第9話 「家族」
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通信機から、敵軍が都市部に逸れたという情報が入った。ここにいる限り、当分の間は平和であるとドウリは言った。それでもドウリは、外に出ては怪我を作って帰ることもあった。リアンは心底心配しながらドウリの治療をしていた。
それ以外に至っては平和であった。そんな日常に慣れていないテドウは、寝静まった夜に外へ抜け出しどこか遠くへ行ってしまおうかなどと考えたこともあった。だが、必ずドウリは、空よりも大きな両手を広げながら迎えに来た。ドウリはテドウ達を息子、娘、家族と呼んだ。しかしそれらも、テドウにとっては胸の内が擽ったくなる単語だ。
しかし日々を募らせていくうちに、ドウリの事を父親のように思えてきた。もしも家族がいたならば、こんな風に食卓を囲んだりしたのだろうか。テドウは、ドウリと初めて出会った頃とは見違えような健康体を取り戻した。肉付きもよく、筋肉もついてきた。時々外へ出てドウリが紹介をした畑へ労働に赴いては、報酬に食糧を貰ってきた。それから地下の住処を掃除したり、家事手伝いを進んでやってのけた。労働はテドウの生きがいとなっていた。土にまみれた食物を採取する際、命の輝きと未来への希望が見いだせたような気がした。汗をかき、風呂に入って、リアンと遊ぶことが楽しかった。すっかり子供らしい笑顔を取り戻していった。
ドウリのことを実の親以上に信頼し、尊敬をしていたが、ただ一つ気がかりなのは、あのロボットの存在であった。ドウリいわく、あのロボットを平和の象徴だと宣うが、未だに信じていない。度々、あのロボットの様子をこっそり伺いに行く事があった。
平和兵器。本当にそんな生易しいものなのだろうか?人間でさえ不可能な平和という尊いものに、感情のない作り物などが叶えられるというのか。テドウは、ロボットを眺めているうちに、ある一つの欲望が湧き出てきた。それはふつふつとテドウの全身へと巡り、毒のような好奇心を抑えきれずに何度も部屋へと忍び込んだ。ロボットの資料、設計、行動の原理などを飽きることなく貪り読んだ。
ある日、泥臭い体をして帰ってきたテドウに問いかけた。
「なあ、あのロボット。いつ完成するんだ?」
ドウリは胡座をかいて足の負傷の手当をしていた。汚れた顔に笑みをたずさえると、テドウの頭にぽんと手を置き「あと、もう少しだ。ほんの少し」と、呟いた。
一生そんな言い訳をして、終わるのではないか?テドウはそう思った。しかし、終わる気配のない戦争の、生々しい傷がドウリの体に増えるたび、危惧を感じた。リアンはドウリの傷が増える度に泣きながら包帯を巻いていた。
「いたた。おいお前達、明日から外に出るのを禁止する。仕事に出るのもだめだ。家で大人しく待っていること。分かったか?」
「どうして?またこの辺にしゅうげきが来るのか?」
「ああそうだな。だから絶対安全に身を確保してろ。これはお前達への任務だ」
「ドウリも外に出るなよ!ずっとここにいろよ!」
テドウは立ち上がって大声を上げる。それでもドウリはいつものような穏やかな笑顔を浮かべるだけであった。
「ははは!なんだ心配してくれてるのか。かわいい奴め」
「子供扱いするな!ケガが増えてるじゃねーかよ。もしドウリが死んだら、死んだら…」その先の言葉を言うのがひどく恐ろしく、声を詰まらせて瞳を伏せた。
「安心しろ。俺は死なん。シヴァがついてるからな」
「シヴァ…?」
「俺達は戦いの神ドゥルガーだ。破壊と再生の神、シヴァが俺達を必ず勝利に導いてくださる」そう言いながら瞼を閉じて、祈りを捧げた。
「シヴァ…、ドゥルガー」
テドウはその二つの神の名を胸の奥に深く刻み込んだ。そしてある計画を心の中で固く決意した。己がシヴァ神のようになって、この戦争を自分の手で終わらしてやると。ドウリとリアン、三人仲良く、いつまでも家族でいられるようにと。




