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IN THE CITY  作者: ふわ 優
RABBT CHASE
3/5

その3


東京は暑いね…

都築マンはこんな暑いのに鍋食べてるよ…

その3


ゴーストシップ。その風体はまさにその名が相応しい出で立ちの船であった。 メリスの気分が暗かったせいでそう見えたのかもしれないがそれを差し引いても明るい豪華客船と言うわけにはいかなかった。

(これのどこが方舟なの……)

メリスは呆れたようにため息を吐く。

まあ無理もないこれは何処かリゾートへ連れて行く船ではないのだ。目的地は無論監獄、それもあのナイネトラズ監獄である。

船は多少の時間を掛け着港する。 そしてまるで図ったかのようにメリスの前にタラップが下げられる。

タラップが地面に叩きつけられた音が港内に響き渡りそして再び沈黙する。メリスは船上を見上げる。 タラップが降りて来たにも関わらず船は沈黙している。

ゴクンとメリスは生唾を飲み込んだ。

数分の沈黙の後鉄製のタラップを降りてくる音が聞こえメリスは再び船上を見上げる。見ると真っ黒いスーツを着た男が1人タラップを悠々とおりて来ていた。

男はタラップを降り切ると小脇に抱えていたバインダーをするりと取り出し挟まっていた用紙をペラペラとめくり出す。

「えぇーっと君は……メリス・リベラル 18歳 罪状殺人、で間違いないね?」

男は用紙とメリスの顔を交互に見ながら言う。

男の質問に何も答えないメリスを後ろで見ていたダスクが小突く。

「は、はい…そうです」

「本当に間違いないね?」

男は今度はメリスではなく後方のダスクを見ながら言った。

「はい。間違いありません」

「では…えぇーっと午後8時12分引き渡し完了。確かにメリス・リベラルの身柄を受け取った」

男が言うと同時に後ろで掛けられていた手錠が外された。

メリスは数時間ぶりに自由になった両腕を馴らすように振るう。 その時自分の右手に赤いリストバンドが着いているのを発見する。

(え…何これ……まさかさっきあのチェーシャとか言う奴が…)

そうこれは先ほどチェーシャによって付けられたリストバンドである。 しかしこれは一体……

「さあ早く…」

不思議そうに腕を見つめるメリスに男が言う。

「あ、はい…」

メリスは男の後に続いてタラップを登って行った。 もう2度と戻って来れないのかもしれないと言う恐怖からか、途中メリスはダスクの方を振り返った。 ダスクは他の警備員と同じ様に無表情で此方を見つめていた。まるで出棺の時の様に…



先ほどと同じ様な閉ざされた船室で数十分に渡って色々と説明を受けた後メリスは自分の寝泊まりする船室のキーを渡され「基本船内は自由行動だが規定の時間まではこの場所にいるように」と言われ同じ護送中の囚人が集まった大部屋の船室へ通された。

大部屋は幼い頃乗ったフェリーの2等級船室そっくりであった。 その2等級に数十人の目つきの悪い男達が騒ぎあっていた。 囚人達の服装は様々でありそこまで異常な感じでは無かったが目では捉えられぬ何かがあった。

メリスはやれやれとため息を付いて隅の窓に面した場所に座り窓の外をジッと眺めた。 時折囚人達の声が大きくなりそちらの方を振り返ることを繰り返していた。その時であった。自分と同じように部屋の隅で膝をついて座り窓の外を眺めているショートヘアの少女を発見する。

あたりを見回しても同性の囚人がいなかったのでメリスは何か話しかけようかと考え彼女を眺めた。 顔立ちは中々の美形で東洋系の顔であった。 歳も自分と近そうだ。 それに加えセーラー服を着ているでは無いかこれは仲良くならない手はない。是非話しかけよう…そう思った時、頭をある思いが過った。

(ここにいるってことは彼女も……何かとんでもないことをしでかしている……)そこでメリスは改めて自分がとんでもない場所に行くのだと言うことを思い知り腰を上げるのをやめ再び窓の外に視線を移した。

窓の外は無論暗闇の海原が広がっているだけであった。その海原には満月が反射し一筋の線を描いていた。

(気分は最悪なのに…こんなの無いわ…)

メリスは冷めた表情でその光景をジッと見つめる。 どうせなら土砂降りで大時化の海の方が似合っている。 全く世界は私のことが嫌いなのか…メリスは思った。

その時であった。自分でも驚くほどハッキリとある声が聞こえて来たのである。

「おぉ? 御嬢チャーン、可愛い顔してるじゃねぇかぁ?」

そのあまりにもクリアな声にメリスはまさか自分か⁉︎と思い振り返る。 しかしそこには声の主はおらず、その代わり先程の少女の周りを数人の男の囚人が囲っていた。その中の1番背が高く背が高い男が集団のリーダーなのだなとメリスは思った。

