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R-001  作者: 白宮 安海
第二章 迸る粒子達よ、それぞれの道へ進め
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題19話 「うごめいて」

 

  化けの皮が剥がれ、無様に体内に収まっていた、さながら機械の血管をさらけ出しているのを見ると、己が作り出した悪質な兵器だったのだと実感が湧く。

  そして今、この手で長年体内の奥で渦巻いていた影を晴らした。しかし何故だか胸の中はそら寂しかった。

  テドウはしゃがみこんでソレの顔をじっと見つめた。それから胸元に内蔵されている核を取り出しズボンのポケットに捩じ込む。これには個体のメモリーやプログラムデータなどが温存されている。内密に処分をしなくてはならない。

  毀損した紛い物の霊を置き去りに、廃墟から脱出し夜の帳を走り抜けていった。


 *


  「私はそれから、死を体感した。いや、戦争で何度も体感したが、私にとってそれ程までの死はなかった。奴の言葉は正しかった」


  テドウは語った。胎盤の中の赤子のように、三人は夢に似た現実の物語を意識の中にキャッチした。再びブラックアウトをし、視界が開けた時目の前は蔵の前の荒野だった。辺りは夜が明けて翌日の太陽が昇っていた。

  生きてまた彼女に会える喜びを携えて歩を踏み出していた。その歩みは、蔵の入り口が放たれていた事によって止まる。


  「リアン…?」

 不穏な気持ちの悪さが腹の底から這いずり上がり、青ざめた。急いで駆け出し、蔵の中へと滑り込む。それからリアンの姿を探した。

  「リアン!!」

 

  食卓の間の扉が蹴破られている。武器の痕跡があった。侵入者は兵器を使って重厚な扉をこじ開けたようだ。部屋の中は滅茶苦茶に荒らされている。呼吸が速まる。隅っこの壁に背をもたれている彼女を発見した。叫ぼうとした声が喉につっかえた。彼女は腹から血を流していた。

「ああっ…そんな」

 体中の生気が抜け落ちていく。急いで彼女の元へと走り膝をついて状況判断を急いだ。まだ間に合うかもしれない。頭の隅で急げと訴える。

「リアン!リアン!」

 彼女はまだ息をしていた。すぐに止血をし、病院へと行かなくては。どうしてこんな事に。すると、リアンが微かな声で言った。

「……テ、ドウ」

「喋っちゃ駄目だ。今病院へ連れて行くから待ってろ」

  同部屋に備えてあるキッチンから速やかにタオルを持ってくると彼女を己の膝の上へと寝かせ、腹部の傷を抑えた。リアンは小さく微笑んだ。

「いや、お願いそばに、いて。…お願いだから。一人で、し、なせないで」

「死ぬなんて言うな。まだ助かる」

 テドウはリアンの冷たい手を握った。

「私ね、…し…わせ、だった。ねえ、子供が生まれたら…お花の庭、つくりましょ…それから」

 咳き込んで血を吐き出しながら、どこか幸福そうな瞳でテドウを見つめた。テドウは彼女に教わった笑顔を作って頷いた。

「ああ。つくろう。時間などに囚われないよう季節の花を全て植えよう」

「顔はあなたそっくりで、…目は私に似てて…」

 声はか細く萎れ、瞳からこぼれた一筋の涙は、テドウの涙と交わり落ちていった。

  耳に届かぬ咆哮は部屋に轟き、世界の果てへと朽ちていった。

 もう愛する者はどこにもいない。この世界にどこにも。死を招く手が背中を撫でているようだった。死ねば愛する者たちのいる場所へ帰れる。何も苦痛はない極楽へと。

「俺も一緒に」

 背負っていた鞄を降ろせば銃を手にした。銃口を口の中へと咥え憎しみと一緒に歯を立てる。だが不意に、リアンが凭れていた壁際の床に落ちている銃弾に気づく。武器を離して、その銃弾を拾いあげる。その銃弾の特殊構造は、対ロボットにも対応する加工をなされていた。それでテドウは、リアンを襲ったのが例の戦争の残党だと察した。

  つい先刻まで己の前にいた機械の亡霊が呟く。

 ――残党が…貴方を守るため…。

  アレは何もかも、こうなる事を予測していた。自分自身を呪い殺したい思いで、テドウは床に頭を何度も叩きつけた。生温い痛みばかりで何の解決にもならない。目を背けたくなる、彼女の瞳と同じく真紅に染まった遺体へと視線を向けて呟いた。

「リアン。君の仇は俺がうつ…!!」

  手の中の銃弾を握り、奥歯に憎しみを宿し噛み締めた。今この時愛は死に絶えた。そしてテドウは今後の未来永劫、孤独の放浪を決意するのであった。

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