第3話 「偽れぬ過去」
N-905が、司令塔の内部へ入る事を許可されたのは、緻密な機械チェックを通し、危険がないと判断された為である。盗聴器や起爆装置の内蔵、様々なリスクを避ける為に、研究室で入念な審査が施された。それでも警戒には警戒を。何も起こらぬようにと、司令塔内部の人間の監視が常にあった。それにN-905について統帥は知りたい事があった。
統帥室の中、ネオ達は横に並んで整列を成す。
「何故呼び出したか検討はついているだろう」
「ロッドの事でしょう。それより俺からも質問させてくれ。アンタに」
「何だ。言ってみろ」
「何であいつがロボットなのか。それを隠してた理由も。全部洗いざらい話してもらおうか。何も話さねぇなら俺らは命令に従わねえ。自分達でロッドを探す」
ネオも、リックもルウも堅い決意の眼をテドウに向けた。テドウは口端を結んだが、しばらくの沈黙の後で唇を開いた。
「ネオ。リック、それからルウ。私はお前達の過去を知っている。血肉を見ても両足で立って歩かねばならぬ苦しさを。お前達にも分かるだろう。シヴァは私の家族だ。お前達も例外ではない。いいだろう。お前達に私の過去を教えてやる」
テドウは、深く腰をかけて座り直すと、アームレストに搭載しているスイッチへ指を滑らせた。すると、天井から脳の形をした機械装置が降り、極細のプラグのような配線が伸びたと思えば、テドウの頭へ何十本ものプラグが差し込まれた。脳型機械装置は青く光を帯びた。
「これは、私の記憶。いや、記録と言おう。偽造は不可能。お前達に体感して貰う。過去の悲劇の物語を」
ネオら三人の足元の床からそれぞれ、体感共有式グローブチェアが出現した。大掛かりな設備が仕掛けられており、三人用のVRが取り付けられていた。
「座りたまえ」
テドウに言われるまま三人共腰を下ろすと、プログラムが作動し体を固定され、映像とシンクロするためのケーブルが体のあちこちに貼り付いた。
この装置は度々、ペナルティの際にも使用されるので、若干の冷や汗が垂れるのは致し方ない。
「では、開始しよう」
テドウがそう唱えた時、辺りは青い空と焼け野原だった。静けさを遮る爆音が聞こえた。そこに独りぼっちの少年が、ぼろぼろの布切れを纏って、裸足で地面を蹴ってがむしゃらに逃げているのが見える。
これが、若き頃のテドウ少年の記憶である。ネオ達は、息を飲んで見眺めた。