第一話 〜路地の紅〜
この世界で一番の敵はなんだと思う?俺はね、月曜日だと思うんだよ...休日のマッタリ感と時間と、あと睡眠時間を返せと月曜日に言いたいね。
でも、来てしまったものはしょうがない。気怠い体を起こして、まだ少し暗い中俺以外誰もいない一人暮らしのアパートで伸びをする。
「ぐぁ...朝飯食べるか。」
昨日のうちに買っておいたコンビニの冷やし中華を作って食べる。冬だけど気にしないスタイルで、ついでにテレビをつけておく。
俺は19歳の大学生で、一年生だ。なんとか第一志望の大学(と言ってもそんな高レベルじゃないけど)に合格して一年が過ぎようとしている。親と喧嘩して飛び出してこのアパートに住んでいるけど、まぁ喧嘩した事もあって実家に帰りたくても帰られない。今はなんとか《巡回者》という仕事をして生活している。
《巡回者》というのは、簡単に言うと『不良とかそういう程度の低い事件を通報が入ったり見かけたら捕まえて警察に突き出す』というもので、そこそこの腕と常識を持っていれば誰でもなれる。あ、採用試験とかあった気がするけど...
ちなみに、なんでこういう仕事があるのかというと、
「昨日午後10:30頃、"魔物狩り"が行われ、南東部の森林内に魔物が生息していた地区を制圧した模様です。負傷者は二人出ましたが、残り158人は健全だということです。この地区は多く魔物が多く寄生していましたが、作戦参加者の人数収集と計画に時間がかかってしまったとの事で、当局は深刻な人員不足と対応力の不足を...」
うん、まぁこういう事だ。俺達人間は身体が弱い分、魔法や化学を使って魔物と対抗してきた。約520年ほど前から人間でも能力を持つ者がではじめ、今では多くの人が能力を持つ。
あとはお察し。折角のそれを悪用して悪ぶれる不良ぶれた人が出てきちゃいました、ってこと。
そういう人達が暴れると困るから俺らみたいな《巡回者》が雇われるようになったということ。まぁ、こんな理由だと入る時の理由が『人を正当に殴れるから』とかいう輩も出てきて必ずしも正義のヒーローとは限らないっていう感じなんだけど。
...勿論、俺は違うぜ?
本とかで偶に"もしも魔法がこの世界に無かったら"という本が並んでいたけど、結局科学でほいほいと喧嘩し合うんだから、人間って本当に弱いよね。魔法が無かったら、とか思っちゃうけど魔法がない世界も大変なんだろうな。
そんなことを考えてずるずると冷やし中華の冷たい麺を啜っていると。
「キャーーー!!」
と、叫び声が聞こえた。やれやれ、今日は朝から仕事かな...じゃないっ、これはちょっとヤバいんじゃないか?
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「どうしましたか!?」
「ひ、人がっ...!!」
急いでいたから、取り敢えず部屋着の上からパーカーを着て、下だけズボンに着替えて飛び出してきた俺に近所に住む女の人が青ざめた顔で指さす。
「うわ、ひでぇな...」
日光の当たらない、暗い日陰のそこには、白い髪を地面に撒き散らしながら、全身を赤く染めた女性が倒れていた。血生臭くて、ぐっしょりと血が髪に絡み付いている...
「すみません、まわり道してくださいっ、俺がここを何とかしますので!」
腕につけた巡回者の腕章を見せながら地面に簡易的なマーカーを置く。
これは囲いたいところの四隅にマーカーを置くと、そこを周りからホログラムで隠してくれるもので、立入禁止の黄色いテープやブルーシートみたいなものだ。ちなみに防音、防臭。
周りからそこを隠し、ぐったりしている女性に駆け寄る。
口に手を近づけ、手首から脈を測って息と脈があることを確認した。
あとは意識だが
「大丈夫ですか、聞こえていますか!」
流石に無理だったか、無反応だ。このままだともしかしたら出血多量で死んでしまうかもしれないから救急車を...
「まっ...て......!」
「...!」
白い髪の女性が虚ろで半分だけ開いた目でこちらに手を伸ばす。
「お願い...救急車、っは、呼ばない...で...!」
「そういうわけには行きませんよ!」
そういうと、かふっ、と血を吐きながらも
「こ、殺され...う、から...っ」
と言われた。だか、そういうわけにも行かない。
「ですがっ」
そこまで言うと、女の人の目の本気がわかった。虚ろだけど、必死に悲願するような...そんな、目。
かくん、と女の人の頭が落ちる。
なにか事情があるんだな...目が覚めるまでは匿ってやるか。仕事柄多少の手当てはできる。...まぁ、このレベルを手当てできるか微妙だけど、ここまで悲願されると...。
裏の世界に関わっていると病院に行って、裏から手を回されて点滴に毒を入れられて死にました、なんて話も聞くしギリギリまでは様子を見てあげようかな。
「よいしょ、っと...」
俺は日の出が少し照り出す中、何故かその時そう思ってしまってその女の人を家まで背負って帰ってしまった。
そんな訳で、大学に行けなくなった俺は女の人を保護して、暫くの間匿うことになったんだ...