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R-001  作者: 白宮 安海
最終章 Thanks Future
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Endless Smile

 



 僕は、母さんの誕生日に母さんを殺した。


  「明るく育ちますように。いつも笑顔を絶やさないかわいい子に」

 そう願われて僕は生まれた。

 

  僕の家庭はレベル4で、普通の生活をしていた。母さんも父さんも幸福で、家族はいつも笑顔を絶やさない。そう皆の目にも映っていた。

 だけど僕一人違った。4歳になっても僕は笑わなかった。母さんは心配に思って、色々と手を尽してみたが僕は全く笑わない。保育園からも幼稚園からも、ルド君は全く笑わないから気味が悪いと評判が立ち、友達もその母親や先生も奇異の目を向け、関わりたがらなかった。

  そのうち母さんは、僕を外に出すのを嫌がった。「どうして笑わないの?笑顔の練習をしなさい。お母さん、ルドの笑顔が見たいなぁ」母さんはよくそう言った。その時も母さんはにこにこと笑っていた。

 僕は笑うということがどういうことか分からなかった。頬を吊り上げようにも全く筋肉が上手く動かせないのだ。

  5歳になる頃、病院に連れて行かれた。白衣の大人たちに囲まれて、精密機械で脳や体の診察を受けた。生まれつき表情の筋肉が発達していないのだと診断された。

 その病気が判明したあとも母さんは必至で治療に勤しんだが、その後も僕が笑うことは全くなかった。そんな母さんが変わってしまったのは、忘れもしない、7歳になった8月の蒸し暑い午後のこと。

  ある日電話に出ると、父がロボットの暴行のせいで死んだという知らせを受けた。それから母さんは死んだように笑顔を失った。

  母さんは笑わない僕を見つけ、睨みつけるなり、物を投げつけ「どうして笑わないのよ!笑いなさいよ、気味が悪い!」と罵倒した。時には体罰も食らわせることがあった。

 涙を流して抵抗しても、余計に機嫌を悪くするだけだった。僕はたった一人の大好きな母さんを喜ばせようと必死に笑顔の練習をした。鏡の前で笑顔を固定する練習をした。いっそ唇を頬に縫い付けたいと思った。粘着テープで頬を吊り上げるように貼り付けながら母さんに話しかけると、母さんは昔のように天使のような笑顔になった。

「ルド、あなたが笑顔だとお母さんは嬉しいわ」

 だけどテープが剥がれるとまた、怖い顔をして僕を叱りだした。

「何なのその変な顔は!笑いなさい!笑いなさいったら」

 ごめんなさい。ごめんなさい。僕は必死に謝った。

  綺麗なものが嫌いになった。幸福が嫌いになった。美しいものが嫌いになった。僕が惨めで、醜いと言われているようで怖くなったからだ。


  11歳になると僕は機械工学に興味を持ち始めた。何か物を作っている時だけは本物の幸福感を得られた。ある日、寝たきりの母の誕生日に花を贈ろうと思い、外へ出かけて帰った時。母さんはいつもより病状が思わしくなく、大きく咳を繰り返していた。慌てて近寄り母さんの上体を起こそうとした。だが母さんは、僕の顔を見るなりこう言った。

「ルド。何なの…その醜い顔は」

 僕はそれを聞いた途端、右足に機械装置を嵌めて母さんの顔を思い切り踏み潰した。何度も何度も、何度も。母さんは悲鳴すら上げる隙もなく、ゴポゴポと醜い顔を晒しながら死んでしまった。

 母さんが死んだあと、僕はその顔を見てずっと声を荒げて言った。

「笑え!笑えよ!おい、笑えったら!」

 それでも母さんは笑ってくれないので、僕は母さんが笑顔になるように、自分で作った機械装置を唇に嵌めて、強制的に笑顔を固定した。

「母さん!見てよ。ついに完成した。僕はこれでもう母さんを悲しませたりしない!もう二度と、母さんを悲しませたりしない!」

 僕は腹の底から笑いがこみ上げて仕方なかった。笑って笑って笑って笑って。まるで大空に飛び立った気分がした。


  眠っている母さんの胸に花を添えた。母さんはきっと夢を見ているに違いない。僕と母さんと父さん、三人仲良く笑って。いつまでも幸せで…。


 Endless Smile 終わり


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