第6話「定まる機体 4」
ネオは、もう一度テドウの死体を見た。天に向かい煙を上げている額の穴からは、血が流れてきていない。ネオは急いで近づき、額の穴をまじまじと見詰めると、そこには黒い硬質物が詰まっている。
「こいつは、共同体のロボットだ。本体は別の所にいる」
「やはり罠だったようだな」
テドウの機体は微振動をし始めた。ネオは何かを察して扉へ目をやった。案の定扉は自動的に閉ざされ、ロックのかかる音を鳴らした。
「ちくしょう、こんな所で死んでたまるか」
ネオは何度も、扉に向かって銃を撃った。しかし、扉はびくりともしない。すかさずルウが刀鞭で斬りつけようとしてもむだだった。
「ダメだ、クソっ」
ルウは、無念に眉を寄せ、歯を食いしばった。うつ伏せの機体からはカチカチと音が聞こえる。
「ネオ、爆発するぞ」
ネオは勢いよくテドウの方を向くと、何か方法が無いかと考えた。
「こんな時、リックならどうするんだ」
既に亡き旧友の顔を思い浮かべると、冷静に部屋の隅々を見渡した。
「もう終わりか。最期に、お前と出会えて誇りだった。ネオ」
「まだ死んでねェだろ、ルウ。その言葉を使うのは今じゃねェ」
時間は溶けてなくなっていく。脳内は冷ややかに焦っている。
『本当に無謀だな。リーダーは』
呆れている様子のリックを思い出した。建物の隙間から駆け出していったネオは、何度かその台詞を聞いたことがある。それでも、チームを抜けずについてきてくれた。それから、幼い頃のトルネも困ったように笑いかけた。
『もう、自分勝手なんだから』
次に浮かんできたのは、変わらない優しい笑顔の母の姿だった。
『ネオ、何があっても自分を信じなさい』
そっと瞼を閉じて、ゆっくりと息を吸い込み、前を見据えた。
「俺は、自分勝手で無謀なんだよ……」
ネオは、ベルトの後ろからスイッチを押すと、マイクロ爆弾を取り出した。
「まだ生きていたい……!」
ルウはネオの動作に気づくと、口を挟んだ。
「ネオ、何をする気だ」
「0%と1%……どっちがいい?」
「何を言ってるんだ」
「希望の話だ」
そう言って、マイクロ爆弾を見晴らしのいい窓に向かっていくつも投げて貼り付けた。
「まさか、飛び降りるつもりなのか?そんな事は無謀だ」
「ああ、分かってる。でも俺は自分を信じる」
ネオの覚悟に、ルウも腹を括った。このまま何もせずに死ぬよりはマシだった。ネオはピアスを押さえて認証コードを唱えた。
「認証コード 120140。爆破装置起動」
すると、赤い点滅が窓を飾り出し、はしゃぐように機械は鳴き始める。10回鳴けば、鳴き声は頭を割るような叫びに変わるだろう。その前にネオはルウに指示をした。
「ルウ、伏せろ」
自身も爆発に巻き込まれないよう窓から遠く離れた。テドウ総帥の機体はまだカチカチと音を刻み続けている。二人は祈るしかなかった。
一つの破裂音。そして煙が部屋を呑み込んだ。