(え…あれマズいんじゃ……)

メリスは生唾を飲み込むが何も出来ずその場に座り込んだまま動けない。囲まれている少女は表情を一つ変えずジッと一点だけを見ている。

「なぁ…お兄ちゃんと遊ぼうぜぇ……君みたいな可愛い女の子を見るとイタズラしたくなるんだよ」

リーダーの男が言った。 ケケケケと取り巻きが下品に笑う。

「…お兄ちゃん………」

少女は一点を見つめたまま呟いた。

「そうだ俺がお兄ちゃんだぞぉ。いいだろぉ? お兄ちゃんを気持ち良くさせてくれよぉ……」

「そうだぞ。おい! ガキ、ちゃんとノイハウスさんの方を見ろよ!」

リーダーに相槌を打つように取り巻きが言った。と同時に再び少女が呟く。

「お兄ちゃん…」

そう呟くと少女はクッと顔を上げ男の顔を見上げる。

「えっ!」

そのあまりにも殺気立った視線にメリスは息を飲む。たらりと額を冷や汗が伝った。 これだけ離れているメリスですら冷や汗をかいたほどである直視された男の額からはメリスと同じように冷や汗が吹き出し生唾を飲み込んだ。

「あっ……て、てめぇ…」

リーダーの男は拳を握ろうとするがそれをやめ「ケッ!」と何か言い残し取り巻きを連れてその場を去っていった。 男達が去って行くと少女は再び無表情で窓の外を眺め出した。

(な、なんなの今の……彼の娘は一体…)

果たして彼女は一体何者なのか……



「いやいやいやぁ…あんなのは全く物騒で行けないね」

額の冷や汗を拭ったメリスに何者かが話しかけて来た。空気の読めない奴めと流し目でその声の主の方を見る。 そこには見るからに軽そうな巫山戯た顔立ちの男が座ったメリスに話しかけて来ていた。

「なに? 身体とかそう言うんのならお断り」

メリスは冷たくあしらう。

「違う違う。俺をあんな下品な連中と一緒にするなよ。俺は眠りネズミ。皆からはネズミって言われてる。よろしくな」

ネズミと名乗ったその男は言い終わると同時に握手を求めて来たがメリスはそれを無視して話す。

「意味のない自己紹介ありがと、ネズミさん。で何の用なの?」

「まあ用ってわけじゃ無いけどさ。暇そうにしてたし俺が話し相手になってあげようかと思ってね」

メリスはめんどくさい奴に出会ったなと顔を歪めた。

「へぇ~優しんだね。ほんとありがと。お気遣い有難いんだけど私今窓の外の人とお話ししてるの。ほんとごめんね」

「中々面白いこと言うネェ。さすがナイネトラズに来るだけのことはある。でもさ、こんな若いのにどうやってナイネトラズ行きを勝ち取ったんだ?」

ネズミの言葉にメリスは今まで溜まっていた鬱憤を吐き出した。

「はぁ〜ッ、丁度いいから聞いとくけどさ。さっきからナイネトラズに行くと危ない、ナイネトラズに行けるなんてラッキーとかさ。なんなの一体? ナイネトラズってそんなすごい場所なの?」

その言葉を聞き今まで笑っていたネズミの顔が一変し急に真面目な顔になった。

「は? 冗談だろ?」

「なにが?」

「だったらナイネトラズを知らない奴がなんでこの船に乗ってるんだよ」

「は? 知らないわよ。私だってあなた達と同じ様に罪を犯して普通に判決喰らって刑務所に叩き込まれるんじゃ無い。それとも自分は何処何処の監獄に行きたいであります、って言うわけ?」

メリスが小馬鹿にした様に言うのをネズミは唖然とした顔で聞いていた。

「お前…マジかよ…こんなことってあるのか…?」

「何?」

「いいか……お前がマジにナイネトラズのことを知らないまま本当に便宜上ナイネトラズ監獄に送られることになったんだとしたらそれは……」

「何よ…それがなんなの?」

「そりゃ奇跡だぜ! あんた凄くツイてるよ!」

ネズミは興奮気味に言ったのを見てメリスは再びため息を付いた。

「どこがツイてるのよ…全く…初めて会ったのがあんたみたいなのってだけで既にツイてないのに…」

「まあそう言うなよ。少なくとも他のどの監獄へ行くよりも自由で楽な監獄だぜ。囚人達の間じゃワンダーランドって呼ばれてるぐらいだ」

「なんでそこまで言われてるの?」

「いいか? ナイネトラズ監獄ってのはな、この船で向かってるってことでわかる通り絶海の孤島にあるんだ。ああ、お前の言いたいことは分かってるさ。そんな監獄は他にもあるって言いたいんだろ? 違うんだよ。確かに島全体が監獄ってのは良くある話だ。そしてナイネトラズもそうだ。だがな、ナイネトラズには他の監獄にはない物がある。なんだと思う? それはな……街だよ。街」

