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R-001  作者: 白宮 安海
第二章 迸る粒子達よ、それぞれの道へ進め
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第8話 「瞳の奥の色は春に似た」

「こらこら、二人共。そんな事を言うもんじゃない。赤い目も灰色もかっこいいじゃないか」

「クリムゾンだってば。男って何も分かってないんだから」リアンは頬を膨らました。

 ドウリが扉を開いて中に入るのを、ついでについて行こうとしたテドウを前にしてリアンは両手を広げ塞いだ。

「だめ。ここは秘密の部屋だから」

  そう言われれば余計に中へ入りたい気持ちから、体を左右に揺らすと、台の前に立ったドウリが口を挟んだ。

「まあまあ、いいじゃないか。テドウだって俺達の家族なんだぞ。リアン、そんなに意地悪をするもんじゃない」

「はーい」

 つまらなそうに返事をするリアンがその場を離れる。テドウは部屋の中へと足を踏み入れると、未知の世界へ辿り着いたような感覚に胸がはしゃいだ。

「見るのは初めてか。これは今俺が作っているロボットだ」

「ロボット?何なんだそれ」

  台に近寄って、ロボットを間近に見上げてみると、質量の重さが空間から肌に伝ってきた。手足のついた金属で出来た体は、まだ未完成故、ところどころ内部が露になっている。しかしその顔は人間の骨格を真似ており、目を閉じて眠りについているかに見える。

「これは戦争を終わらす鍵だ」と、ドウリは言った。

「これが?」

 その言葉が信じられず、ロボットを凝視した。確かに強そうではある。これなら、敵の軍隊を制圧出来るかもしれない。

「でも、沢山人が死ぬんでしょう」テドウが恐れ半分でそう口にすると、ドウリは首を横に振って否定した。

「このロボットは闘わぬ兵器だ。人も死なない。人も傷つけない。いつかこのロボットが闘いのない世界に変える。人類を平和に導くためのものだ。こいつにはあらゆる悪を善に変える力がある。赤ん坊の無垢な記憶と愛を呼び起こすように。人類は地球が母だということを思い出し、再び笑顔を取り戻すに違いない」


 〝戦争がなくなる〟希望に満ち満ちた単語に、疑心暗鬼になる。現に、今まで戦争は自分から全てを奪っていったではないか。母も父も。急にドウリの綺麗事に腹がたった。

「人を傷つけずに、終わらせることなんて出来ない。犠牲が出るんだ。分かるだろ、こんなゴミみたいなのに何が出来るんだよ!」

「今の言葉取り消しなさい!」

 リアンはテドウの言葉に即座に撤回を求めた。

「いいんだリアン。テドウがそう思うのは当然だ」


 テドウは、バツが悪そうに背中を向けて、部屋を出ていった。リアンはその背中を追いかけて走った。

「待って!」

  道の途中で手を掴んで声をかける。

「何をそんなに怯えてるの」

「怯えてなんかない。あっち行けよ」テドウが手を振り払ってまた歩き進めても、リアンは諦めずについて歩く。

「ドウリに謝って。さっきのはドウリの大切なものなのに、あなたゴミだなんて言った」

「ゴミだろ。闘わないでアイツらに勝てるわけないのに。ドウリはバカだ」

「バカはあなたの方でしょ!」

「なんだと!」テドウは立ち止まってリアンを睨みつけた。

「もういい。あなたには分からないだろうから。私もお父さんももう血は見たくないの。誰かを傷つけたことがあるからこそ。あのロボットは私達の希望なの」

  その場に座り込んで両腕を膝上に交差させてうずくまる。その様子を見ると、大人びていた彼女が自分と同じ年の子供なのだと思えた。テドウはどう扱うことも出来ず、己の手を結んで言った。

「俺も。血はもう見たくない」

「ねえ、あなたの目をよく見せてよ」

 リアンは突拍子もなく話を変えた。そんな彼女に戸惑いながら目線を左右に揺らし、己の片目を抑えた。

「見せモンじゃねーよ」

「いいでしょ。私も見せるから。初めてなんだもん。私と同じ年の子。こっちに座って。早く」

 テドウはしぶしぶ、彼女の隣に座った。すると白い手が伸びて両頬を挟み込んだと思うと、大きなクリムゾンの瞳が燃えるような赤で己を包み込んだ。

「あなたの目、変って言ったけど私は好きよ」

「何かやだな。こうして見られるのは気持ち悪い」

「自分の顔をちゃんと見たことある?」

 リアンに言われて気づいた。ここの所、ずいぶんと自分の顔を見ていない事に。見たところでどうにもならない事が分かっていた。頬はこけて、目にはくまが広がり、見るに堪えない容姿をしているに違いない。それでもリアンは「結構かわいい顔してるよ」と転がるような声をして言った。テドウは気恥ずかしさと、初めての褒め言葉に涙が零れそうだったが喉を締めて堪えた。


「ねえ、あなたってば、お風呂に入ったことないでしょ」

「お風呂?何だそれ」聞いたこともない単語に首を傾げる。

「お風呂、知らない?ドウリのやつ。自分が風呂嫌いだからってあなたに入らせるの忘れてたんだわ」

 テドウは瞬きをしてリアンを見つめた。

「あなた、こんなに汚れてるんだからお風呂に入ってキレイにしないと駄目ね。女の子に嫌われちゃう」

「はあ?余計なお世話だ!」

「いいからこっちについてきて!」

リアンが手を引く先には、まき焚き風呂のある間が作られていた。リアンはそこで丈の筒を用いて、火を焚き、温かい湯をテドウに用意してくれた。テドウは風呂というものに初めて浸かった。それは優しく、心地が良く、全て洗い流される心地だった。

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