表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IN THE CITY  作者: ふわ 優
RABBT CHASE
1/5

その1


原作、ストーリー構成を考えてくれた都築マンに敬意を表して…


ぼちぼち書いていきます 

その1




ーーーーーー



「そろそろ吐いたらどうなんだ、えぇ? 」

「………」

「君もなかなか粘るネェ……かれこれ6時間かぁ……全く骨が折れるよ、えっと名前は…メリス・リベラルか…18歳女、フローレンスハイスクールの高等部かぁ…将来有望の女の子が殺人ねぇ…」

「………」

「なぁメリス、俺は今から独り言を言うからどうか聞かない方がいいよ……このまま何時間もさぁ取り調べ続けるよりもさっさとやりましたって言えばさぁ… 普通に殺人罪に問われるよりもさぁ…刑は多少軽くなるのになぁ……たとえやってなくてもさ俺ならそう言うだろうなぁ…それが人生を上手く切り抜ける方法だと思うがねぇ。 よく言うだろ、正直者はバカを見るってさぁ……あぁ…目の前の綺麗なロングヘアーの御嬢ちゃんを救ってあげたいよなぁ…御嬢ちゃん嘘でもいいからやりましたって言わないかぁ……」

「………」

死んだ魚のような目でジッと一点を見つめていたメリスをチラチラと見ながら取り調べ役の刑事は大きな声でそう言った。

刑事はグググッとメリスの目の前まで顔を近づけさあどうする?と言わんばかりに首を傾げニヤリと笑った。 その中年顔は小学校の時の数学のディッチに似ていた。ディッチは小学生だったメリスを襲おうとした変態教師である。メリスはああなるほど無性に腹が立つのは恐らくこの顔の性もあるのだなと変に納得し煙たそうに顔を背ける。

その瞬間、今まで柔かだった刑事の顔は豹変し、メリスのロングヘアーを掴みそのままテーブル顔をに叩きつけた。

「このクソガキッ! いつまでもおまわりさんが優しいと思うなよぉ、さっさと言やあいいんだよ、やりましたってなぁ……証拠だって掴んでるんだ。いつまでも大人をからかうのもいい加減にしろよ…えぇ?」

冷たい鉄板製のテーブルに頬を押しつかられたままメリスは何でこう取調室という所は息苦しく薄暗いんだろうと思った。

メリスには取調室に唯一取り付けられた窓から見える青空がやけに腹正しく見えた。

全てが狂い出したのは昨日の夜…いや元を正せばハイスクールに入学したその瞬間からであろう。 メリスは窓の外を眺めながら今までのことを思い出していた。



フローレンスハイスクール、それが3年前メリスが入学したハイスクールである。地元でも有数のハイスクールでありそこに通えば明るい未来がハッキリとまるで霧が一気に晴れるかの様に見えると言われるほどであった。

無論メリスもその霧を晴らす為必死に勉強を続け、なんとか入学することが出来た。メリスの住んでいる地区では史上2人目の入学者だった為地区を上げてお祭り騒ぎとなりメリスの入学を祝った。 メリスもその光景を満足そうに見ていたことを覚えている。 それに加え自分以外のスクールへ通うものを見下していた。

しかし現実はそう甘くなかった。 入学したものの周りのレベルには到底追いつくことが出来ずスクールの中でも地の底を這いずり回ることしか出来なかった。

同じ地の底を這いずり回っていた連中もいたが元々プライドが高かったメリスはそんな連中ととても仲良くなる気は無かった。と言うよりもなれなかったのだ。傷の舐め合いだけは絶対にしない。メリスはそう決め孤独に勉強し続けた。 しかしスクールの教師達も底辺を這いずり回るミミズ達は相手にせず成績のいいものだけを相手にした。

それでも必死に食らいついたメリスだったがある教師の言った

「人間には限界がある。成績が上がらない物はもうそこが限界だ。私達は限界に来ていない者に指導するのが仕事だ」

と言う言葉がメリスの最後の希望を砕いた。 その砕いた音は膝の皿を割った時の音によく似ていた。

メリスは頑張るのを辞めた。自分はここが限界なのだと知ったのだ。

しかしなぜかプライドだけは捨てることが出来なかった。 その変なプライドが彼女を縛り付けていたのだ。

そうあの日の夜もそうであった…

メリスが取り調べを受ける前日である。 その夜メリスは母とアカデミアへの進学について喧嘩をしていた。 いや最初は喧嘩では無かったのだ。メリスが不意に漏らした将来像と母親の描いていた将来像が全くと言っていいほど違ってしまっていたのだ。そして徐々に口論は激しくなり最終的には罵倒のキャッチボールとなった。

メリスはその口論に今まで溜まっていた全てを吐き出した。

そして

「これからは1人で生きてく!」

と言い放ち家を飛び出した。 時計の時刻は11時45分を指していた。



街中に住んでいた彼女は繁華街をぶらぶらと歩きそのままさみしい裏路地へと入って行った。18歳の年端もいかない少女が深夜の街中を闊歩するのは危険極まりない行為であった。 しかしその恐怖に打ち勝つだけ憤慨していたのである。

思えば昔から両親は自分のことをあまり良くは思ってなかったのでは無いか…メリスは考えた。 メリスには本来3歳年上の姉がいるはずだった。 しかしその姉は母の病気により流産した。 その3年後に産まれた念願の子供であるメリスは必要以上に可愛がられた。 しかし母はメリスが何か間違ったことをした時には、死んだ姉だったらこうはならなかっただろうとよく言っていた。

