第3話「初めて見る夢は真実 3」
鼓動は現実のように忙しく唸る。ロボットは金属の腕をバネのように伸ばしてネオを狙った。間一髪避ける事が出来たが、床には穴が空いた。ネオは一度窓から離れ、キッチンのテーブルの下に身を隠す。腕を床から引き抜くとロボットは窓から姿を消した。
暗闇の中で、ネオは段々と記憶が頭に蘇ってきた。自分が恐怖に負けロボットを仕留められずに、後から帰ってきた母に危害が加えられた記憶を。しくじる訳にはいかない。
(これが夢だとしても構わない。俺は、二度も母を殺したくない)
扉が開く音だ。ロボットは床を軋ませてこちらに近づいてくる。仕掛けるのは自分からでなくてはならない。先に見つけられたらお終いなのだ。
極々見える影と物音を頼りに、ネオは父の形見の銃で、ロボットを撃った。完全に仕留めた。ロボットは床に倒れ込む。と、同時に一言呟いた。
「ネ……オ」
その瞬間、ネオの脳裏に記憶が早送りのように溢れ返り、現在に停止した。
自分が撃ったのはロボットではない。母だった。
「母……さん」
母の手から落ちた買い物袋からリンゴが落ちて床に転がる。母を揺り起こそうとすると、その手は血に塗れた。途端に大声で叫んだ。涙が止まらず、喉が張り裂ける程に叫んだ。
「ああ、母さん。ごめん、ごめん……!!」
これは夢だ。そうだ、夢だ。違う、現実じゃない。本当はロボットが母を殺したんだ。自分が母を殺すはずなどない。
しかし母は目の前で自分を見詰めながら、硬直している。ネオは震える手で銃を拾い、自分のこめかみに宛がった。そこに、ある男が目の前に現れた。顔が薄暗くて見えないが、厳格なその声をネオは何度も耳にした。
「死ぬのか?勿体無い。未来はまだ君の手で変えられる。母の死を、無で返すつもりか?」
ネオは何も答えられなかった。ただ目の前の残酷な現実に魂を握られていた。
男は続ける。
「ある実験をしていてね。君のそのトラウマがロボットを倒す力になる。反ロボット連盟として私の元で力を発揮したまえ。君は、悪くない。ロボットが母親を殺したんだ。君は悪くない」
ロボットが母を殺した。鼓膜の中に繰り返し、脳味噌に届くまで聞かされた言葉。そうだ。この男の言う通りだ。だからロボットは倒さなくてはならない。生きている限り、死ぬまで、ロボットを――倒さなくてはならない。
目が醒めた。目上には青い空と崩壊した建物が見える。重い体を起こして、少し痛む頭を抑えた。地面には壊れた機械の破片が転がっている。
「ようやく、夢が見られたのね」
と、ネオは後ろから話しかけられた。どきりと鼓動が跳ねる。その声は、紛れもなく愛しかったあの子の声だ。
「トルネ」




