第7話 「出会い」
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大地が揺れた。まるで人間の愚かさへ怒るかのように激しく。 全身が反動、鼓動が跳ねて飛び起きた。土の壁に囲まれているここが、テドウは一瞬どこだか分からなかった。
おそらく今の振動は、地上で起きた空爆だろう。他国の軍がここら一帯を攻め立てるつもりだ。
このような経験は何度となく体感したのに、決して慣れる事はない。むしろ、生命の紐が少しずつ千切れていくような不安を煽られる。
ふと、体を守っていた亜麻色の毛布を見つめて、ドウリの姿が無くなっている事に気がつく。部屋が暗かった為、灯りを探した。暖炉の傍にランプを見つけて手を取り、火を灯す。広間を抜け別の道を探しにトンネルを歩いていく。
「おーい!」
大声で呼びかけながら、空間一帯を照ら。裸足の足は砂を噛んで歩き続ける。ここの設計は通路が少し狭いように設計されていた。敵に簡単に侵略されない為に、こう作られてるのではないかと考えた。左右に別れる道があり、右を選んで歩くと目の前に大きな鉄の扉が待ち構えていた。テドウはその扉を不思議そうに近寄った。
一度ためらったが、どうしてもその扉の存在が気になって仕方なく、取っ手を握り慎重に引いてみると、中がギイイと音を立てて開いた。
テドウは扉の隙間から中を覗きこんだ。部屋の中は実験室のような成りをしており、縦長の台の上には、金属の塊があった。テドウは知らぬがそれは制作途中のロボットであった。
「なんだ、あれ」
つばを飲み込んで、摩訶不思議な物体に目を奪われた。その場から動けず、その金属の塊を触れてみたいと奇妙な好奇心にかられた。もう少し扉を開こう。そう手に力を込めた時、大きな丸い目がこちらを覗き返してきたため、テドウはびっくりして声を上げながら地面に尻餅をついた。
「わぁ!?」
「なに勝手に覗いてるの」
透き通った声が聞こえた。扉が開くとそこには、背丈が同じくらいの少女が立っていた。線は細く肌は陽に出ないような白さで、癖のついた金色の髪が腰の方まで伸びていた。
「だ、誰だ、お前!!」テドウは大声を上げた。
「あなたこそ誰なのよ。ここはしんにゅう禁止よ」
「俺はっ」
言いかけて唇を開くと「そいつはテドウ」と、後ろからドウリの声が聞こえて、振り向いた。
「ドウリ!どこにいたんだよ。探したんだぞ」
「ごめんごめん。少し外に用があってな」
「へえ、あなたテドウっていうの?よろしく。私リアン」リアンは朗らかに握手を求めたが、テドウはその手を握れず。それどころか少々頬を赤く染めて視線を反らした。
「テドウっていうのは、ドウリがつけてくれた…」
「じゃあ私と一緒ね。私の名前も父からつけてもらったの」
「えっ!?父…って、ドウリがお父さん?」
テドウはドウリを二度見した。明らかにリアンとは似ても似つかぬ、獰猛で勇ましい戦士の姿を。しかしドウリはそんなリアンに言い返した。
「まあ俺の子みたいなもんだなリアンは。リアンはお前と同じで、一人で道を彷徨っていたんだ。今は俺の家族としてここで暮らしている。そうだ、リアン。テドウに色々教えてやってくれ」
「あなたの目って変な色。私、こんな色初めて見た」
リアンは飄々と話だして、じっとテドウの灰雲色の目を見つめた。テドウは、唇を結び黙りながらそっぽを向いたが、後から小さく付け加えた。
「…お前の赤い目の方が変だ」
「これは赤じゃないわ。クリムゾンって言うの。テドウってば何も知らないんだから」
リアンはクスクスと笑うと、テドウは何だか自分自身が恥ずかしくなって「うるさい!」と前のめりになって張り合った。