氷の国の女王
氷の国フロストヴェイル、3年前に先王エイジルが急死しその娘である女王アウロラが君臨している。
20歳にして後を継ぐことになったが、氷の国の女王らしく無表情で冷徹な印象を与える美女。
クローディアはその国の門を叩く。
「お前がクローディアか。何の用だ」
「はい、ドールユーザーとして仕官先を探しております」
「お前の噂は聞いておるぞ。ドールを次々壊すらしいな」
「それは…」
「我が国がどのようにして栄えているか知っているか」
「はい、鉱山から産出されるミスリル銀で潤っていると伺っています」
ミスリル銀、魔力を帯びた銀色の鉱物で銀とは全く異なる物質。非常に硬く軽く熱にも強い。魔法耐性もある。軍事目的から日常生活に至るまで幅広く利用され、価値の高い鉱物である。
先王エイジルにより発掘され、フロストヴェイルの研究機関で精練・加工の技法が研究開発されたもので、今のところフロストヴェイルが独占している。
「そのとおりだ。我が国は寒く作物が育たない。一方で豊富なミスリル銀に恵まれておる。それを他国に売ることで栄えておる」
「実はそのミスリル鉱山で巨大なコアが見つかった」
平伏していたクローディアが驚いて顔を上げる。
「…と同時に強力なモンスターも出現した。我が国の軍でも討伐できないぐらいの強力なモンスターだ」
アウロラが表情を変えず冷たい眼差しをクローディアに向ける
「お前、何とかできるか」
無理かもしれない。でも…
「できます」
どのみち、あてはない。わずかでも可能性があれば挑戦するしかない。
「ほう、ではやってみろ。仕官の件は結果次第で考えてやる」
「承知しました。ではさっそく準備いたします」
クローディアの謁見後、自室に戻ったアウロラ。
「あ゙ーーー、疲れたー!もう無理!もうやめる!」
「姫様、落ち着いてください」
「そんなこと言って、なんだかんだ3年がんばってるではないですか」
「こんなの私じゃない!お父様ー!」
泣きじゃくるアウロラ。
先王エイジルは貧しい辺境の小国であったフロストヴェイルを鉱山開発によって発展させた。
大国とは言わないまでも周辺からの侵略を防ぐことができるほどの強国にした優秀な王だった。
自分にも他人にも厳格な人物で、人前で笑顔を見せることはなかった。
3年前
「お父様!いや!置いていかないで!」
「次期女王がそんなことでどうする。氷の国の女王らしく振る舞うんだ…」
「無理よ!私にはできない!」
「(本当に…亡きセリスに似てきた。寂しかろうと少し甘やかしすぎたか…)」
「すまない。こんなに早く病に倒れるとは思わなかった。どうかこの国を、この国の民を守ってやってくれ…」
「お父様!お父様ー!」
……
「(あれから3年。お父様が亡くなったのが昨日のことのようだわ。本当につらい。誰も助けてくれない。)」
「姫様!北方にモンスターが出現しました!」
兵士が駆け込んでくる。
「状況を説明して」
「スノーストーカーが5体、近くのブリズバーンを襲っています!」
スノーストーカー。雪の中に完全に姿を隠すことができるカモフラージュ能力を持つ大型の雪豹の姿をしたモンスター。ブリズバーンという北方にある村が襲われている。
「城に待機している戦闘用ドールを2体、騎馬兵200を向かわせて退治して」
「御意!」
「(でも。お父様が愛したこの国とこの国の民のためなら、鬼でも悪魔でもなってやるわ)」