第15話 「非情な正義 3」
裏の経路は、ネオ達が位置するエリア4の建物の内の一つ、その内部にあった。
マップの経路に従って進んでいくと、茜色をした長方形の建物があり、ネオとリックは中へ侵入した。
建物内はロボットが暴走した形式が残されていたが、よく見てみると元は衣服屋だった事が分かる。派手な色の衣類が床に転がって、影と混じっていた。
店内の奥へ行けば、壁の背に真四角のラインが現れているのを見て、ネオはリックと共に頷いた。
容赦なく光線銃で壁を溶かすと、あっという間に空洞が浮かび上がった。その先は地下へと続いている。穴をくぐって、ネオ達は出来るだけ急いだ。
金属質の緩い坂を下っていくと、避難したロボット達が密集していた。道を開けるために、リックは光線銃を前方に放った。中央にいた数体のロボットが床に倒れ、無理矢理開けた道の間を走っていく。
「行こう」
武器の持てないネオを誘導するようにリックは振り向いた。
ネオは頷いて軽く返事をした。次にリックが弾丸に撃たれたのは、ほんの数秒のことだった。
叫び声が喉の奥で留まって、見開いた双眼と一緒に後ろを向くと、特殊部隊のオーニュリンズが一段上の層でライフル銃を構えている。
騒音の中、ネオの周りだけが無音になった。
オーニュリンズは言った。
「これ以上この場所を汚すのなら、命はない。お前もだ、ネオ」
オーニュリンズは機械化した目の中から、ネオを狙っているようだった。
「この野郎……」
喉が震えて、真っ白になった脳の奥から声が漏れ出す。何かが弾ける音が聞こえ、ネオの右腕がガクガクと痙攣し出し、無意識のうちにオーニュリンズに向かって掌を翳した。
光が丸く結束し、全身の血管が浮き出て掌は熱をもつ。
オーニュリンズはそれを見て身構える。
途端に、光は大きな直線を描きオーニュリンズを目掛けて飛んだ。巨大な破壊音を立てて、足場が崩れていく。
間一髪で避けたオーニュリンズは、その威力に目を見開いた。放出しきった掌から煙が立ち上がる。ネオは力が抜けその場に両膝をついて、ぼんやりと何も無い空白の遠い世界を眺めた。
撃たれて平伏していたリックの微かな声が聞こえてきた。
「ネ……オ」
ネオのインネットグラスに文字が連なって浮かび上がった。その時、言葉の羅列が、ネオにとってただの記号に見えていた。リックは最後の遺言とデータを残し、力果てた。
苦痛が体の内側から虫のように這いずり、唾液を垂らしながら、生きる恐怖にネオの体は動けずにただ口を開けて喉から音を発する事しか出来ずにいた。
オーニュリンズは最早素早くその場から撤退しようとしたが、首筋に当たった冷たい感触と共に、そのまま首と体は離脱した。
「機械の目でも気づかないとは愚かな」
低い声が空気を切り裂く。
放心状態のネオは、突然頬を叩かれる痛みに、視界の輪郭を徐々にはっきり浮かび上がらせた。最初に目に入ったのは、ルウだった。
「遅かったか」
その言葉に、ネオは横たわるリックの姿やロボットの残骸へ目をやった。そうしてから、素早くオーニュリンズのいた場所を見て牙を向ける。
「リックが!……クソっ!あいつ、殺してやる」
憎悪に顔中の皺が中央に寄り、前のめりになる所を、ルウは押さえた。
「もう終わった。あの男は俺が殺っておいた。お前はもう何もしなくていい。早くここを出るぞ」
「リックも連れて行け」
ルウは静かに首を横に振った。
「ダメだ。もう死んでいる」
「まだ息があるはずだ!」
「そうだとしても、置いていく。この状況でリックを連れて行くのは危険だ」
淡々と言いのけるルウに、ネオは口を開いたまま顔を顰めた。
「仲間を見捨てるのか!俺は何としても連れて行く。まだ生きてるんだ、治療すれば――」
最後まで言いかけた時、ネオはルウに胸ぐらを掴まれた。
「お前も死にたいのか?リックの代わりに生きろ……!それがあいつの希望だ」




