自衛官、惨殺
血が噴水のように飛び散り、休日の街を闊歩していた周囲の人間を赤く染めた。赤く染まった人間の中にはすでに息絶えているものもあった。
スライムのような形をした何かは軟体から突き出た爪を震い、もう一人、また一人と人を殺める。
この平和な日本に突如、何の前触れもなく出現した何かが、片端から人を襲っていた。
駆け付けた警官が、その何かに対し拳銃を放った。
ビル街に響く轟音とともに、火薬の臭いが周囲にまき散らされた血のにおいに混じる。
弾丸は間違いなく対象に命中した。遮蔽物はないし、ほとんど零距離射撃で撃ち込んだのだ。
空砲でもない。確認した。
にもかかわらず、その何かの体には風穴一つ空いてはいなかった。
それどころか弾丸が体表で止まっている。透明な体表に一点だけ黒い点がついているので、はっきりとわかった。
警官はようやく理解した。目の前の物体が常識の通じない化け物だということを。
だがその警官は責任感が強かった。国民を守るという自分の使命を忘れず、拳銃が通用しないと見ると警棒を腰から引き抜いて伸ばし、打ちかかった。
――――――いったいこいつが何なのかはわからないが、少しはひるむはず。
剣道三段の腕前と高校時代インターハイに出た実績が警官の体を動かし、打ちかからせた。
化け物は警棒で打ちかかられ、頭の位置に警棒が当たり、人間ならば頭蓋骨が粉砕されるほどの衝撃を受けた。
にもかかわらず傷一つない。掻痒にすら感じていないとしか思えないほどに警棒には手ごたえがなかった。
ショックで一瞬動きが止まり、その隙に警官は腹を貫かれた。
背中から血まみれの爪が生え、口内から下血して体がぴくぴくと震える。
警棒が警官の手から滑り落ち、血まみれの地面に当たって乾いた音をたてた。
銃はおろか大砲すら効果がないと確認されたのは、出動要請により数時間後駆けつけた、自衛隊の一個小隊が全滅した後だった。