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R-001  作者: 白宮 安海
第二章 迸る粒子達よ、それぞれの道へ進め
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第11話 「それは愛情と呼ぶ 1」

 


  季節を跨いで詠月。未だ終わらぬ戦争は規模を拡大していった。敵軍は機密兵器のロボ軍隊を参入。また、人間以上の能力を発揮する事のできる機械装置を軍隊に導入した。しかし日本も負けじと機械兵器を戦線に解き放った。人智を超えるレベルの戦いが地上で巻き起こっていた。

 

  地球が怒りを孕んでいるかのような地響きでテドウは飛び起きた。それから何度も同じような地響きが続き、爆音に体を何度も跳ねさせながら毛布の中で身を縮こまらせた。

  リアンがテドウへと大きく声をかけた。

「襲撃よ!テドウ!避難して」

  テドウは毛布を剥ぐと、リアンと共に急いで一番安全な部屋へと避難し、扉を閉して二人して地面にうずくまる。

「ドウリは!?」

 と、すっかり目覚めた目をかっと開きながら問いかけた。

「行ってしまった」

 じっと座っていると不安が頭によぎって仕方がない。テドウはいても立ってもいられずに立ち上がり扉を開いてどこかへ行こうとした。慌ててリアンも立ち上がり。

「なに、どこに行くの!?」

「助けるんだよ!ドウリを…!」

  「どうやって?」

 部屋を出て、通路を走るテドウの後ろをリアンはついて走った。やがてあの実験室へとたどり着くと、テドウは扉を勢い良く開き、台の前の椅子に昇り機械を弄り始めた。

「もうすぐ、もうすぐ完成するんだ」

 リアンはテドウの行動を不可解な目で見つめた。

「何してるの!ねえ、テドウ」

「ロボットだよ!!分かるだろ!もうすぐで完成なんだ」

  答えられても不安な眼差しで、どうしようもなくテドウの手元を眺めていた。

「よし!出来た!起動しろ、シヴァ」

 そう言ったが、一向にロボットは起動をしない。テドウは苛立ちを募らせて台の上を叩いた。

「おい、何でだ。起動しろってば」

「テドウ!リアン!そこにいたのか」

 と、扉の近くにドウリが立っていた。脇腹を負傷し、片手で抑えた箇所から血がぽたぽたと垂れ落ちている。おまけに顔半分は焼きただれていた。

「ドウリ!!」二人はその光景を見て、目を見張った。

「はは、心配ない。ちょっと怪我しただけだ。それよりもお前ら、今晩ここを発つぞ。荷造りの用意をしておけ」

「心配に決まってるだろ!早く手当てをしないと」

「私、治療道具を取ってくる」リアンが急いで部屋を出ていくと、ドウリはテドウの近くの作業跡に目をやった。

「お前、それ――」

「ごめん、どうしても我慢できなかった。でもこれで戦争が絶対に終わるから!俺達のシヴァが何とかしてくれる!」

 その時、部屋の外でリアンの悲鳴が聞こえた。急いでドウリが、それから続けてテドウもその悲鳴の行方を追って駆け出した。以上を察したドウリは、テドウに「身を隠せ」と言った。悲鳴の在り処の手前でしゃがみこんで、影から様子を窺った。

 広間で敵軍の兵士が2、3人立っており、一人の男がリアンの髪を掴んで捕らえていた。男達は機械武装を身につけていた。

「っその子を離せ!!」

 ドウリは喉が張り裂けるような声で言った。

  兵士は、異国の言葉で「お前がドウリか?」と聞いた。ドウリは頷いて答えた。

「ああそうだ。俺がドウリだ!お前達は俺の首が狙いなんだろう。その子は関係ない、離してやってくれ。殺るなら俺を殺れ」

  そのやりとりを見たテドウは、震えを手の中に絞り込んだ。丁度、暖炉の傍にドウリの銃が置いてあるのが見える。それを素早く手に取り撃てば何とか助かるかもしれない。そう考えると、死に物狂いで走り出した。兵士の一人が声を上げた。ドウリも「テドウ!!」と叫んだ。銃の使い方は知っていた。もっと幼い頃に腹が減って、人から銃を盗み獣を撃ったことがあったからだ。

