第2話 「Unhappy Birthday」
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長い夢の後、トルネは目を醒ました。体は身動きが取れず、なにかに縛り付けられているようだ。視界は霞んでピントが合わない。
――ここは、どこ?
出来る限り左右に視界を巡らせても、見覚えがあるものは無い。吸い込まれそうな黒い天井や壁には、うねった線がが這っている。口元には何かが嵌められており、そこから天井に向かって太いコードが伸びている。まるで強制的に息をさせられているようだ。
自分が一体何故こんなところにいるのかがトルネには分からなかった。
トルネは上体を起こした。すると手首の拘束は千切れて両手が自由になった。
体中に黒く細い幾つものコードが刺さってしまっている。しかし、トルネの頭の中で、まだこれが現実だと処理をする事が出来なかった。皮膚に貫通するコードを引き抜いても痛みは感じない。血も出なかった。
全てのコードを引き抜いて床に立つ。そこでトルネは記憶を追ってみた。最後に見たのは、冷たい顔をしたロッドと、その向こう側で叫んでいるネオだった。
「ロッド、ネオ……どこにいるの?」
そういえば、自分はロッドに攻撃を受けたはずだ。だが、一瞬すぎてそれも確かではない。もしかしたら、あの雨の日に見た最悪な光景も、夢だったのかもしれない。
「ロッドの誕生日プレゼント、渡してない」
そう、そもそもロッドの誕生日プレゼントを買うために外出したのだ。あのプレゼントは一体どこにあるのだろう。
暗くてよく見えないが、自分が寝ていたのは長方形の台の上だった。壁際に様々な電子機器が鎮座している。
「変な場所……、病院かな。早く、ロッドとネオ達のところへ行かないと」
覚束ない足で前へ歩き始める。視界は頼りなく、どこに何があるのかも良く分からない。
手探りで前へ一歩ずつ踏み出していくうちに、トルネの手のひらには硬い物が当たった。冷たい壁のようだったが、目を凝らすと人のようなものが映っている。
向こう側に誰かいる。咄嗟にそう思ったが、トルネは気付いた。気づいた途端に手が震え、その場から崩れ落ちるように座り込んだ。
「なに、これ……」
壁に映っているのは自分の姿だ。それも、いつもと違う、変わり果てた自分の姿。
「これ、どう、なってるの?」
左半身から左の顔にかけて、人間の皮膚ではなかった。さらけ出ている金属の帯が見える。トルネは恐る恐る自分の顔に触れた。すると、確かな感触が指に伝う。それは硬く、ざらついて、冷ややかだった。
「私……?」
向こう側の自分に問いかける。それから、トルネは呆然とへたりこんだ。自分が生きているのか死んでいるのか最早分からなくなった。ただ、一つ。トルネにとって、目的だけが唯一の小さな希望だった。
「会いに、行かなくちゃ」
トルネは座ったまま、静けさが痛い部屋の中で一人呟いた。




