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R-001  作者: 白宮 安海
第三章 イキル
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第13話「非情な正義 1」


ロボット郡を掻き分け、光線銃で破壊しながら、一帯を走り抜けた。赤や黄や緑が、ネオの視界と共に流れてゆく。

喧騒から一転して、円状床の広場へ出ると、ネオは左右前後見渡してロッドの姿を探した。

「どこ行った」

崩壊した建物の上に視線を流した時、黒い影を発見した。ネオは光線銃を撃った。しかし銃声が反響しただけで、影は瞬時にその場から消え、次の瞬間ネオの目の前にいた。

「ロッド……」

銃を持つ手が強ばる。ロッドに光線銃を向けて引き金を引こうとした。そこに、別の光線がネオの頬を掠めた。

「っ……!」

「ネオ。銃を降ろせ」

重みのある声の主には聞き覚えがあった。ネオは銃を構えたまま、体を横に向け、ロッドと反対側の瓦礫に立っている女を見た。特殊部隊のパリョだ。

「断わる!俺の邪魔をするな」

ネオは気を取られている隙に、黒い腕が僅かに揺れ動いたのを、見逃さなかった。

仕掛けられる前に、ネオは素早く光線銃を撃った。再び、目の前からは姿が無くなっている。ネオの横を再び光線が流れる。

「クソっ!」

咄嗟に避けたものの、ロッドの姿を見失ったネオは集中して視線を左右に流した。

「どこだ」

宙を見上げると、果てしなく続きそうな長方形の建物の間から、光を背にロッドが降ってきた。気づいた頃には、ネオの体は地面に叩きつけられて跳ねていた。すぐさま銃を向けようとしたその腕は、あっさりと掴まれ、まるで人形の関節を曲げるかのように折られた。皮膚の奥で、鈍い音が響いた。

「ウ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

手のひらから銃が落ちると痛みにのたうち回った。

「久しぶりだな。ネオ」

霞んだ頭上には、姿の変わり果てたロッドがいた。最早人間とは呼べない、完全なロボットとなっていた。

「……ロッド!!てめェ……っ!!」

歯を食いしばって睨みつけると、向こう側からパリョが大きな声を出した。

「おい!テドウ総帥の息子のロッドだな。大人しくこっちへ来い。私は特殊部隊のリーダーパリョだ」

ロッドの視線の矛先がパリョへ向かったのに気づくと、ネオは身を案じた。

「馬鹿か!こいつは普通のロボットじゃねェ!お前は引っ込んでろ!」

するとパリョはきつくネオを睨み返した。

「ここはロボットだけのエリアだ。貴様らがこんな事態にしたんだ。手荒な真似は――!」

瞬間的に、ロッドはパリョの目の前に移動し、腹部を殴った。口から勢いよく血が溢れ出ると、パリョはその場に倒れた。

「止めろぉおおお!!」

その光景に、ネオは叫びをあげ光線銃へ折れていない方の手を伸ばしたが、気がつくとその腕はロッドの足の下にあった。肘の下から手首にかけて圧を加えられ、ネオは痛みに悶え苦しんだ。ロッドは冷たい瞳で見下ろすと、言った。

「人間は無力だな」

「あがっ……がっ……!」

両手が力を失い、身動きがとれなくなると、急に絶望と孤独感が押し迫ってきた。

「おま、え……なん、で……トルネを」

忙しく吐く息の合間から、ネオは必死に言葉をつなげる。

「人間は皆愚かだ。人間は滅ばなくてはならない。人類を一から調教しなくては未来など永遠に訪れないだろう」

と、ロッドは告げた。その声色には、何の感情も聞き取れなかった。

「ロボットなんかにっ……、未来を渡さねェ……!」

ネオはロッドの顔に唾をはきかけて、笑みを浮かてやった。ロッドは無表情のままネオを見下ろした。

「なら、死ね」

ロッドはネオの額へ指を宛てがった。流れる雲がいつもより遠く見え、まるで別世界へ居るようだった。ネオは成すがまま、その時を待った。

だが、数秒経っても、ロッドはその指を降ろさなかった。気がつくと、ロッドの視線はネオではなく、真っ直ぐ前を捉えていた。その視線の先を追うことも出来なかったが、見えない頭上から声が聞こえた。


「何してるの」


その声が一瞬だけトルネと重なった。声の主は若い女性のようだった。恐らくロボットだろう。ネオは不確かに予想した。

「リーナ」

ロッドが名を呼んだ。続けて言う。

「人間は悪い生き物だ。だからこいつを始末しなくてはならない」

するとリーナと呼ばれた女は言った。

「殺すの?ロボットは人を殺しちゃダメって、リーナの前のマスターが言ってた」

「だが、俺達が殺さなくては人間はいつまで経っても破壊を繰り返す。ロボットは人間にとってただの物にすぎない」

「でもリーナ、人間が好き」

「捨てられたのにか。結局人間は自分の所有欲を満たしたいだけの生き物に過ぎない。俺は、ロボットとしての尊厳をこいつら人間に分からせてやる」

ロッドとリーナの会話を聞いている間、ネオは力を振り絞って左腕を動かし、自身の腰のホルダーへ移動させた。少し動かしただけでこめかみにまで到達する痛みにも声を出さずに耐えた。額に汗がじわじわと滲み、ミリ単位で腕を動かし、あと数ミリ。ホルダーの留め具に人差し指を翳した。ネオの指紋を認証すると、ホルダーはカチリと開いた。その音の後、ネオは体が凍ったかのように動きを止めた。ロッドが自分の行動に気づき、血で出来たガラス玉のような目を自分に向けていたからだ。


「やはり、お前は始末しとくべきだ。ネオ。お前はロボットの敵だ」

急く呼吸は、吸っても吸っても足りないとばかりにら胸を大きく動かした。今度はロッドの足がネオの頭部にあてがわれた。踏みつけられたら頭蓋まで粉々になるだろうという位に、重く鉄のように硬い。

すると、ロッドに向かっていったのは、リーナというロボットだった。全身でロッドへ体当たりをしたと思うと、ロッドは体ごとネオから離れていった。呆気にとられて、行動の行方を目で追っていたが、リーナはネオの方を向いて言った。

「にげて」

はっとして、ネオは使えない両腕を庇いながら上体を起こした。体にくっついた荷物みたいに、ぶらりと両腕は垂れ下がる。そんなものを構っている暇もない。後ろを振り向かず、全速力で走った。


「ハァハァハァハァ!こちらネオ、聞こえるか?」

ネオは、ロボットの隙間をぬって走りながら、インネットグラスを起動させた。

「ネオ!大丈夫か?」

応答したのはリックだった。

「悪いが、大丈夫じゃねェ。今両腕が使えねェんだ」

「ロッドの仕業か!?」

「ああ……」

震えてやまない足を、堪える為に、一時建物の隙間へと身を隠した。

「今すぐ僕が迎えに行く。ネオは安全なところで待っていてくれ」

「気をつけろ。絶対にあいつに見つかるな。それから、……特殊部隊の奴らにも」


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