メリスにはその言葉が辛く重かった… もし姉が死んでいなかったら、自分は必要では無かったのか… そんなことを考えながら街灯が寂しく光る路地の先をボンヤリと眺めた。

その時で有った。路地の先に電灯に照らされ何かが立っていた。 よく目を凝らして見てみるとそれは白いウサギの頭をした男だった。 ウサギは仕切りにポケットから取り出した懐中時計を確認していた。

(何あれ…)

メリスが首を傾げたと同時にウサギはくるりと向きを変え走り出した。メリスは気がつくとそのウサギを追って走り出していた。

ウサギはビルとビルの間を華麗に走り抜けネオンの中に消えて行く。 なぜこの男を追いかけているのか全く分からなかった。 しかしこのウサギを追い掛けた先に何か楽しいものがある、そう思えたのだ。

疎らにいる人の間を縫って走り抜けるウサギを追いかけるメリスの口元は緩んでいた。 体に感じる風が心地よい。

ウサギは繁華街を抜けひと気のない路地裏へと入って行く。 ウサギはボロアパートの非常階段を駆け上がり、そしてアパートの一室へと消えて行った。

(行ってはいけない…) 読者諸君ならこう感じたであろうがこの時メリスが感じていた名状し難い高揚感はそんな思いが滑り込む余地は無かったのである。

メリスは息を整えながら階段をゆっくりと駆け上がる。

【301】 それが部屋の番号であった。 メリスはゆっくりとドアノブに手をかける。

恐怖とも興奮とも呼ばれぬ気分が一気に食道を駆け上がったがメリスはそれを生唾と一緒に飲み干した。

ガチャリと少し錆びつき回しにくくなっていたドアノブは回転しドアは開いた。

部屋は7畳ほどの狭い部屋で電灯が天井からぶら下がり赤く弱々しい光で部屋を照らしており、部屋の中央にはダブルベッドがあり真っ赤なシーツが敷かれていた。部屋の隅に置かれていた棚にはビッシリと赤いコンドームとピルが並べられていた。

(何ここ…) 今まで無かった恐怖心が一気に蘇ってくる。 窓の外のネオンを見て安心感を得ようにも窓には赤いビニール袋が隙間なく貼られており外界を望むことはできない。 一気に唾の量が増える。 手には汗が滲む。

(逃げなきゃ…)そう思い振り向いた時には既にコトが起きていた。

空中を舞う折紙で折られた赤い蝶々達。それは赤い折紙で折られた為に赤いのか?それともこの部屋のせいか? 何にせよこの状況はマズい…

そして次第にメリスの視界がぐるぐると回転をし始める。 薄れゆく意識の中でメリスが見たのは戸口で此方をジッと見つめるウサギの姿であった。

(あのウサギの頭は被り物か……) 被り物の間から覗く首筋に独特の傷痕が見えた。



次に目を覚ました時、メリスは例のベッドで寝ておりその隣には全裸の男が寝ていた。

「はっ⁉︎」

驚いたメリスはベットに手を付き飛び起きようとする。しかしその瞬間手にヌルりと奇妙な感触が伝わりズルりと滑りベッドに倒れこむ。

なんだこれは…そう思ってメリスは自分の手を見る。そこについていたのは真っ赤な血であった。 その血は彼の腹部からベッドに流れ出していた。

「は? は? なんなの…なんなのこれ………」

ベッドからなんとか這い出し状況を確認しようとする。 しかし全く状況が分からない。 今は一体何時だ。 朝か?夜か? 足元にはベットリと血のついたナイフが落ちていた。 まさか自分が? いやそんなはずは無い。しかし彼女には否定できるほどの根拠も無かった。 自分がこの部屋に入ったところまでしか記憶がないのだ。

ヤバい…これは本当にヤバい。メリスがこの部屋から走り出ようとしたその瞬間、ドアが勢い良く開き銃を構えた警察が流れ込んできた。

「止まれ! 手を頭の後ろに回してその場に跪け!」

なんだこの状況、まるで自分がこの男を殺したようじゃ無いか… そしてそのままメリスは手錠を掛けられた。


「ーーーーー聞いてるのか! おいッ! このクソガキッ!」

耳元で大声で叫ぶ刑事の声でメリスは現実に引き戻された。 もうどうしようもないところまで来てしまった。 自分が殺したのかどうかさえ分からない。 どうせこのまま無実を証明し何時もの生活に戻ったところで何がある? また辛く何の味気も無い生活が待っているだけでは無いか… そんな考えがメリスの頭を駆け巡る。

その時、取り調べ室のドアが開き1人の男が入って来た。男は刑事に駆け寄り耳打ちし退出する。

男がいなくなると刑事はスクッと姿勢を戻し襟を正してニヤリと笑った。

「よかったなぁメリス・リベラル、お前は監獄行きだ。しかもとぉっても素敵な監獄だよぉ。君は本当にラッキーだなぁ。ラッキだぁ」

ニヤニヤと笑いながら話す刑事をメリスは睨み付ける。

「どこだと思ぅ? 彼処だよ、監獄都市ナイネトラズ」

「ナイネトラズ……」

メリスはぼそりと復唱した。


ーー続くーー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