第14話「消え去らぬ過去と 失わぬ未来」
涙や鼻水で濡れてくしゃくしゃに歪んだリアンの必至の形相に、テドウは自分の心臓を落ち着かせた。
かつて笑顔と希望の光をくれた、父であり友であったドウリの亡骸は、リアンと二人でその夜土に埋めた。枯れ果てた大地に咲くはずもない、名も知れぬ花が咲いているのを見つけ、二人でつくった墓に添えた。
テドウが死んで、いくつ日が経っても吐き気と身体の震えが消えなかった。脳裏に、いつまでもあの姿が、おぞましい機械の腕がドウリの体へ突き刺さる場面が浮かんでくる。
いつあのロボットが襲いにくるかと思い、夜眠ることも不可能だった。
夢の中ならば、いつものようにドウリが笑いながら挨拶をしてくるのだろうか。頭の中で何度も幻影を思い浮かべて、現実から逃れた。だがそんな妄想は泡となってすぐに消える。
リアンも同じだった。むしろテドウより深刻だった。あれから言葉も話さず、顔も見せず、ずっと部屋に籠もり放しだった。テドウが部屋へ飲み物や食べ物を届けようとしても、何も受け付けなかった。
〝これで戦争が終わる〟と言ったドウリの言葉はそのとおりになった。地響きはおさまり、静けさが世界を包む。自分が望んでいないような形で、平穏は訪れた。通信機からは休戦との報せが届いた。
自分が創り出した“怪物”は、今どこで一体どうしているだろう。それを知ろうとする度、自らに蓋をした。もうどうでもいいとさえ思った。ドウリが死んだ。その事だけで、過去に囚われた屍のように生きる事しか自分には許されない。
ある晩テドウは、ロボットが眠っていた作業室へ入り、もぬけの殻になった台を呆と見つめた。
「ねぇ、テドウ」
リアンが入り口に立っていた。やつれた頬をして、輝きを失い濁った赤い瞳の下にくまが出来ている。髪も服装もぼろぼろで疲弊しきっていた。
「私達二人しかいないの。もう。だから、もう受け止めなくちゃ。お父さんを殺したのは戦争よ」
リアンはくぐもった声を出して、悲しみを我慢するように口元を抑えた。
テドウはこのたった一人の家族を一生かけて守らなくてはならないと、その時心に誓った。ドウリが生きていたらそうするように、この人を一生かけて守るのだ。
「リアン、許して」
言葉にした途端、息が詰まる思いだった。誤ったところで許されない罪を背負った。
「お父さん、ごめんなさい」
か細い声が室内を虚しく包み込んで、すぐに消えた。