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IN THE CITY  作者: ふわ 優
RABBT CHASE
4/5

その4


ふわが帰ってくるまでまだ1週間、帰ってきたらロールキャベツよろしくね。

その4

「メリスって言うのかぁ…いい名前だなぁ?」

実に不快な、不快極まりない声であった。 数時間前に取調室で会ったあの刑事と同じぐらい不快な声であった。 こんな声を聞くぐらいならば発泡スチロールと発泡スチロールを摺り合わせて出すキュリキュリと言う音を聞く方が100倍マシであるとさえ思った。

メリスはゆっくりとその声の主の姿を見上げ生唾を飲んだ。 スキンヘッドに不潔感溢れる無精髭、額に『Fuck』と言う刺青。そして中々がたいのいいこの男、先程セーラー服の少女に絡んでいたあの男では無いか。 メリスの額を冷や汗がタラリと伝う。

「お金がないんだってぇ? じゃあ俺が稼がせてあげるぜぇ。ヒヒヒ。そんな男に借りるより全然いいだろぉ?」

男は下品な笑みを浮かべる。 確かこの男の名前は…ノイハウスだったか…メリスは冷静にその顔を見上げていた。 無論、冷静と雖も恐怖は感じていた。しかし今は一人では無い頼りになるかは分からないがこちらには男がいるのだ。

「おいおい、俺の友達に気安く喋りかけてんじゃねぇーぞ」

ノイハウスの言葉を聞いたネズミはフッと笑いながら勇敢にもノイハウスの前に立ちはだかった。

お、この男中々勇気があるな…とメリスは少し安心した。

「あぁ?なんだてめぇ。俺はお前に用はねぇんだけど」

ノイハウスは表情を変えネズミを睨み付ける。

「お前誰に話しかけてるか分かってんのか? 俺はエプロンドレスの構成員ソルジャーだぜ?」

ネズミは余裕そうにニヒルに笑って言う。

(エプロンドレス? ソルジャー?…何それ…もしかしてヤバい人?)

「はぁ?嘘も大概にしろよぉ…お前みたいなのがエプロンドレスのソルジャーな訳ねぇだろ。そんなヒョロヒョロの体でよぉ。なぁ?」

ノイハウスは馬鹿にした様に笑い背後の取り巻きの方を見て言った。それに反応し取り巻き達も「ヘッヘッヘッ」と笑う。

「はぁ…これだから馬鹿は嫌いなんだよ。強さってのはなぁ、力が強いだけじゃねぇんだよ……」

数秒の沈黙が流れる。

「ぎゃはははははは! こいつなんか言ってますよノイハウスさん!」

取り巻きの1人が言う。

「いいか?ノイハウスさんはなぁこれからエプロンドレスのソルジャー、ゆくゆくはキャプテン、アンダーボスになる男だ。お前みたいな餓鬼とは違うんだよぉ」

続けて取り巻きの1人が言う。

「さてはナイネトラズ初心者か。いいよ…俺がターップリ教えてやるぜ。強さって奴をなぁ」

そう言うとメリスは斜めに構えて自身の首元にスッと手を添える。

その自身の溢れた行動にノイハウス達は目つきを変え構える。メリスもそのただならぬ殺気に息を飲んだ。


ーー沈黙ーー


たらりとネズミの額に汗が流れた。それが一体どの様な汗だったのかそれは分からないがその表情はいかにもマズい…と物語っていた。

(しまった……アレは島に置いて来たんだった…マズイぞ…アレが無いと俺は…)

メリスもネズミの手が小刻みに震えているのを目視した。彼は焦っているメリスにもそう分かったのである。メリスにも感じ取れたほどの焦りである。ノイハウスが気づかないはずが無い。焦りを確認したノイハウスは口元を緩めた。

