第13話 「それは愛情と呼ぶ 2」
腕を引き抜かれた刹那、最も正義の似合う唇からは大量の鮮血が溢れ出した。リアンもテドウも、あまりの出来事に声すら出せないままガタガタと震えた。
それでも無精髭を生やした口元はいつものような笑顔を浮かべ、テドウの頭をぽんと優しく叩いて言った。
「て、ど…すごい、ぞ…よく、…でき、たな」
――お前は立派な息子だ。言葉にならない声が聞こえてきた気がした。
「ド……ウ、リ」
その後、自分の絶叫だけがはっきりと聞こえた。涙が溢れて心臓が張り裂けそうに痛い。
リアンは未だに理解のできない状況に呼吸を荒げている。ドウリの体を何とか治そうと頭を高速で回転させた。ロボットを造れたなら人間を治すことも出来るはず。必至に方法を考えた。だが、ドウリは最期の力を振り絞って、ひゅーひゅーと気道から漏れる呼気と一緒に弱々しく声を繋げた。
「テ、ド…聞け」
「喋らないで、まだ治せる。きっと俺が治すから!」
「無駄だ。…それより、聞、け。リ、アンも」
ドウリは苦しげに肺を浮き上がらせるが、必至に命を紡ごうと堪えた。テドウはそんな様子を見ても泣くことしか出来なかった。
「お前達は、最高の…はぁ、家族、だ…愛し、て…」
目を細め、最期の気力で親指を立てて歯を見せた。それから呼吸を囃し立てると、涙を浮かべどこか彼方を見つめていた。それから力をなくして全てを放り出すと最後は一つだけ小さな息を吐いてからその長い苦痛を終わらせた。
「ドウリ!!ドウリ!!」
涙の咆哮が天を貫いた。リアンも同じくしゃくり泣いて止まらなかった。
自分があんなロボットを作らなければこんな事に、大切な人が死なずに済んだ。殺したのはこの自分だ。自分の心臓を何度も抉りたかった。溢れ出す感情は堰き止めることなく、青白くなったテドウの顔を見て己を責めた。
リアンを守らなくては。テドウはそう思ってロボットを始末するべく、泣き濡れて歯をむき出しにした憎悪を機体へ向けた。
しかしロボットはどちらにも攻撃を加えずに無視し、四肢をぐるりと回転させ、その場を走り去った。そして地上へと物凄い勢いで這い上がって姿を消してしまった。
俺があのロボットを追って始末する。使命感にかられて立ち上がった。しかしリアンは切羽詰まった声でテドウを引き止めた。
「行かないで!!殺される!!」