第1話 「ロッド」
警報を伝える無機質な機械達が、空の中で叫んでいる。この空までも、いやこの世界全体がアイツの手によって支配されているかのようだ。
何かを感じる心も無く、ロッドはそれを見上げていた。雲が途切れ途切れ、気まぐれに泳いでいる。あんな風になれたらいい。そんな事がただ思考経路に流れてきた。
今になって、地球は極々単純な仕組みで形成されているに過ぎないと知った。そして機械の工場地帯の建物の頂上でで世界を見下ろす。そこには曇った灰色の空よりも最も簡単な仕組みが広がっていた。
壊すことは容易く、形成も容易い。それを邪魔するのは、機械を操る人間達だ。自分もまた、人間に操られていた機械に過ぎない。
風がロッドの長い銀髪を靡かせる。用のない記憶や感情は消去してきた。しかし、この銀髪を見るたびに、父への憎悪を思い出す。
「世界はもっと急速に進歩するべきだ。あんな人間達に、俺達ロボットが操られていたら、また歴史を繰り返すだろう」
ロッドは建物の頂上から頂上へ、軽やかに飛び移った。見下ろせば、既にロボット達が荒らされた街の復興を始めている。その誰もが、人間を恨むことはない。
機械しか住んでいないこの場所は自分にとって、一番居心地のいい場所なのかもしれない。
だが、また矢継ぎ早に追っ手が自分を見つけにやってくるに違いない。その時、この場所を危険に晒すわけにはいかない。それは避けなくてはならない。同じロボットとして。
それに、自分には行くべき場所がある。あの巨大な支配の象徴。人間とロボットを絶えず監視をしている、司令塔だ。そこに、全てを終わらせる鍵がある。
それから、反ロボット連盟。その機関を壊滅させるのだ。
ロッドは、地面が見えない程高い頂上から、下へと飛び降りていった。恐れはない。ただ使命を果たすだけだ。未来は、自分の手で変えよう。そして、自分を創った男、テドウも殺さなくてはならない。
灰色の雲に向かって、円盤型のロボット達は法則的に飛行する。
記憶に操られていたロッドも、所詮法則に従って動いていたに過ぎなかった。ここからが本当の自由意志だ。ロッドは地面に足を着くと、夜とも区別のつかない道の隙間を縫って、一人都会の中心部へと走る。
そこには、彼らもいるのだろうか。かつての仲間だった彼らは。もしも、邪魔をするのならば、全員――。