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R-001  作者: 白宮 安海
第一章 自由を求む暴発
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第2話「報(しら)せ」

 *


  統帥テドウの耳に、塔内内部からの異常の一報は光のように速く届いた。その時、実に言い難い形相で表情筋は引きつり、テドウは常軌を逸した笑い声を上げた。

「ついに来たのか。ふははは。ロッドに自由意志の暴走が」

「す、すみません。例のアレに対するコントロール制御は組み込んだはずなのに」と、ヤマダは床に両手をついて頭を下げた。

「腕に仕込んでおいた追跡チップも自分で破壊した模様です、はい。しかもシヴァ部隊の通信も障害を引き起こしております。これもロッド様の仕業です。只今捜索ロボ隊を総動員で向かわせております。ああ、何たる恐ろしい事態になった」

「自分で壊したか。私の息子ながらやりやがった。Bチーム及び、シヴァ隊を全員呼べ」

「は、はいい。かしこまりました。しかし、他のロボットの暴走はどう対処致しましょう」

「放っておけ」

「放っておく?そしたら、人々は…!」

「人はいつか死ぬ。今日生きれないのなら、それがそいつの運命の日だったのだ。私は人間の死がいかに脆いかをよく知っている」

 ヤマダはそのセリフを聞いて、開いた口が塞がらなかった。

「ロッド様の追跡と捕獲には民事ロボットを向かわせましょう。シヴァはいつも通りの任務を」

「私が設計をした高性能ロボットに、たかだか都民警護レベルのロボットが太刀打ち出来るわけがないだろう。だが人間は違う。人間は時にロボットよりも残酷な力を発揮する。正義と銘打っていれば特に」

  組んだ指に額を預け、小さく片方の口端を上げた。

「第一次ロボ戦争の悲劇を知っているか?人間はどこまでも愚かで、己の正義のためなら何でもするのだ。私達は全て失った。だが時を経てようやくここまで辿り着いた。そしてもうすぐ私達は夢を見る。暖かく永遠に消え去ることのない心地の良い深い夢を」

  テドウ統帥は顔を上げると、机上に映し出されるデータを見遣って、口角を上げた。

「どうやら復旧が出来たようだ。はじまるぞ」


  *

  午後13時。澄んだ青空に警報が鳴り響き、捜索ロボ隊の楕円型の機体についている機械式の羽根を上下にパタパタと揺らし、全区域を監視している。ロッドによる破壊行為はメイン地区にまで及んでいた。この騒動を利用しての、人々の暴動、デモまでも発生し、実質内戦状態となっていた。

「異常だな」

 禁止区域から不快な空を見上げ、ルウは胸中でネオの身を案じた。リックはドラム缶の上に座りながら、空中に五指を踊らせネットを弄っている。

「絶好調か?」片目でリックを一瞥し。

「いや、ロッドの手がかりは全く掴めない。逆探知しようにも、現場に落ちていた髪の毛一本じゃどうしようもないし。今、政府のコンピュータに侵入しようとしてるんだけど、あそこは門が硬くて」

「本当にロッドがやったのか」

「ネットグラスでこの髪の持ち主を調べたんだから間違いないって。機械は嘘つかない」

「あ!侵入出来た。ロッドに関するデータは…っと。駄目だ、現段階では追跡中としか表示されてない。…わわっ!」

「どうしたリック」

「ウィルスが発生だとっ。早く退治しないと」

「結局何も分からずじまいか」


  すると、双方のネットピアスに通知音が鳴った。リックとルウがはっとして顔を持ち上げた。見覚えのあるバイクが空を飛んで走っていると思えば、ゆっくりと地面に着陸した。乗客がヘルメットを取り外すと、二人は叫んだ。

「ネオ!」

「悪い、待たせちまって。ロッドが…あの野郎が」

 車から降りるなり、地面に崩れ落ちそうになるネオにルウが肩を貸した。

「ああ。知っている。メイン地区は壊滅状態らしい」

「待て、ネオ。そいつは一体何だ」とリックが指をさした先には見慣れぬロボットがいた。ルウは条件反射で臨戦態勢をとり、剣鞭の鋭い刃先を向ける。

「こいつはロボットだぞ」

「アワワ!暴力反対デス。私は安全なロボット、N-905デス」

「破壊するか。もうロボットなど信用出来んだろう」

「ひいい、誰か助けて」

「ルウ、落ち着け。二人共、こいつも連れて行くぞ」

 ネオの言葉に、二人は顔を見合わせた後、気でも狂ったかと心底心配をした。あるいは交通事故で頭に負傷でもしたのではと。

「待て待て、どういう事かきちんと説明しろよネオ」とリック。

 ネオはルウに支えてもらいながら壁際へと凭れて地面へと腰を下ろし体を落ち着けた。

「…わりい、説明は後にさせてくれ。とにかくそいつが居なきゃ俺は死んでた。言いたくないが命の恩人ってやつだ」

  二人は古びたロボットを見て言葉も出なかった。

  ネオの瞳には疲労困憊の色が滲んでいた。

「トルネが、…トルネがあいつに殺された」

 額を抑えながら、口にしたくない現実を紡いだ。

「何だって?それは確か、かい?」

 リックが眉をひそめて尋ねた。

「ああ。見たんだ」

「いや。現場にはトルネの指紋がついたオルゴールと、髪と血がついていたが、トルネの姿はなかった。ロッドと一緒で行方不明なんだ。死亡記録も更新されていない」

 ネオはその報告に目を見開いて驚いた。

「嘘だろ」

 それから、視線の矛先をN-905へと投げた。

「お前、そうだお前。何でトルネじゃなくて俺を選んだんだ。トルネは、トルネはどうしたんだ!」

「トルネ?あそこに居たのは、アナタだけデシタ」

「嘘つくんじゃねぇ!」

「ロボットは嘘をつけマセン」

「まあネオ、落ち着いて。だとしたら可能性がある。まだトルネが生きている可能性が」

「…だとしても、あんな体で、あんな事されて、一人にさせておけねぇだろ…!」

 ネオは不安を吐露した。

「まだ情報が掴めていないんだ。人の心配をするより一刻も早くその体を治療する事が先決だろう」

「鎮痛剤は打ってるよ。こんな怪我舐めてりゃ治る。…それより呼び出しかかってるんだろ、なぁ?」

「ああ、シヴァは全部隊司令塔に集まれと。僕らは特別に統帥室に呼び出しだ」

「はっ、ありがてー事だな」

 皮肉たっぷりに、ネオはほくそ笑んだ。

「先刻の話だが、俺は異を唱えておく」ルウはロボットを連れて行く件に対して、厳しく言い放った。反対にリックは飄々と、ロボットに距離を詰めていった。

「N-905と言ったね。よろしく。僕はリック」

「リック。ヨロシクお願いシマス」

「おいおい、そいつと仲良くすんなって」ネオが口を挟む。

「敵を知るには味方になるのが一番なんだよ、ネオ。もしかしたらこのロボット、スパイかもしれないしね」

「お前って奴はさぁ、腹黒いって言われない?」

「寝てていいよネオ。迎えの車をこっちに寄越したから。はい、薬」

「サンキュー」

 ネオはリックから眠剤を受け取ると口に含んで舌の上で溶かした。

 瞼の裏の暗闇の中でどうにか眠りにつこうと努めた。短か過ぎる15分後に丁度政府管理の車がやって来た。

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