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R-001  作者: 白宮 安海
第二章 迸る粒子達よ、それぞれの道へ進め
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第20話 「真実からの伝言 1」


秋風が戯けて吹き(すさ)ぶ、午後18時。最新のニュースが全国に報じられる。S-cityのBarの店主が殺害された。家族共々銃で惨殺されていたという。その銃弾の武器は彼らの家にあったものと同じであった。それから一人暮らしの男もベッドの上で首を絞殺されて死んだ。首の骨まで折れ、とても人間の力とは思えないと専門家は報じた。それからT-cityの中央区の、ボランティアで気のいいおじさんとして名が通っていたウェルフレッドは行方不明となって、以後誰も彼の姿を見た者はいない。

いずれも、他国の元軍人であった。現場に証拠は残されておらず、緻密な計画による犯行であったとキャスターは紙面の文字を読んだ。


―――――――――――改稿

あの事件があった日から、半年が過ぎた頃、テドウは再び中央街へと向かった。いつ何処で命が脅かされるか知らない為、自身はあの地下での生活を辞めた。生活の為に、軍事管轄下の科学研究をしてお金を稼いでいる。研究所は広く使えて、住まいとしても無駄なものが無くて丁度いい。

国の連中からは、技術と知能において高い評価を貰っていた。特に機械の発明と新たなる武器の発明に関しては、他国からも目を置かれていた。自分の身は自分で守らなくてはならない。車に乗っているだけでも、どこかの諜報員が自分を射殺するかもしれない。出かけるには変装が必須だ。


都心で暮らす人々は、日差しの照る(もと)で、新たな恩恵を祈るかの如く日々の日課を勇んでいた。

あれ程無残だった建築物も、徐々に元の姿へと再建築され、所狭しとビルが立ち並んでいる。

あの後ニュースを確認したが、未だにあのロボットの事は公にされてなかった。現場には、箱状になったロボットの本体が僅かに残しておいたが、肝心な部分は自分で持って帰り、誰も知らぬような場所へ埋めておいた。

テドウは、車内のスイッチを押してニュースを流した。あれから、チャンネルを変えてもしつこく報道され、世間を騒がせていたのは、“水睡(みすい)総理の行方不明事件“だった。

政治に関心が薄かったテドウは今の今まで、この国を総括している者が誰だか知らなかった。ラジオや復興し始めた街のニュースで初めてその人を知った。

映像で見かけたその人は、濡れて光る程固めたオールバックに、キツい印象ながらもあっさりとした顔つきの男だった。顔に似合わずガタイだけはいいな、と胸板で張り詰めたスーツを見て思ったのが記憶にある。


それ以来、何故かその総理の事件に関して気にかけるようになった。


『未だに行方不明の水睡総理ですが……、一体何があったのでしょうか。議会は大混乱に包まれ、政府は調査を進めていると共に、総理不在の今後を話し合っているという事です』



都心に出たのは、路地裏のBARへ行く為だった。あの店へ行くのは久しぶりだ。自分にとって一番に背負わなくてはならない罪だ。

車から降り、路地裏を通り抜け、かつてロボットと訪れたあの店へと足を運んだ。しかし、そこには最早、建物も何も残されていなかった。

当然といえば当然だった。テドウは地面に花を手向けた。そして瞼を閉じて祈る。自分の祈りが無意味で、罪深い行為だとしても、テドウは祈り続ける事しか出来なかった。

「済まない、済まない」

テドウは暫くの間、そうして謝り続けた。

「そんな事をしたって、誰も帰っては来んよ」

突然、背中に話しかけられたと思って振り返ると、そこには杖をついた背の低い老人が立っていた。

「知ってます。しかし、私はせめて祈る事位しか出来ない。そうすると、彼は怒りを持って私に答えてくる……。それを一生、私はやり続けなくてはならない」

「ふん、そうか。やはり、あのロボットはお前が造ったんじゃな」

と、老人は言い放って背中を向けた。咄嗟に、テドウは「待って!」と言って老人を引き留めた。

「あのロボットについて、何かご存知なのですか?」

「ああ。あれは実に上手く造っていた。だが、誰かに改良を加えられたみたいじゃがな」

「貴方は一体何者なんです?」

「人を尋ねる時は自分から名乗るもんじゃぞ、小僧」

このやり取りを、テドウはいつだったかした覚えがあった。

「俺……、いや、私の名前はテドウと申します。苗字がありません。戦時中の生まれなもので」

「なるほど。ワシの名前はシュケーツじゃ。やはり、お前はテドウという男か……。恐ろしいものを造り出しおったの」

「何故私の名を知っているんです?貴方は私を殺しに来た者ですか?」

にわかに信じ難いが、相手は変装した国の使いの人間かもしれない。そんな事を言った途端、シュケーツは杖の先をどんっと地面に突き立てた。

「疑り深い奴じゃな。本当にドウリの息子か?」

「ドウリの事を知っているんですか!?」

思わず声が上ずった。その様子を見ると、シュケーツはふんっと勢いよく鼻を鳴らした。

「奴はワシの弟子じゃ。生前、お前の事をよく話していた……。血は繋がっていないが、自慢の息子じゃと。ついてこい。見せたいものがある」

そう言って、シュケーツは杖を進行方向に差しながら歩いて行った。テドウは慌ててその後ろをついて行った。






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