「おい…なんだてめぇ?舐めてんのかぁ?」

マズイ……メリスがそう思った瞬間、ネズミの体は宙を舞っていた。ノイハウスの左ストレートがネズミの頬に直撃したのである。

メリスにはその光景がまるでスローモーションのように見えた。フワリと重力に反逆し空中を舞い、ゆっくりと地面に叩きつけられる。

「ガハッ…」口から吐血。 撒かれた血がマットに附着する。

メリスはまるで身を隠していたが強硬な要塞が一瞬にして消し去るのを感じた。

襲われる……改めてその恐怖を味わったのである。

「さぁてぇ…メリスゥだったっけぇ?おにいさんと遊ぼっかぁ…」

ネズミを跳ね除けたノイハウスはニタァと不気味な笑みを浮かべながら座ったメリスを見下ろした。 逆光で上手く表情を捉えられなくなったノイハウスは下品ではなく不気味であった。メリスの手のひらにジンワリと汗が滲む。

確かに小学校の時に襲われそうになった経験はあった。ディッチと言う教師が放課後1人残っていたメリスを強引に押し倒し舌舐めずりをしながら襲おうとしたのだ。その時はメリスはとっさに両目を突いてその場を乗り切った。しかし今は相手が違う。 今目の前にいるのは太った中年男とは違いがたいのいい大男なのだ。

「俺がなんで捕まった教えてやろうか?俺はな18人との援助交際、200人のレイプの容疑で逮捕されたんだよ。でもなぁ……俺に犯された奴はみーんな言ってたぜぇ。ノイハウスさんとのセックスは最高ってさぁ… 俺は思うんだよ。何事もキッカケが大事だってださぁ。1から100まで持って行くのは簡単だけどよぉ、誰も0から1に持っていかないんだよ。だから俺が君を0から1に持ってってあげるんだよぉ。しかもお金だって払うぜぇ…まあ、コトが済んだらお金を払ってでも俺とヤりたくなるだろうけどよぉ…」

ノイハウスは饒舌に話した。そのあまりにも淡々とした言葉運びにメリスは恐怖を感じる。

「け、結構よ…誰があんたなんかと…」

そのあまりにも弱々しい反抗の言葉は逆に相手に自分が怯えているコトを教えてるだけである。

「まあそう言うなってッ!」

そう言うとノイハウスはメリスの腕を強引に掴み立ち上がらせ引きずった。

抵抗しよう、などと言う気は全く起こらないほどその力は強かった。

「ま、安心しなよ。俺は女の子には優しいんだ…」

ノイハウスが笑う。 メリスを引きずって行く先にはドアがありトイレへ繋がる廊下がある。どうやらトイレ内でコトを済ますようである。

引きずられて行く途中メリスは冷めた目で見つめる囚人達を見た。もはやここにはあっちの世界にあった友情や正義感は存在していないんだ…そう感じた。不意にメリスの視線が先程の少女とぶつかる。少女はジッとメリスの目を死んだ魚の様な目で見つめていた。まるで私には関係ないと言う様に…


廊下に続くドアがしまった時、メリスはとうとう全てを諦めた。もうどうにでもなればいい……確かにこんな男に処女を奪われてしまうが死ぬわけではないのだ。ああ…何処から間違っていたのだろうか……いや間違ってなどなかったのかもしれない。自分はこうなる運命だったのだ。 もはや抗う気力も無い。

まっすぐな廊下を引きずられて行く中でメリスはそう思った。トイレへ続く廊下を取り巻き達を先頭にノイハウスは進んでいく。1番後方にいたメリスがふと後方の廊下の先を見たその時であった。

「えっ…⁉︎」

なんと後方の廊下先に船に乗る前に見たチェーシャこちらを見て手を振っているでは無いか! メリスは思わず声をあげる。幸いノイハウス達には聞こえていない様である。

メリスは口だけを動かし「た す け て」と伝えるがチェーシャは口に指を立てシーッと言うジェスチャーをする。 そして腕を上げ自分の手首をぽんぽんと叩いた。どうやらメリスに渡したリストバンドを指差しているらしい。

メリスは「は?」と言う顔をする。無理も無い全く意味が分からない。

前方でトイレのドアが開いた音が聞こえた。もう時間は無い。 焦るメリスにチェーシャは大丈夫だと言う様に笑った。

(あいつ……ッ!)

