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R-001  作者: 白宮 安海
第三章 イキル
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第5話 「機械ノ影 2」

この身に触れる風の感触が、憂鬱だった。自分の身体が機械だった時、一体何を信じればいいのだろう。

この世界の全てが無意味になる。

自殺の方法を頭の中でシミュレーションした。だが、身体は破損するだろうが、本当に自己を抹消出来るのかどうかが曖昧だ。

或いは自分が死んでも、また誰かの手によって再生されるかもしれない。

その時、都合よく自分の記憶が消され、外見を変えられ、また別人として生きるのだろうか。何度も自分がロボットだという絶望を味わって永遠に生きなくてはならないのだろうか。


父ならば、そうするに違いない。自分を、何が何でも生かして傍に置こうとするだろう。死んだ母を常に生かすのと同じように。


思えば父の偏愛が苦しかった。


総帥の息子と人々に紹介された日から、父は狂気に取り憑かれていた。

自分の家には、父の監視のない所などない。行き過ぎた教育の中には無論体罰も含まれていた。


だが、自分はそれを普通だと思っていた。これも父の愛情なのだと。それだけ未来の総帥として期待されているのだと。

違った。全て父の自己愛の元行われた事だった――。

人間として生きるロボットの息子を、愛している自分を愛しているだけだ。


「あの人は、俺を愛してなんかいない」


遠くの方で、ビルの群れとそれを支配する高い司令塔が見える。自分を支配していたものが、今は小さな存在になった。


深い憎しみを断つ為には、原因を消滅させるしかない。

(人間を殺す)

密やかな野心、否、目的が芽生える。

(地球の終わりだ)


ロッドは瞼を閉じて、記憶を脳内に映し出した。一つ目は、父と母が笑っている映像だった。小さき頃のロッドも嬉しそうに笑い、三人で手を繋いだ。


二つ目の記憶は、草原の中青い空を見つめる自分。その横には、トルネがいた。

いつも空の彼方を見詰めている。大抵の事は理解出来たのに、彼女の心は理解出来ない。


「私ね、ずっと貴方の傍に居たいな」


まるで現実のように、輪郭がはっきりしている。思わず、ロッドは安堵した。


「今までのは全部夢か……」

「え、夢?何のこと?」

トルネは首を傾げてロッドを見た。

「嫌な夢を見た」

「どんな夢?」

「凄くリアルな夢だった。今までの自分ではなくなって、全てを失ってしまう夢」

「ちゃんと戻ってきたから大丈夫よ」

微笑みながら、トルネはロッドの手を握った。

「そうか。良かった。そんな馬鹿な事、現実にあるはずがない」

細い指先が鮮明に伝わって、ロッドは手を握り返す。

「そうよ。そんな馬鹿な事、あるわけないじゃない」

トルネは俯いた。急に背景は闇に飲み込まれ、握ったはずの手の感触は、ぬるりと湿った。

目を見開くと、自分の腕はトルネの腹の中にあった。血を吐きながら、トルネは瞳孔の開いた目で見詰めた。

「何でこんな事をしたの?」



(俺は何て事をしたんだ!何故、あんな事を――)


混沌とした暗闇に独り放り出されると、聞き慣れた声が聞こえきた。


「アイツらに心なんてあるわけねェ。平気で人間を殺すような奴らに……。俺は絶対にアイツらを……ロボットを許さねェ」


声が止むと、今度ははっきりと姿が浮かび上がってきた。完全な敵意を示す眼差しを向けるネオが立っていた。


「俺はお前を許さねェ、ロッド」


再び暗闇の中に取り残される。ロッドは芯から願いを溢れさせた。

(もっと憎め、ネオ。そうすれば、お前は俺を殺してくれるのだろう?俺は人間であるお前達を憎む。俺を造ったあの人を憎む)


瞼を開くと、さっきと変わらない退屈な都会が広がった。

(お互い目的が出来たな)

ロッドは都会を背にして、一歩を踏み出した。

「世界はそう簡単に変わりやしない。どんなに綺麗な願い事をしても、心が破滅すればお終いだ」

記憶の中の美しい情景を早く消さなければ、とロッドは思った。この足が道を進むのを拒む前に。





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