第15話「消え去らぬ過去と失わぬ未来 2」
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13の歳になった。人工食糧を地下で栽培し、テドウとリアンの二人は、ドウリと暮らしていたこの要塞へ閉じこもっていた。テドウが資金をリアンとドウリに残してくれていた事を後で知った。その遺産の切り崩しと、己の腕を買われて担った機械修理の仕事の報酬で生計を立てている。学校へは行っていないが、パソコンから書籍をダウンロードして歴史や経済、様々な勉強をした。生前ドウリが教えてくれた。学ぶ事は幸福な事だ。愛に迷った時、人は知識に導かれる。迷った時は本を読め。
ほとんどの時間を作業室で過ごし、何かに取り憑かれたかのように、研究に没頭する。それ以外の時間は本を読んだ。そんな姿を見て、リアンは心配になった。あの惨劇があった広間へは固く扉を閉ざし、記憶と一緒に二度と開かないように蓋をした。
ある日、いつものように作業室に閉じこもって任された機械の修理作業をしていると、小鳥がさえずるような歌が聞こえてきてテドウは顔を上げる。導かれるように足は部屋を出て、その声の矛先へと歩いていく。
こころの花。花はひかり。ひかりは大地。
空を飛ぶ鳥よ。星よ降り注いで。愛はそよ風。眠れば訪れる夢の歌。
広間の前で体育座りをしているリアンが美しく澄んだ音色で歌を歌っていた。両手には薄赤色の花を一本、胸に携えている。
「その歌は?」そうテドウが聞く。
「この歌は、愛の歌。ドウリが一番好きだった歌よ」
「ドウリが?」
「ドウリの奥さんがよく歌っていたんだって。ドウリ、言ってた。今の時代、皆愛や夢を忘れてるって。だからもう一度皆が美しい夢を見られれば争いなんて無くなるかもって」
それを聞くとテドウは涙をぽたぽたと床に垂れ落とした。リアンが顔を上げ、どうしたの?と問うとテドウはか細く言った。
「分かった。ドウリの言っていた意味が。平和兵器の意味が。分かったんだ。ドウリはその歌を使って――。なのに俺は、全部壊した。ぶち壊した。バカだ、取り返しのつかないことを」
涙がとめどなく溢れた。いくら奥歯を噛み締めても過去には帰れない。愛する人は二度と戻ってこない。その現実が心臓を引き裂くような痛みを与える。リアンも同じように涙を溢れさせた。テドウに身を寄せて抱きしめると二人してわんわんと泣き喚いた。
「もう二度と失いたくない!皆が夢を見れる世界に俺が変えるから!」
泣きながら叫ぶ声に、リアンは何度も何度も頷いた。