メリスの怒りも虚しく彼女はトイレへ連れ込まれた。トイレのドアが閉まると同時にノイハウスは今まで掴んでいたメリスを乱雑に地べたへ突き飛ばした。

「ちょーっと言ってなかったけど…俺は少しSなんでね…ま、いっかさっさと…コトをやろうぜ…」

地べたに突き飛ばされたメリスは恐怖で何も言えなかった。ただ……立たなくてはと思い洗面台を掴みゆっくりとよろよろ立ち上がる。

「はぁ…はぁ……ッ」

恐怖からなのか汗の量が尋常では無い。心なしか右手につけたリストバンドが熱い。

「へぇ…自分で立つなんて積極的じゃ無いか。俺も鼻の先が湿って来てるぜ。ヘッヘッ」

ノイハウスは自分の鼻の先を撫でる。それと同時に取り巻きが言う。

「ノイハウスさんは興奮すると鼻の先が湿るんだぜ。ケケッ!」

ノイハウスはニタァと笑うとメリスの肩をガシッと掴みそのままグッと顔を近づける。フンフンッと言う鼻息がメリスの顔にかかる。

(やっぱダメだこのおっさん…!)

唇と唇が触れ合うほんの数ミリ触れ合うか触れ合わないかのところでメリスは力を振り絞りノイハウスは突き放した。


「そう言う気が強い子も……たまらないねぇ…」

よろけたノイハウスが不気味に笑いながら言った。

メリスも突き飛ばした反動で後ろへよろけ洗面台へ手を付く。恐怖を紛らわせる為右手は蛇口をグッと抑えていた。

「さ、続きをやろうか…」

ノイハウスが近づいてくる。

(助けて…!)

メリスはグッと目を瞑った。その瞬間、蛇口を握っていた右手がカァッと熱くなって来た。そしてメリスの右手に伝わる粘度を潰す様なグニャリと言う感触。

(え…何⁉︎)

メリスはその粘土のような物を持ったまま手を自分の目の前に持って来る。

(な、なんなのこれ⁉︎)

メリスは自身が持っていた物、そして自分の右手を見て驚いた。握っていたはずの蛇口はそこにはなく、その変わりにデザートイーグルの様な形状の銃が握られていたのである。そしてそれを握る手はガントレットを嵌めているかの様であった。

「なんだそりゃぁ?」

何を持っているのか分からないノイハウスはメリスの右手を凝視する。

「ノイハウスさん! こいつ銃を! 銃を持ってます!」

取り巻きの1人が叫んだ。

「…ガキぃ…何処にそんな物潜ませてたんだ…さすがナイネトラズに来るだけはあるな…さあ、銃をこっちへ渡しな…」

ノイハウスの喋るトーンが変わったのがハッキリと分かった。怒っているのかビビっているのか…

少なくともメリスは自分が今目の前の男よりも優位に立とうとしていると言うことが分かった。

メリスはゆっくりと銃をノイハウスへ向けた。

「おい……まさか俺を撃つのか?」

「の、ノイハウスさん、あ、危ないですよ!」

取り巻きが叫ぶがノイハウスは冷静に答えた。

「こいつは撃てねぇ。見て見な、この構え。こいつは銃を撃ったことがねぇ」

それを聞いた取り巻きはメリスを見る。なるほどおおよそ銃を撃つ構えでは無いのはすぐに見て取れた。

メリスの額に汗がたらりと流れる。

「え、ええ…銃なんて撃ったこと無いわ。だって私は普通の女の子だもの…でも今日その普通の女の子を辞めちゃうかも…」

メリスは自分が焦っているコトを悟られぬよう必死で強がって見せた。

しかしそんなセリフに臆することもせずにノイハウスはゆっくりとメリスに近づいてくる。スッと手を伸ばしその銃を渡せと言っているようである。

「こ、これ以上近づくと撃つわよ!」

無論、引き金を引くほどの勇気などメリスには無い。 しかし、今やらねば……

「ほら…殺人なんてしたく無いだろぉ?」

殺人… メリスの頭の中をその言葉が駆け巡る。私は既に人を殺しているんだ。ならば1人ぐらいなんだ、ヤッテヤル…メリスの中の何かが切れた音がした。 この音は…

ズダーーンッ!

トリガーを引いた瞬間メリスはグッと目を瞑ったそれは恐怖からではなくあまりにも大きい反動からである。

目を閉じたメリスの顔に無数の冷たい液体が飛び散った。


ーー続くーー

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