「街?」

メリスは首を傾げた。

「ああそうだ。ナイネトラズはあんな狭っ苦しい塀の中や牢屋に入れられるわけじゃぁない。囚人は作られた都市の中に野放しだ」

「そんな馬鹿みたいな話…」

「ああ俺も最初はそう思ったさ。でも本当だ。俺が今まで嘘付いたことあるか?」

今初めてあった、とツッコミを入れようとする隙間もなくネズミは続ける。

「どこの誰が作ったのか分からねぇが自由な環境の元での囚人の矯正を云々言って作った場所らしい。確かに作られた当初はそれなりに管理も厳しかったらしい。でもな今は違う。街に解き放たれたらそれでお終い。新しい人生の幕開けってわけさ」

「それでお終いって警察は何にも?」

「ああほとんど介入することはない。 だから無法地帯さ。捕まることなんて一生ないだろうな。なぜかって?そりゃもう捕まってるからだよ! ハハハハハハッ!」

ネズミが笑うのを呆れた様な目で見つめる。

「じゃあそこから逃げ出したり…」

「そいつは出来ねぇ。なぜか分からねぇけど島の周囲の警備は恐ろしく厳しい。それに人喰いザメがウヨウヨいるしな。 まああいつらの考えとしたら檻の中で好き勝手させといたら犯罪が減るからいいだろ、みたいな理屈だろ。でも安心しな。暮らせば出て行きなくなんてなくなるさ。彼処なら中で働いて金を稼ぐコトもできるからな。 まあ基本シャバと同じ暮らしができるぞ。これで言った意味が分かっただろ?おまえはツイてるって」

「は?」

「だからつまりここの監獄の人気は有数なんだよ俺も戻って来るのに苦労したぜ。色々裏で手を回したり賄賂渡したりよ。やっとの事でここまで漕ぎ着けたんだ。ここにいる殆どがそうやって何らかの裏ルートを使ってナイネトラズへ行くために画策してきた奴らだ。だから何も知らないのにナイネトラズへ行ける君はほんとツイてるんだよ」

「話聞いてるとなんだかあなたは前にそこに居たみたいじゃない」

「ああそうさ。居たよ2年前。ひょんなコトから刑期超過がバレてそのままシャバへ送り戻されたってわけ」

「なるほどね。だから詳しいわけだ」

「そりゃナイネトラズの情報なら俺になんでも聞け全部教えてやるよ。何せおまえは初めて…」

話している途中だったネズミは急に黙り顎を摩って何かを考えた様に口を開いた。

「初めてってことはお金も1ドルも1セントも持ってないのか⁉︎」

「当たり前でしょこっちは監獄に行くのよ」

「はぁー… そりゃマズイぜ…普通の監獄ならもちろん金は要らねえが、ナイネトラズは別だ。住む場所も食事も全部自分でなんとかしなけりゃならねぇんだよ」

「は?そんなの聞いて無いわよ⁉︎」

「まあここに来るのはそれを了承の上で来てる奴らだからなぁ…困ったな……」

ネズミは顎を摩って再び長考したあと顔を上げ頷いた。

「よし! 俺も偶々話しかけた女の子を見捨てる様な男じゃねぇ。分かったよお前は暫く俺といろ。最初にいる資金は俺が全て貸してやる。もちろん要返却だがな」

いきなり言い出したネズミはやれやれと目を瞑って首を振ったが彼の話を聞く以上頼らない他は無いと考えた渋々了承した。

「分かった。でもそんなにいきなり馴れ馴れしくするのはやめてほしいわ」

「悪いがこれが俺の性格なんだ。自分でもいい性格だと思ってる。そういや名前をまだ聞いて無かったな」

「メリス、メリス・リベラル」

「そっか。よろしくなメリス」

ネズミが握手を求めようとしたその時、ネズミの背後からメリスを下品な声で呼ぶ声があった。

「メリスって言うのかぁ…いい名前だなぁ?」

メリスはその姿を見て生唾を飲み込んだ。


ーー続くーー

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