいれば誰でもそうなる。
チビらなかったオレは凄いと思う。
手足が無くミミズのような身体は真紅で巨大だ。まるで煮凝りのように濁った半透明の体の中に、脈打つ血管のようなモノが透けている。
顔は……ヤツメウナギに似て目や鼻は無く、虚ろな穴が二つ、つるりとした顔に空いている。
何よりも恐ろしいのは化け物の口だ。大きくて丸い空洞の中に太くて鋭い杭の様な牙がびっしりと並んでいるのが見て取れる。
『あ、喰われる。』
オレは死を覚悟した。
覚悟したくは無かったけど覚悟してしまった。
足から力が抜け呆然と見上げるオレの目の前で、段々と化け物の口が開き、涎が糸を引いて落ちてくる。
口の直径は優にこの荷車ごと吞み込める大きさを超えている。
化け物は口を開くのを止め、一瞬完全に静止した。
――そして、荷車ごとオレを呑み込もうと一気に口が落ちてきた。
視界を紅い影が覆い、履いた後の靴下のような酸っぱい匂いが伝わってくる……。
あと八メートル……六メートル……五メートル……
今更だが、オレは必死で逃げようとした。だが、恐怖のあまり手足が上手く動かない。逃げれない!
まさか、異世界転移して一日目で死ぬなんて……色々と悔いがありすぎる!!!
あと四メートル…………三メートル
凄まじい恐怖に眼球すら固まってしまったかのように、オレは化け物の口から目を離せなかった。気絶する事も出来ない、瞬きすらできない。一瞬が永遠に感じられる程に引き延ばされ、黒い影がオレを覆い……
オレは『あぁ、死んだ。』と、そう考えた。
……。
…………。
だが、そう考えた一瞬後。
考える余裕がある事にオレは気付いた。
あれ? まだ生きてるぞ? それどころか、あの化け物はどこに行った!?
集中しても、あの不気味な音が聞こえない。
不意に、オレの視界を遮っていた巨大なシルエットが横に退き、周りが再び明るくなった。
腰が抜けて動けないし眩しい……。だがオレは、眩しさに目を瞬かせながらも急いで周囲を確認した。
……だが、見た所、どこにもあの、赤い化け物の姿は無い。
「おう坊主っ! ピンピンしてるな!? けがは無いな!? よし、何よりなにより! それにしても炎龍の奴、良い食いつきだったな!! 一気に仕事が済んじまった! 召喚されたての勇者は魔物を惹きつけるというが……あんな大物が釣れるたぁな? うっはっはっはっはっ!! 便利な体質だな、坊主っ!」
尻餅をついた体勢で見上げるとガドルが巨大な樽を片手に持ったまま愉快そうに笑っていた。もう片方の手には巨大な斧の様な物が見える。
そして……全ての樽の中からブヨブヨした赤いゼリー状の物体がはみ出ているのが見えた。
「はぁ!?」
身を乗り出して荷車の下を確認するも、荷車の外は何事も無かったかのように水浸しの広場だ。
それに勿論オレは無傷だし……何が起こったのかさっぱり分からない。
もしかして、オレは化けミミズの夢でも見ていたんじゃないか? そう考えてしまう程平和な景色だった。
だが、あの肉感、匂い、音、恐怖……全てが現実だったのだと樽の中のブヨブヨが語っていた。
「いやぁ、済まんかった……いきなり囮に使っちまったが……本当にっ悪かった!!! あ、あとで奢るからよ? この事は他の奴らに言っちゃ………特に、衛兵には………って、おい!? 大丈夫か!!?」
どうやら、オレはあの化け物をおびき寄せる餌に使われた、その事までは理解した。
しかし、そこまでだった。
ガドルに怒りを覚える以前に……嘗て経験した事の無い恐怖から解放され、オレは今度こそ意識を失ったのだった。
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