  重たい銃を抱え、安全装置を外し、思い切りトリガーを引き、発砲した。リアンはひっと声を漏らし頭を下げた。兵士の一人に当たったが、その弾は無惨にも機械装置の体から跳ね返った。

「嘘、だろ」


  テドウは信じられないような顔で、恐怖に手を打ち震わせた。逆上した男が真っ赤な顔をして近づいてくると、銃の持ち手でテドウの頭を殴った。ドウリは男に食ってかかり背中から羽交い締めにしたが、もう一人の兵士に殴られて四肢を地面に緩やかに落とした。

  三人は両手首に、鉄で出来た拘束具を嵌められ壁の隅に座らされた。もう終わりだ。本能は死に晒された危険でいっぱいとなった。兵士たちは食糧を食い荒らして、ここを拠点にし、捕えた三人も食糧にすると話していた。テドウとリアンは兵士たちの言葉が分からなかったが、自分たちは殺される運命なのだという事だけは安易に理解できた。

 

  「心配するな。俺がお前たちを必ず守る」そうドウリは小声で二人を安心させた。テドウは頭の中で繰り返し唱えた。

 お願いします。シヴァ神様!どうかお助け下さい。俺から大切な家族を奪わないで。お願いします。

  その時、微かに部屋の外で物音が聞こえた。

「何だ。もう一人誰かいるのか」兵士がハムを口にしながら、振り返った。それから銃を持って立ち上がると、広間にソレが入ってきた。

「な、何だこいつは…!」

 兵士が驚いたのも無理はない。何故ならそこには体格のいい人間の男ほどの大きさのロボットが仁王立ちをしていたからだ。――シヴァだ!テドウは希望の糸を手繰り寄せた。


 シヴァは駆動音を機体の中から鳴らした。兵士が目の前の異質な存在へ目掛けて、遮二無二に弾を撃ち放つ。すると、ロボットは首を男の方へ曲げるなり低速で一歩二歩と歩み寄ったと思えば、突然男の頭めがけて腕を振り払い、地面や壁には血肉が舞い散った。その残酷な光景に、リアンは目を伏せて硬直していた。

「これは…」ドウリが口と目を開け放しにしている他所で、テドウ一人はその闘いを心の中で応援していた。

 いいぞ。もっとやれ。その調子だ。そいつらは悪い奴らだ。こらしめてくれ!やった。これなら奴らに勝てる!

恐れおののいた軍人達の悲鳴があがる。そこに立っているのは紛れもない“怪物”だった。狂気を帯びた硬質物の塊は、人間を見下ろし頭部を左右に動かしている。兵士たちは武器を構え、一斉に機体目掛けて撃ち続けるがどれも効かなかった。

「化け物め!!」

弾を何度も何度も、“それ”に乱射した。

無論、肢体には穴すら開かず、ぶつかり合って飛んだ火花と煙が上がるのみ。ついに弾がつきた男は逃げようと試みるが、化物は緩やかに男を捕まえ、そのアームを大きく宙に上げれば、物のように床に叩きつけた。ゴフッと、血がこみ上げた音と肉が弾ける音がして、また一人死んだ。

残った男は嘔吐し、腰を抜かして後退った。慈悲もなく、ロボットは素早く標的を両手で捕まえるとグッと体を押し潰そうとした。

テドウはその惨事に、とうとう恐怖を抱いた。「もういい、やめろ!もう終わりだ!」

しかしロボットは最早制御不能だった。男の体は簡単に潰れて形を歪めながら地面に崩れさった。

「テドウ、一体どういうことなんだ」

その一連を眺めながらドウリはテドウへ顔を向けて追求した。申し訳ない気持ちが溢れ出して。

「ドウリ、ごめん。あのロボット、俺が勝手に改造したんだ。あんな、あんな化物になるとは思わなかった!」

「改造、したのか」

「ドウリ本当にごめん!!」

「制御プログラムは組み込んだのか?」

「知らない、俺はただ、皆を救いたくて」

しかし敵軍は皆やっつけた。今や一面血の海と化した景色を見て、テドウはロボットを停止させようと命令をした。

「もう終わりだ。敵はいない。停止しろ」

ロボットはぐるりと体を方向転換させ、テドウ達に近づいてきた。危機感を察知し、テドウは繰り返し停止を命令し続ける。

だが、ロボットは止まらない。機体の影が三人を見下ろす。そして腕を振り下ろし、ドウリの体を貫いた。



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