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R-001  作者: 白宮 安海
第二章 迸る粒子達よ、それぞれの道へ進め
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第22話「真実からの伝言 3」


車をゆっくり道なりに進ませた。どうやら車を走らせる為に造られた道ではないらしく、ガタガタに歪んでおり、実に走り心地が悪かった。

庭においてある葉の伸びきったトピアリーは一体どんな形を成していたのか想像出来ない。それらを見る限り、このシュケーツという男に芸術センスはないように思える。もしも庭師の仕業ならば即刻クビにした方がいいと助言をするつもりだが。


そう時間もかからず館の前まで来ると、テドウは尋ねた。

「どこに車を停めればいいですか?」

するとシュケーツは、杖を伸ばした。

「阿呆、ワシの家にそのまま入るんじゃ」

「えっ?いいんですか?」

思わずアクセルを踏む足が躊躇う。しかし、シュケーツは杖を伸ばしたまま前進を促した。テドウは、言われるがまま車を前進させた。扉の手前まで来ると、シュケーツは言った。

「ワシじゃ、開けてくれ」

その声に合わせて、玄関扉は大きく口を開いた。テドウは扉の中へ車を走らせた。確かに、中には車が停車出来るようなスペースがあった。

「車も人間も同じ玄関の方が面倒かからんじゃろう」

シュケーツはふんっと勢いよく鼻息を吹いた。

サークル状の床のセンサーが起動すると、そのまま地下へエレベーターの要領で降りていく。

「面白いですね」

テドウは素直にそう感想を告げた。

「そうじゃろう。ワシは天才じゃ」

シュケーツは自慢げに言った。


停車をさせていた床は、やがてスピードを落としながら最下部の床へと同一化した。その際、蒸気がプシューと排出する音が聞こえた。

「ここはワシの研究室じゃ。滅多に他人はお目にかかれん」

車から降りたシュケーツは、暖色の明かりを灯した。つられてテドウも車から降りると、科学文明の歯車を象徴するかのような場所を目にした。

テドウは久しぶりに、自身の好奇心が擽られる気持ちとなった。まるで子供の頃のように、目を輝かせながら部品や発明品を見眺め、言葉も忘れた。

「ここらのものは全てワシのもんじゃ」

「これは、蒸気で動くロボットですか?」

作業台に置いてある、灰色の小さなロボットを見つけ、シュケーツに聞いた。

「ああ、そうじゃ。ボイラープレートという1880年に、アーチバルド・キャンピオン教授が開発したものじゃ。なかなか味があるじゃろう?」

「こっちは車輪付きロボット……」

「彼の名前は、へープくん。どこを間違ったか動く度に悲鳴のような音を出す。だからヘルプと掛けてへープくんじゃ」

シュケーツは楽しそうに声を上げて笑った。

「さて、見学はこの辺にしておき本題に移るとしよう」

シュケーツは作業台を離れて背中を向けた。すると、別の台の上に置かれている物に被せてあった布を取った。それは、現場に残しておいた、ロボットの本体の一部だった。

「悪いが現場に残されていた機械の一部はワシが持ち帰って調べさせて貰った」

「何故、あの場所に?」

「ドウリが言っていた。どうか息子を救ってくれと。ドウリは大分前から自分のロボットに手が加えられていたのを分かっていた。それから、最悪の状況となるやもしれんと。戦争が終わった後、ワシはロボット探知機で、街中を詮索してみた。そしたら、人間そっくりのロボットが街を普通に彷徨いていた」

シュケーツが言っているのは間違いなく、あのロボットの事だ。人間そっくりの、冷たく感情のないあの女の顔が蘇った。

「一度目を疑った。ワシは直ぐにロボットの後をついて行こうと試みた。しかし……、奴はワシの尾行に気づき、目を合わせた。恐ろしい目じゃった」

「それで、ずっとあのロボットの事を気にかけていた訳ですね」

「ああ。ドウリに言われたという事もあるが、ワシ自身が奴の行動に興味があった。奴は、人間に成りすまして生活をしていた」

「ええ、恐らく、奴は誰にも知られないように人間を消していたんです」

テドウは、ぎりりと歯を食いしばった。今でこそ処分をしたロボットだが、その存在が記憶から消える訳では無い。過去に流れた血は二度と戻って来ることは無い。シュケーツは、振り返ってテドウの様子を見つめると、穏やかな口調で言った。

「ドウリを殺したのもあのロボットの仕業じゃな」

心臓がどきりと跳ねた。テドウは静かに頷く。

「私のせいなんです。子供だったからと許される事じゃない。大切な人を、自分が造ったロボットで……」

テドウは唸る額を抑えながら言った。

「ドウリはお前を見込んでいた。そう自分を責めるな。ワシも過去に失敗を犯した事がある。誰にだってあるのだよ」

「……ロボットを調べて、何か分かった事はありましたか?」

「いや、あの部品だけじゃ分からんよ。お前さんは、どこかに隠したようじゃな。記憶チップは破壊したか?」

「はい。記憶チップは完全に粉砕しました」

「それが賢い選択じゃ。あまりに高性能なロボットは、人間を遥かに凌駕する。危険じゃ」

テドウは、シュケーツから目を逸らした。自分の今やっている事は、また愚かで危険な行為なのだと。

「私は、もう二度と失敗を繰り返したくありません」

シュケーツはテドウの瞳を見つめた。何かを隠しているような色が瞳を曇らせている事に気づいた。

「ドウリが言っていた。お前さんは愛を知らぬが故、愛が強すぎると。もうやめておけ。もがいても幸福にはなれんぞ」

「私は、あの子に未来を見せてやりたい」

テドウはどこか遠い所を見ていた。その決心は石のように硬く、簡単に壊せるようなものではないとシュケーツは悟った。

「後悔するぞ。また自分から過ちを犯すつもりなのか?」

シュケーツは、引き留める勢いで言った。だが、テドウは首を横に振った。

「私はもう過ちを犯した。だが、あの子はまだ過ちを犯してはいない。私という愚かな人間を踏み台に、私はあの子の道を作る。私は、あの子を、ロッドを愛している」


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