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分かれた道

 五人は一目散に出口を目指した。廊下を逆側に回り込み、腐った畳に足を取られながら、必死に玄関を目指す。

 しかし、五人は玄関を前に立ち竦むことになる。踏み倒されていたはずの玄関がなぜか塞がれていたのだ。


「なんだよこれ! どうなってんだよ!」


 先に辿りついていた雄也は、半狂乱になって玄関を開けようとしていた。取っ手を左右に引っ張っている。しかし、どれだけ引っ張っても引き戸がスライドされる様子はない。


「岡本はここにいて。増本、体当たりするからタイミング合わせろ」

「あ、あぁ……」


 慎太は雄也と一緒に何度も引き戸に体当たりを繰り返す。ガシャンガシャンと激しい音が響くのと裏腹に、それほど頑丈に見えない引き戸は割れるどころか歪みもしない。それは不自然な現象だった。


「……嘘でしょ。こんなことあり得ない」


「どうするのよ、雄也! アタシ達ここから出られないの!?」


「煩い! お前等のことなんか知るか! くそっ、くそっ、なんでだよ!」


 何度目体当たりしても倒れない引き戸に、雄也は憔悴し切った様子で、喚き立てる二人に怒鳴りつけた。慎太も諦めたように玄関から距離を取る。


「この家はオレ達を逃がさないつもりか……」


 玄関を見つめながらぽつりと呟いた慎太の声が、本当の恐怖の始まりを告げるようだった。優奈は何も言えずに慎太の傍に寄って、彼の冷えた手を縋るように握りしめる。それ以外にどうすればいいのかわからなかった。


「そうだ! 携帯で外に助けを求めれば」


「無駄だ。見てみろ、電波が届かなくなってる」


 優菜も自分の携帯を確かめる。しかし表示は慎太の言葉通りの状態だった。佳代子がヒステリックに叫ぶ。


「なんで……さっきまで繋がってたのに!」


「こ、小林、オレ達これからどうしたらいいんだ!? お前、寺の息子だろっ? 出られる方法を知らないか!?」


 絶望的な状況に、雄也は強張った顔で無茶苦茶なこと慎太に聞いている。藁にも縋る思いなのはわかるが、慎太がそれを知るはずもない。


「知っていれば最初から言ってる。携帯が使えない以上、ここで選べる手段は三つだけ。他の出口を探すこと、朝まで隠れてやり過ごすこと、敵を倒すこと。どれも確実性には欠けるけど、これしかない」


「朝がくれば外に出られると思う?」


 優菜は躊躇いがちに尋ねた。本当はこんな異常な家には一分だって居たくない。けれど出られないのだ。冷静に見える慎太だけが優菜の頼りになっていた。


「あくまで可能性の話。ただ、昔から丑三つ時は霊の力が増すと言われている。それが正しいなら、逆に朝は弱くなるはず。どれを選んでも失敗のリスクはあるけど、オレは朝まで隠れるべきだと思う」


「あんた、アタシ達にここで一晩過ごせって言うのっ?」


「そんなこと無理に決まってるよ! あいつに見つかったら、アタシ達まで殺されるかもしれないんだよ!?」


「冗談じゃない! 朝までなんて待てるか。オレは他の出口を探す」


 三人は口々に慎太の意見を否定した。彼はそれを予想していたように落ち着きはらった様子だった。ひとしきり三人の意見が吐き出されると、それを待っていたように繋いだ手を軽く引っ張られる。


「岡本の意見は?」

 

 三人の視線が優奈に集まる。恐怖に血走った六対の目が、自分達の意見に賛同しろと無言の脅迫をしてきた。


 今まで、優奈は自分の意見を主張したことがなかった。クラスで意見をまとめる時も、いつも数が多い方に手を挙げてきた。相手に強く出られるとつい委縮してしまい、自分の気持ちを伝えることが苦痛になって諦めてしまう。それは内向的な優奈の弱さだった。


 しかし自分の命がかかっているのに、他人の意見にただ同意するのは間違いに思えた。握った手にじわりと汗が浮かぶ。慎太が手に僅かに力を込めてくる。頑張れと言われた気がして、優菜は緊張に張り付く口を開いた。


「わたしは……小林君の考えがいいと思う。リスクが一番低そうだから」


 初めて意見した優菜を褒めるように、慎太の目が僅かに緩む。 


「馬鹿じゃないの!? あんた達のせいで死ぬなんてごめんよ!」


 自分達の考えを否定されたことが癪だったのか、佳代子に激しく罵しられる。優奈は俯いてその暴言から自分の心を守ろうとした。


「オレ達に当たるな。意見が合わないなら無理に合わせる必要もないだろ。二手に別れよう。オレ達はオレ達で行動するから、熊谷達も好きにしたらいい。岡本、行こう」


「うん……」


「あぁ、勝手にしろよ! オレ達が入口を見つけても教えてやらないからな!」


 雄也の喚き声が背中を追いかけてくる。全員で行動した方がいいのだろうが、険悪な空気の中でそれを言い出すことは出来なかった。優菜は後ろ髪を引かれる思いで、手を引かれるままに三人から離れる。


 先の見えない廊下はさっきよりも暗く見えた。この先に待つ恐怖を思えば、立ち止まりたくなる。足を踏み出す勇気を慎太と繋いだ手から貰うと、優菜は闇に挑むように歩き出した。


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